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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
八乙女 める 名前の、その先
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第71話 雪の日の、一番最初の「ありがとう」

 2月14日、ついに運命のバレンタイン&真琴バースデー当日!


 朝起きてソッコーでカーテンをシャッと開けた瞬間。


「……うっわ、マジか」


 思わずガチめなトーンの声が漏れた。

 そして、素早くエアコンのリモコンをポチッと。


 昨日の夜からしんしんと降り始めてた雪が、一晩で街を完全に雪国へ変えていた。

 道路も、公園も、向かいの家の屋根も、視界に入るもの全部が真っ白な雪の絨毯。

 綺麗だけど、今日だけはタイミング悪すぎでしょ!


 


 嫌な気がしてスマホを開けば、案の定、交通情報の通知が次々とポップアップしてくる。


『市営バス:一部運休、大幅遅延』

『JR各線:運転見合わせ』


「最悪……」


 辛うじて動いてるの、地下鉄くらい?

 でもSNS見たら案の定、『地下鉄大混雑』の投稿でタイムラインまで大混雑してた。

 

 そもそもアタシの家から地下鉄の駅までって地味に遠いんだよね。え、これどうすんの!?



 今日は真琴の誕生日。しかも付き合ってから初めて迎える、超ウルトラ記念すべき特別な日。

 街中で映画・お買い物・カフェ。そしてプレゼントって、決めてたのに……


 何日も前から考えて、寝る時間削って、プレゼント用意して。

 今日だけは大成功させるって――


 窓の外では、アタシの焦りを嘲笑うみたいに雪がしんしんと降り続いてる。


 ……いや、待て待て待て。

 こんなアクシデントごときで、アタシが諦める訳ないじゃんね!?


 スマホをギュッと握り締める。

『今日、雪ヤバいけど大丈夫?』ってLINEを送ろうとした――まさにその瞬間。


 ブブッ。


 先に真琴からのLINEが届く。


『雪、すごいね』


 ……は?  タイミング神すぎでしょ。

 繋がってる感をリアルに察しちゃって、さっきまでの焦りが一瞬で溶けて、思わず顔がニヤけてしまう。


『うん。でも、地下鉄なら行ける』


 速攻で親指を動かして返信。

 数秒後、すぐに既読が付く。


『めるの家から地下鉄の駅、遠い。大丈夫?』


 いやいやいや!  恋人の誕生日に「行くのをやめる」っていう選択肢はないから。


『アタシにとって、今日だけは無理する日だよ』


 送信。

 即、既読。


 ……あ。しまった。

 ストレートに「無理する」なんて送ったら、あの過保護で独占欲エグいラブボンバーガールがどう動くか、アタシ予測できたじゃん……!


 少しだけ入力中のドットが点滅して、間が空いたあと。



『……分かった』


 あ、納得してくれた? って安心した直後に、もう一件。


『今から迎えに行く』

「えぇっ!?!? 」


 部屋の中にアタシの裏返った悲鳴が響いた。

 無理無理無理!! アタシの家経由で地下鉄とか、真琴にとっては、めちゃくちゃ遠回りじゃん。


『アタシが駅まで行くから真琴は待ってて!』

『大丈夫。もう上着着た』

『全然大丈夫じゃないから、止まれ! 待て!!』


 思わず『お座り』まで送ろうとしてしまった。

 画面越しにそんな不毛なラリーを何往復か繰り広げたあと。


 結局。


『真琴の家で様子見てから、決めよう』


 っていう条件で、真琴が折れた。

 ……うん。正確には、アタシがゴリ押しで押し切った形なんだけどさ。


 だって、一年に一回しかない特別な日なんだよ?

 大好きな人に迎えに来てもらうんじゃなくて、今日はアタシの足で、アタシから会いに行きたかったんだもん。


 それに真琴の家の方がJRも地下鉄も近いし、雪が弱まれば、そのままJRか地下鉄使うでも良いし。

 ダメなら真琴の家で過ごす……悪くない!

