第十一話
なんだかんだと3か月が経った。
ホーリーガーデンフェスが始まろうとしている。
ルイが(一応)計画した出し物の魔法陣は、エドガーの頑張りもあり何とか間に合わせることができた。
とはいえ、エドガーの苦労はとてつもないモノだった。
上級魔法士しか購入できないような特殊な材料の買い出しに始まり、組む途中での何度かの挫折、何度も行われるテストでの実験体。
シャルはここぞとばかりに面倒くさい事や痛そうなことをエドガーに押し付けていた。
エドガーが何か文句を言おうとすると、シャルがすかさず本人ですら忘れていた恥ずかしい過去の出来事を、正確な日付と時刻をつけてつらつらと話し出そうとするので何も言えずに言いなりになるしかなかった。
その恥ずかしい過去の出来事の尻拭いをさせられてきたのはシャルなのだ。
たまには自分がまきこまれた面倒事の尻拭いをしてもいいと思う、と勝手に決めて押し付けてたりする。
「わぁー!すっごい、すっごいねー!」
ルイは目の前の光景にはしゃいで声を出した。
空には飛行船や飛空艇、海上には様々な大きさの船舶、陸には馬車やテントがひしめいていた。
これがすべてホーリーガーデンフェスの参加者だとするならとてつもない人数になるだろう。
シャルは若干引き気味でその光景を見ていた。
今はまだ何もないキュレスティアの城下町が数日のうちに祭り支度を整え、キュレスティア理事長の開会の宣言と共に一気に盛り上がる。
世界中から集まる技術の披露のうち、一番盛り上がるのは闘技会だ。
様々な趣旨のものが行われるのであるが、中でも個人戦とパーティー戦が人気で賭けまで成立するほど。
それがひと段落すると、今度は様々な舞踊や音楽が披露される。
最後にパレードや花火、ダンスパーティーで締められ、理事長の閉会の宣言と共に祭りは終わる。
長いようで本当にあっという間の一週間となる。
シャルとルイ、エドガーはサラの案内で、着陸しているひとつの飛行船の前で降りてくる人たちを待っていた。
正装の装飾がされてある制服を着用して。
「うぅ……緊張するぅ」
「ばっか、お客様をお迎えするときはにこやかにだ!」
「そんなこと言われてもぉ……」
上着の裾をイジイジといじりながらそわそわしている。
それを窘める側も貧乏ゆすりが止まらない。
それを微笑ましく思いながら見ているサラの顔も、少し強張っている。
シャルはため息をついた。
……ガコン
音がして目をやると飛行船の扉が開いた。
それを確認して三人は頭を下げた。
たくさんの足音が近くまで寄る。
「長旅お疲れ様です。久々の外はいかがですか?」
サラはにっこりと微笑んで目の前の少女に言った。
「いかがというほどのモノではないわ。まだ何も見てもいないしね……そちらは?」
幼い声の持ち主があからさまに嫌そうな声をしているのが分かる。
「私がお世話になっている方々です。ルイ・ミドルイアさん、エドガー・ブロッドウェイさん、シャル・ランドさんです」
「……そう。顔を上げてくださいな」
言われて三人は顔を上げる。
そこにいたのはまだ10歳ほどの少女だった。
顔立ちはサラを幼くしたような感じだった。
その少女のすぐ後ろには紋章の入った鎧を着た黒と白の騎士二人。
「わたしはサラ・ラベンディス・カドリア。そこの妹と一緒でややっこしいのでフレイアと呼んで頂戴」
そう言ったフレイアはとても妖艶な笑みをしていた。
「……え?」
「……妹?」
ルイとエドガーはサラとフレイアの顔を見比べて混乱していた。
「ええ。こちらは私の双子の姉で、次代の女王となられる方ですよ」
こちらはおっとり答える。
シャルひとり納得したように手を打ち鳴らした。
「フレイア様、そろそろ参りませんと」
黒の騎士は礼をしながらそう言った。
それににっこりと微笑み、そうね、と答える
「では、皆さんまた」
そうしてキュレスティアに向かって黒の騎士と共に去って行った。
