第十三話
パーティー戦は持ち点1から始まる。
そこから他のパーティーを倒すと、その倒したパーティーの持ち点を奪うことができる。
仮に持ち点を奪い続け10持っているパーティーがあれば、それを倒すと一気に持ち点が10増えるというルールだ。
勿論倒されたパーティーはリタイア扱いである。
さてトドメを刺された、降参した人はどうなるのか、というと待機テントに転送されることになる。
トドメを刺すというより、刺されて死が確定した瞬間に転送されるので死ぬという事はない。
まぁ、それがトラウマとなって二度と復帰できない人間も少なからずいる。
そんなトラウマを長い年月をかけ克服したパーティーがある。
50人ほどいる大所帯のこのパーティーは5年ほど前にもこの闘技会に挑み、見事に敗れた経験があった。
リーダーの男は願掛けに伸ばしたチリチリパーマをリボンで一つに束ねてバンダナをつけ、無精ひげというどこの海賊だと言わんばかりの出で立ちだった。
自分に厳しく仲間思いの彼は、仲間たちからとても慕われる良きリーダーだった。
仲間たちと今までの苦労や鍛錬を思い出しては励ましあい、また一つ、また一つと勝利をものにしていく。
今年こそは、という思いが彼らを一つにしていった。
5年前のようにはなるまい、と誰もが思っていた。
……そう、18歳の少女と12歳の少年2人の3人パーティーに一瞬にして敗れた5年前とは違うのだ。
「て、敵襲!!!!数4!つっこんでくるぞおおおおおお!!!!」
思い出して硬く拳を握っていたところに、見張り役のメンバーがそう叫ぶ。
男たちはそれぞれ武器を構えたり詠唱を始めたりして応戦するが、後にこのことを「台風一過」と呼ぶことになる。
「いいか、俺らの事は気にしなくていい。前だけ見てろ。俺たちを守ろうとしなくていい。後ろは俺らが何とかする」
エドガーは前を走るルイにそう念を押した。
ルイは頷き、両手剣を構える。
すぐに振り回せるようになっているその構えは、グレイス校の英雄のものと似たもの。
本当に好きなんだな、とシャルとエドガーはその姿をみて苦笑する。
目の前には大所帯のパーティー。
シャルは指輪の媒介だけでは対応しきれないと踏み、右側のベルトループに渡すように掛けてあるチェーンを撫でる。
「『セット』」
チェーンに着けられてある色とりどりの石が光り、そこから青白い光でできた様々な文字や図形がシャルの周りにふよふよと漂う。
そのうちの右側にあった一つの文字に右人差指から小指までの4本で触れ、そのまま前へ撫でる。
身体能力が上がる魔法がルイ、サラ、エドガー、シャルにかかる。
その直後一番前を走るルイが文字通り敵を薙ぎ倒していく。
それで倒せなかった敵をサラが対応する。
サラはルイとは違い的確に急所をついていく。
横を通り過ぎるだけで敵が倒れるように見えるほどの速さも兼ね備えていて、その辺はさすがだとエドガーは感心する。
エドガーはエドガーで魔法士を中心に攻撃魔法をしていく。
勿論相手もその対応はしてくるが、エドガーはお構いなしに魔法をぶつけていく。
頭で考えて魔法を撃つのはどうにも肌に合わないのだ。
その頭で考えて魔法を撃つ役割を果たすのがシャルだ。
エドガーの数うちゃ当たる的な攻撃にため息をつきながら、元素が集まりやすくなる魔法を掛ける。
軽く3割増しにしたのだが、反動も大きく下手をすればエドガー自身がぶっ飛んでいきかけない。
いきなり威力が上がり、爆風で相手の魔法士がぐらつき防御魔法が揺らぐ。
一緒にエドガーも吹っ飛びかけていたが、何とか耐える。
「増やすなら増やすって言えええええええええええ!!!!『大地の槍よ、彼の者たちに向かい爆ぜよ!』」
半ば八つ当たりのように地面に拳をぶつける。
地面が円錐形に盛り上がり、それを避けたり防御結界を張りなおした真横で爆ぜる。
威力と音量三割増しの爆風と爆音で魔法士の何人かは卒倒する。
何とか意識を持っている者でも、擦り傷や火傷などの傷を負っていた。
シャルはエドガーの言葉なんて聞いていないかのように文字に触れて魔法を放つ。
ルイが薙いだ瞬間に武器の重さを変えて威力をあげてみたり、なんとなく属性をつけてみたりしたら、
「私、剣で人飛ばせるぐらいの風が出せるようになった!」
と自信をつけてしまい相手の人が可哀想なことになってしまってちょっと後悔した。
サラにはその技術が一層際立つように光りの加減を変えたり、技を繰り出す瞬間に速さをあげてみたりしたのだが、どうもしっくりこない。
それどころか振り返って微笑まれた。
……サラに手を出すのはやめておこう。
試行錯誤をしていると視界の端で元素が揺れるのが見えた。
結界魔法を張った瞬間、カキイイイイイイイン、キイイイインという金属がぶつかる音がする。
そちらに視線を向けると、チリチリパーマの男が両手に刀を持って結界を攻撃していた。
「また会ったなあ、坊主。嬉しいぜぇ」
血走った眼を向けられてシャルはぞわぞわと鳥肌がたった。
「5年ぶりかあ?お前らに味あわされた地獄、倍にして返してやるぜ」
ニタニタと憎しみのこもった笑みをシャルは冷めた目で見る。
その間にもエドガーに支援という名目の嫌がらせはやめない。
「おまっ!シャルううううう!!!!俺が死ぬ!俺が死んじゃう!!リタイアしちゃう!!」
そんな叫びが聞こえた気がするが、気のせいだな、という事にして続ける。
「あほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
なんだかんだ言っても何とか出来てるあたり、流石一級魔法士と言ったところか。
どれも間一髪でしのぎ、標的を倒していく。
「お前、聞いてんのか!!」
言いながらキンキンと結界に刀を打ち続けている。
ビシっとひびが入り、それはミシミシと音をたてながら結界全体に広がり、音を立てて砕け散った。
男は好機、とカマキリのように両手の刀でシャルをはさみ切りにしようとしようとした瞬間、足元から伸びてきた蔦に全身を絡め取られ締め上げられる。
シャルが触れる図形は赤く光っていた。
「……しらないし、聞いてない」
キリキリときつく締めあげられていく。
足が浮き、手がしびれて刀を落とす。
気が付けば爆発音も叫び声も苦痛を訴える声も詠唱する声も聞こえない。
ただ首元に冷たい感触が二か所あるだけ。
男はうなだれ「降参だ」とつぶやき、光となって弾けて消えた。
それを見届けてルイとサラは剣を鞘に納める。
エドガーは所々擦り傷やら火傷やらでボロボロの身体を全力疾走させてシャルに体当たりした。
が、ひらりと避けられ大袈裟に転び転がっていく。
「いてて……この馬鹿シャル!!!!俺を殺す気か!」
「それで死ぬならそれはエドガーじゃないな」
「いや、俺だって死ぬから!死ぬから!!!いやマジで!!!」
シャルの襟元を持ってグングンと前後に揺らす。
その状態でシャルはルイとサラに顔を向けていった。
「とりあえずおつかれ」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
ルイとサラはほぼ無傷のようで、笑っていた。
「ねぇ、俺は?俺にお疲れは?俺にはあああ?!!!!」
エドガーに揺らされながら空を仰ぐ。
あと何回戦えばいいのか、考えるだけで面倒くさくなった。
現在の持ち点、16。




