アミのコスチューム
いつものように少し暗い個室のソファで待っていると、ドアが静かに開き、アミが入ってきた。
「蓮さん、お疲れ様。……あれ、今日はお仕事、いつもより大変だった?」
そう言って微笑むアミの姿に、蓮は一瞬、息を呑んだ。
今夜の彼女の衣装は、深い紺色に白い三本ラインが入った、どこか懐かしいデザインのセーラー服だった。お店のイベントか何かなのだろう。短く仕立てられたプリーツスカートから伸びる細い足や、少し開いた胸元は確かに刺激的で、本来なら男としての本能を揺さぶられるはずの姿だった。
(セーラー服……。学生の、服……)
けれど、今の蓮には、その衣装が残酷なほど別の意味を持って迫ってきた。
数日前、雨の改札口で見た、すっぴんで熱心に専門学校の教科書を抱えていた「長谷川亜美」の姿。昼間の世界で健気に未来へ向かって学んでいる彼女のリアルな姿が、今、夜の店で「記号としての学生」を演じているアミの姿と重なり、蓮の胸に鋭い痛みを走らせる。
(アミちゃんは、昼間はあんなに一生懸命に夢を追っているのに。夜はこうして、僕みたいな男のために、こんな格好をして……)
アミが偽物の若さや純粋さを売らされているように見えてしまい、蓮はたまらない自己嫌悪に陥った。自分の払うお金が、彼女をこの歪な空間に縛り付けているような気がしたのだ。
一方、アミもまた、蓮の視線が自分の衣装に留まったまま、どこか悲しげに曇っていくのを感じ取っていた。
(あ……失敗しちゃったな、私)
アミはスカートの裾を無意識に少し引っ張った。
普段なら、どんな男客の前でも「可愛い女子高生」を完璧に演じられる。けれど、駅のホームで、本物の大人の男として真っ直ぐに働いていた「高木さん」の姿を見てしまったあとでは、この作り物のセーラー服を着ている自分が、ひどく惨めで、汚らしく思えて仕方がなかった。
「……蓮さん、ごめんね。こういう子供っぽいコスプレ、あんまり好きじゃなかった?」
アミは無理にいつもの営業用の笑みを作ろうとしたが、その声は微かに震えていた。
お互いに、相手の「本当の姿」を尊いと思っているからこそ、この夜の街の衣装が、二人をさらに深く傷つけていく。




