第十四話
「あ、やべ。これやばい、めっちゃやばい。ちょーやばい」
エドガーはブツブツとそんなことを呟いていた。
提案したのは自分だが、まさかここまでとは思わなかった。
圧倒する力を前に、エドガーは冷や汗をかく。
ルイの方を見れば同じように感じているのだろう、恐怖の表情で固まっている。
サラはただ相手を見据えていた。
そこに一切の感情は見えない。
ちらり、とシャルの方を見る。
目が合ってものすごく嫌そうな顔をして舌打ちされた。
目の前には幾多の参加者を大きなメイスで薙ぎ払う、身の丈3mほどの巨人。
しかも見覚えのある宗教の法衣を着ている。
状況が状況でなければ土下座して謝っているところだ。
……目の前の巨人の持ち点、159。
遡ること一時間ほど前。
大所帯のパーティーを倒したところで少し休憩を取った。
準備運動がてら走った事で少し体力を消耗しているのもあるが、エドガーの傷の手当もしなければならなかったからだ。
上半身を裸にして消毒液を浴びせるようにつけられ、エドガーはその痛みで眉根を寄せる。
「治癒魔法しないの?」
ルイは水筒の水を飲みながらその光景を見ていった。
「この程度ではしない」
そう言いながら闘技会参加者に配られているカード状の魔法具を操作している。
その魔法具は参加者の持ち点や位置が表示されるようになっている。
検索機能もついていて、現在の持ち点ランキングとかも出る便利グッズだ。
「下手に治癒魔法するといざ使うって時に効きが弱くなったりするからな。それにあんまり多用するとイキモノが本来もってる自己治癒能力がさぼりやがる。だから本当の緊急時以外はつかわないな……今回は使ってもいいのよ?」
「却下」
「駄目です」
包帯で巻かれながらがっくりする。
……痛いのに。
「だああああああああああああ!!もうどうせ怪我するなら少ない回数で終わらせたい!むしろ終わらせろ!!それかせ!!!」
そうしてシャルが持ってる魔法具をひったくって操作する。
はじき出したのは持ち点ランキング一位。
ブラウン・ランディッド。持ち点76。
「よし、こいつ行こう!これいこう!そうしよう!!!そうしろ!!!」
「もうちょっとコツコツした方が……」
「嫌だ!どうせ怪我するの俺だもん!どうせ戦うなら強い方がいい!!遣り甲斐もあるし!!!」
サラやルイの制止も聞かず、子供のように駄々をこね続けた。
難関と言われる資格である一級魔法士を持つ者が。
「……巨人族」
持ち点目当てで群がる参加者を薙ぎ倒し、メイスを振るごとに光の粒子にしていく姿を見てシャルはそうつぶやいた。
人間の手が届かぬ山奥に住むその種族を、書物以外で見るのは初めてだった。
巨人族は滅多なことでは山を降りないと言われているだけあり、会った人間は少ないと言われている。
それは人間よりも背丈が大きいのもあるが、力が尋常ではないからだ。
デコピン一発で人間を500mは飛ばせるとか飛ばせないとかそういう噂もある。
そうこうしている間にもブラウンの持ち点は上がっていく。
あらかた周りの参加者を光の粒子にしたところで、シャルたちの方をギラリと睨みつけるようにして向く。
そしてニタリと不気味な笑みを浮かべ、シャルたちに近づいてくる。
それを見て一斉に構える……ルイを除いて。
ルイは恐れからかその姿に見入って動かない。
パン、パン、とメイスを棒切れのように手に打ち音を鳴らす。
その視線がルイの方を向く。
「ルイ!!!!構えろ!!!!!!」
シャルがそう怒鳴ったのとブラウンがルイ目掛けて突進したのとは同時だった。
「……え?ひゃっ!」
ルイの構えと防御が一瞬遅れ、逃げることも避けることも受ける事も出来ずにいる所にブラウンはメイスをバットのように振る。
その一瞬に風の壁ができるがそれでもその圧倒的な力に耐えられなかったのか、風の壁ごとルイは高々と吹き飛ばされた。
シャルは早々にチェーンの媒介を発動させ、ルイの着地点に風のクッションを設置し全員に身体能力と防具の耐久を上げる魔法を掛ける。
その間にもブラウンはサラに向かっていく。
どうやら力だけでなく、速さもある程度あるようだ。
サラは振り下ろされるメイスを剣で受け流し、横に避ける。
直後、エドガーが背後からとびかかる。
「『炎と耐性を拳に』」
そう言って殴ろうとしたところを、そのままメイスを振り飛ばされる。
「……うわぁ……ホームランだぁ……」
ルイは先ほど自分もなったエドガーの状態を見て呟いた。
シャルは飛ばされて宙に浮くエドガーに向け、風でできた壁を設置する。
くるん、と体勢を変えその壁に足をつけ、思いっきり蹴る。
その瞬間に速度を上げ、元素を集まりやすくなるように魔法を掛ける。
エドガー比、8割増しである。
サラが独りブラウンの相手をするのはさすがに苦しいのか、つらそうな顔をしている。
受け流しているだけなのに手がしびれてきているのか、カチカチと剣が震えて鳴る。
それを見てルイはようやく我に返り、駆ける。
そうしてブラウンに向かって薙いだ。
シャルはその間にルイの剣に風の属性を付与する。
サラはそれを見て踏ん張って耐える。
「「いっけえええええええええええええええええ」」
ルイの薙いだ時にできた風の刃が当たるのと、エドガーの威力八割増しの炎の拳がブラウンに当たるのはほぼ同時だった。
爆発が起き、サラは後ろに飛ばされたのが見え、シャルは風のクッションで落下ダメージを防ぐ。
「……や……やった?」
ルイが息を切らして言う。
シャルはそれに答えず、パン、と両手を合わせる。
「『命の恵みに命じる。わが声を聞き願いを叶えよ』」
そう言った直後両手を地面と水平に横に上げる。
シャルを中心とした円が地面にでき、そこから淡いオレンジと緑の光がふよふよと漂い出る。
視線は爆発した中心を見据えてる。
「『エドガーとサラに癒しを。そして我らに加護を』」
煙が晴れていく。
サラは剣を支えにしてゆっくりと起き上がる。
左手がだらんと力なく垂れ、頭からだらだらと血を流している。
エドガーは爆発地点のすぐ近くでまだ起き上がれないでいる。
そして……
「……う……嘘だぁ……」
がくんと、膝の力が抜ける。
爆発の中心に片膝をつき頭から血を流しながらも、ニヤリと不気味に笑っているブラウンの姿がそこにはあった。