白の騎士はサラの前で跪き、サラの手を取って口をつける。
「……お久しぶりでございます」
「ええ。みんな元気そうでなによりね」
そう言ってにっこり微笑んだ。
白の騎士は何か言いたそうにしているが何も言わない。
言えないでいる。
「行ってしまわれましたよ?」
「……あ……すみません。失礼します」
慌てたように手を離し、白の騎士も去っていく。
「……今の白黒の騎士もそっくり!」
ルイは変な空気を気にせず思ったままを言った。
サラはそれに素直に感謝して、そうですね、と答えた。
「彼らも双子なんですよ。王家に仕える騎士なんです」
「きゃー!なんかものすっごく乙女心をくすぐるわ!」
そう言って胸の前で拳を上下に振る。
そうして何もなかったかのようにキュレスティアに戻ろうと方向を変える。
エドガーはサラの腕を掴んでそれを止める。
サラもルイも驚いた顔でエドガーとその腕を見ていた。
エドガーも何か言いたそうにしているが言えないでいる。
口を開こうとはするが、ためらって口を閉ざす。
なんどかそうやっているのを見て、シャルはため息をついてエドガーの肩を叩く。
「とりあえず戻ろう」
そう言って先に歩き出す。
エドガーは手を離し、一瞬苦しそうに顔をしかめてシャルの後に続く。
「……どうしたんだろうね?」
ルイは本当に不思議そうにそう言った。
サラはただ、そうですね、と答えるしかなかった。
「ああああああああああああああああああ!!!」
キュレスティアまでの道中、ルイは何かを思い出したように大声を出した。
びくっとサラとエドガーはびっくりして振り返る。
「なんだよ!びっくりするだろ!」
「いやちょっと思い出した!ごめん!ほんっとごめん!」
顔の前で手をパンっと合わせて頭を下げる。
シャルは本当にうんざりしたように空を仰ぐ。
まだまだ沢山飛行船やらが飛んでいる。
「フェスの闘技会のパーティー戦、みんな一緒に登録しちゃったの話すの忘れてた!」
数秒の静寂。
「はあああああああああああああああああああ!?」
「ホントごめん!マジでごめん!」
ぺこぺこと頭を下げるルイに、シャルは嫌そうに言った。
「……そういうのは登録する前に言ってほしいんだけど……」
それを聞いてルイはちょっと拗ねたような顔をした。
「素直に話したら登録してくれた?」
「しない」
即答したシャルに、でしょー?とがっかりしたように相槌をうつ。
ちょっとは期待していたらしい。
「ルイちゃん、どうしてそうなったのか教えていただけます?」
サラは苦笑しながらルイの手をとって聞く。
それに涙ぐみながらうんうん頷く。
「私グレイス校からの推薦で転入してるんだけど成績が良くなくってさ。魔法陣の成績はよくなったんだけどその他がマダマダなんだよね。それでグレイス校の先生が根性鍛え直してやる!とか言ってて。今回のフェスの闘技会の個人・パーティー戦でいい成績を残せなかったら、剣の鍛錬も怠ってるってことで連れ戻すとか言われたんだよー!私まだ戻りたくないから……」
「おい、グレイス校って国立騎士学校のか?」
エドガーの言葉にルイは頷く。
それにはシャルも目を剥いた。
「なんで騎士学校からわざわざ魔法学校に転入してくるんだよ」
ルイは目を輝かせて言った。
「グレイス校の英雄が魔法も使える騎士だったんだよ!長い金の髪をなびかせ剣を振り、魔法を使う姿はまさに戦乙女とまで言われていてね。今は騎士をやめてシスターになったそうなんだけど。その人に憧れて先生に頼み込んで頼み込んで頼み込んで推薦してもらったんだ」
その話にシャルもエドガーもげんなりする。
どこの誰の話か分かっているが、聞いておかなければならない気がした。
……後々のご機嫌取りのために。
「その英雄の名前は?」
その問いに間は一切なかった。
むしろ、言葉を最後まで聞くことなく答えた。
「セフィリア・ブロッドウェイ様です!」




