第十二話
「我が愛し子たちよ!よくここまで大地を元素で潤し、実り良き年にしてくれた!そして我が民たちよ!よくここまで大地を耕し育み、実り良き年にしてくれた!さぁ今年も祝いを始めようではないか!!」
フランはいかにも王子様のような煌びやかな衣装をまとい、キュレスティアのバルコニーに立って高々と言った!
町中から「うおおおおおおおおおお!」という歓声が地鳴りのように響き渡る。
ホーリーガーデンフェスの幕開けである。
闘技会パーティー戦選手の控えのテントで、シャルは黙々と彫刻にいそしんでいた。
材料はルイの両手剣の刀身の中心部分である。
ルイは愛剣をはらはらしながら見ていた。
出し渋ったり文句言おうとしてみたりしたら思いっきり睨まれた。
エドガーがすかさず「怒らせたら後が怖いぞ」と言ったので、されるがままになっている。
慣れた手つきで刀身に一筋の文字が刻まれていく。
「……媒介」
作業しながらボソっと言われ、ルイは困惑したように首をかしげる。
軽く泣きそうな顔をしているのを無視してイライラしたような声でもう一度言った。
「早く媒介出して」
右手首に着けていたオレンジと空色の直径1cmほどのビーズでできたブレスレットを外して渡す。
「な、なにしてるのか教えてくれてもいいと思うの」
シャルに少々ビビりながら言うルイに、フェスの分厚いパンフレットを読みながらエドガーが答える。
「魔法を掛けやすいようにしてるんだ。そうやって印をつけておくと目視しなくても当てられる。俺のにもついてるぞ」
そういってナックルを見せる。
持ち手部分にかなり深めに刻み込まれていた。
ビーズの一つに同じように刻み、ルイに渡す。
「サラ」
呼ばれてサラも媒介をだす。
それは紫色の米粒大の花の形をした石がいくつか紐で繋がれ、指輪になっているものだった。
それを見て眉根を寄せる。
流石にそれに刻印は難しいらしい。
シャルは髪を一本抜き、それに何度か巻き付けて適当に括って長すぎるところを切った。
「作戦をもう一度確認するぞー」
パタンとパンフレットを閉じ、エドガーは大きめの声で言った。
「はいはーい!突っ込んで切り込みます!」
「私はルイさんのサポートを」
「俺は適当に魔法を撃って撃って撃ちまくる」
「……全体的にサポート」
周りの選手たちが笑ったりぎょっとしたり不快な顔をしてシャルたちを見ていた。
そんな適当な作戦を大声で話すな!!!
パーティー戦は個人戦と違い、闘技場では行われない。
試合の様子は闘技場で巨大な球状の水晶を使い観れるようにはなっているが、実際の試合はキュレスティア裏にある裏山で行われる。
数年前からバトルロイヤル方式がとられてから一気に参加者が増えた。
とはいえ、それでも参加者が多すぎるので予選は何組かに分かれることになる。
シャルたちは幸か不幸か一組目だった。
魔法陣で裏山のスタート位置に転送されたが、あたりに人の気配はない。
どうやらパーティごとにスタート位置は違うようだ。
ルイは両手剣、サラは片手剣を持ち、それぞれ重すぎず動きやすい程度であるが鉄製の防具もつけている。
シャルは黒色の、エドガーはオレンジ色のフード付きパーカーとデニムのズボンという一見戦闘には向かない、ただ動きやすいという事だけを重視したような服装をしていた。
「……ねぇシャル」
「……ん」
「メガネかけてないけど見えるの?」
ルイは心配そうに顔をのぞき込んで目の前で手を振る。
「見えてるよ。そもそも目、悪くないし。元々見えないようにする為のメガネだし」
「……は?」
意味が分からないといった顔をしているルイに、エドガーは苦笑する。
「余計なものが見え過ぎるんだと。元素まで見えるらしいから相当鬱陶しいらしいぞ」
「いや、そもそも元素って普通見えないでしょ」
と顔の前で手をナイナイと横に振って、ありえないありえないと半ば呆れたように言う。
「まぁ、体験したらわかるって」
にやにやと楽しそうに笑う。
その時、ドーンという予選開始の合図である大砲の音が聞こえた。
「「「「起動」」」」
四人の媒介が光りだす。
ルイは鞘から剣を抜き、サラは柄に手をかける。
そしてシャルが何か言ったと感じた瞬間、足元に四人を囲む魔法陣が現れ壁を作る。
直後壁に何かがぶつかり、爆発音が響く。
ルイが攻撃されたと気が付いたのは対戦相手が見えてからだ。
しまった、出遅れた。
焦った時にはすでに相手は目の前に来ていた。
ルイが駆けた瞬間身体が軽く感じ、そのまま相手に突っ込み両手剣を片手で持ち、薙ぐ。
相手はそれで駆けていた足を止める。
「……的は……ふたつ」
頭が冷えていくのが分かる。
感覚が研ぎ澄まされ、勘が戻ってくる。
「……よしっ」
ルイはまず大柄な斧を持つ男に突っ込んだ。
一瞬で間合いを詰めて再び薙ぐ。
男はそれを紙一重で避け驚いた顔をする。
それは子供、それも女が繰り出す速さと力ではなかったからだ。
ルイは薙いだ遠心力を使って体勢を立て直し、剣を振り回すように振り上げ男に向かって振り下ろす。
その速さは両手剣を使っているとは思えないほどだ。
まるで舞うように振るい、駆け、間合いを詰める。
男はそれを斧で受け流しながらも、少し焦り周りの状況を確認する。
一緒に駆けてきた小柄の男は、サラを目の前にして動かないでいる。
他の5名の仲間たちは、未だ姿は見えない。
作戦は自分たちがおとりになり戦力を削ぎ、その間に相手をつぶすという典型的なものだ。
いつもであれば、そろそろ姿を現して相手をつぶしにかかる頃合いだというのに一向に出てくる気配がない。
そして気が付く。
仲間の気配が一切無いという事を。
「チェックメイト」
視界に一瞬入ったシャルの口がそう動いたのを見た。
次の瞬間、手に持っていた斧が弾き飛ばされていた。
「な、なんなんだお前らああああああ!」
男が怒声を放つのと、ルイが男を突くのとほぼ同時だった。




