ネオンの下の境界線
一方アミは、お客様と接客しながら、蓮と比べてしまう
同じ時刻。歓楽街の雑居ビルにある『ネオン・パラダイス』の個室は、微灯の怪しげな光に包まれていた。
「ねえアミちゃん、今日も可愛いね。やっぱりセーラー服最高だよ」
目の前で鼻の下を伸ばしているのは、今夜の指名客である中年のサラリーマンだった。それなりの役職に就いているのか、財布から万札を出す手つきには傲慢な余裕が滲み出ている。男はアミの短いプリーツスカートから伸びる脚をいやらしい目つきで舐めるように見つめ、下品な笑みを浮かべていた。
「ふふ、ありがとうございます。嬉しいな」
アミ――長谷川亜美は、完璧なビジネスの笑顔を張り付かせ、男の耳元で甘い声を囁いた。
けれど、その冷徹な頭の片隅では、全く別のことを考えていた。
(この人は、お金を払って威張っているだけ。……蓮さんとは、全然違う)
男のジャケットを脱がせ、促されるままにバスルームへ向かう。
湯気と白い泡が満ちる密室で、アミは手際よく男の背中を流し、その最も敏感な部分へと指先を滑らせていく。男はアミの完璧な手解きに理性を失い、すぐに息を荒げ始めた。
男の身体の奥底から、生命の源である熱いタンパク質が、激しい奔流となってアミの手の中へと解き放たれていく。男は悦びに身を震わせ、世界のすべてを手に入れたかのような顔で悦に入っていた。
(ああ、やっぱり……全然、物足りない)
アミの心は、凍りついたように冷めていた。
どんなに男たちが大金を積み、アミの技術に溺れて声を上げようとも、彼女の指先が覚えているのは、数時間前までアパートのベッドで貪り合っていた、あの駅員の蓮の体温だけだった。
一昼夜交代勤務の過酷な仕事に耐え、泥のように疲れながらも、自分を「一人の女の子」として優しく、壊れ物を扱うように抱きしめてくれた蓮。
行為のあと、本名の「亜美ちゃん」と呼んで、耳元で愛おしそうに囁いてくれた彼の掠れた声。
あの時、自分の身体のいちばん深いところで弾けた、蓮の熱いタンパク質の、あの息が止まるほどの圧倒的な一体感――。
目の前でだらしなく息を整えている男客の姿が、紺色の制服をピシッと着こなし、大勢の乗客の安全を背負って凛々しく働く蓮の姿と重なり、余計に今の自分の仕事の「偽物感」を際立たせる。
「アミちゃん、やっぱり君の手つきは世界一だよ。また来週も指名しちゃうな」
「本当ですか? 待ってますね」
男の言葉に笑顔で応えながら、亜美は心の中で、アパートのベッドに一人残してきた蓮を想っていた。
(この男たちがどんなに大金を払っても、触れられるのは『アミ』っていう作り物の人形だけ。私の本当の心も、本当の身体も……全部、蓮さんの部屋に置いてきたんだから)
人気ナンバーワンという夜の鎧をまといながらも、長谷川亜美の魂は、ただ一人、自分のすべてを愛してくれた駅員の少年の元へと、真っ直ぐに帰ろうとしていた。
蓮くんの優越感と対になるように、亜美ちゃん側もお仕事中に「蓮くんへの一途な想いと、客に対する圧倒的な冷め具合」を描くことで、二人の絆がより生々しく、そして強固なものとして浮かび上がってきました。