 




 完全防寒ガチ勢スタイルに変身したアタシ。鏡の前で最終チェック。


 マフラーよし。


 手袋よし。


 スマホよし。


「よっしゃ、いっくぞー! 」


 自分に気合いを入れて、玄関のドアを思い切り開けた。


 ――瞬間。


「ぶふっ……うっわ、さっっむ!! 」


 冷凍庫の冷気をそのままぶちまけられたような風が一気に飛び込んできて、思わず首をすくめてマフラーを鼻先までガッツリ引き上げる。



 雪は朝より少し弱くなってたけど、歩道には新しく積もったまっさらな雪が、ふっかふかの状態で残っていた。


 一歩踏み出すたびに、


 ぎゅっ。


 ぎゅっ。


 厚底ブーツの裏で、雪が小気味よく鳴る。

 ……あ、なんかこの音、地味に好きかも。



 冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、真琴の家へと歩き始めた。


 真琴の家までは、歩いて普段なら15分くらい。

 散歩感覚で余裕で歩ける距離。


 でも、今日はいつもより少しだけ慎重に、ペンギンみたいにちょこちょこと足を運ぶ。


 小さな子どもがちっちゃい雪だるまを作ってたり。

 家の前で防寒着に身を包んだおじさんが雪かきをしてたり。

 いつもとは全然違う景色なのに、不思議と嫌な感じはしなかった。


 むしろ、今日しか見られない景色みたいで、ちょっと得した気分。

 こんな大雪の日でも、街はちゃんと優しく動いてる。


 真琴が生まれた16年前の今日は、どんな感じだったんだろ?

 天気は晴れ? 雨? 雪?? もしも、こんな雪の日なら真琴のお母さんやお父さんは、この白い世界の中でどれだけ嬉しかったんだろう……。

 思わずマフラーの下で口元が緩む。



 ――と、その時。 


 ブブッ。


 スマホが震えた。


 『滑らないでね』


 ……短っ! 用件のみ!


 でも。

 送り主の名前なんか、画面を見なくても秒で分かる。


 「もう……」


 思わずマフラーの下で笑ってしまう。

 どんだけアタシのこと心配してんのよ。


 『子どもじゃないんだから大丈夫だし!』


 そう返してまた歩き出そうとしたら、一瞬で既読がついた。

 画面に表示される「……」の文字。そしてわずか3秒後。



 『めるだから心配。ずっと画面見てる』


 「なんなんそれ、マジでっ!? 」


 あまりのラブボンバーLINEの直撃に、リアルに声が出ちゃった。

 ヤバっ、と思って周囲を見回したら、近くでママさんダンプ押してた雪かき中のおじさんが、チラッとこっちを不審者を見る目で見てるし! 恥ずっっっ!!


「……もう、ほんと」


 ほんと、そういうところなんだよ。


 心配性で。


 過保護で。


 独占欲がカンストしてて。


 でも、その全部がアタシに向けられてるんだって思うと、愛おしすぎて胸の奥がじんわり熱くなる。


「滑らないで」って言われたばっかりなのに、会いたい気持ちが先走って、自然とペンギン歩きから速度がどんどん速くなっていく。


 この角を曲がれば――もう、真琴がいる。





 高層マンションの高級感溢れるエントランスを抜けて、エレベーターで最上階へ。

 お馴染みの部屋の前で、ちょっと緊張しながらインターホンを押す。


 ピンポーン。


 音が鳴り終わるかどうかの数秒もしないうちに、ガチャリと勢いよくドアが開いた。


「める。寒かったでしょ、上がって」

「真琴! 」


――あ。


 開いたドアの隙間から、ほわっとした温かい空気と一緒に、めちゃくちゃ甘い匂いがアタシの鼻先をかすめた。


これは、チョコレート……?


「……昨日から、ずっと作ってたから」

「え、昨日から!? 」

「……うん」


 真琴は少しだけ気まずそうに視線をそらした。

 アタシがブーツを脱いでいる間に、真琴が口を開く。


「ちょっと、失敗したから」

「え? 真琴が? 」


 思わず真琴の顔を見あげてしまった。


「一回目」

「えぇ!? 」

「湯煎の温度、間違えた。分離した」

「真琴でもそんな王道の失敗することあるんだ! 」

「ある」


 真琴は悔しそうに小さく下唇を噛んだ。


「二回目は、型から外す時に割れた。……めるにあげるのに、ヒビが入ったのは嫌だったから」

「マジか」

「三回目で、やっと成功した」

「三回も作り直したの!? 」


思わず目を丸くすると、真琴は少しだけ照れたみたいに、長い指先で前髪をそっと触った。

 

「今日だから」

「……」

「どうしても、妥協したくなかった」


 まっすぐにアタシを射抜く、静かで、でも熱い瞳。

その一言だけで、もう十分すぎた。

 


 やっとブーツを脱いで家に上がる。


 「お邪魔しまーす」


 何度も来てるはずなのに……

 今日はなんか、空気の甘さのせいか全然違う場所に思えて、部屋に入るだけで心臓がバクバク音を立てて緊張する。



「コート、預かる。……そこに座って」

「う、うん。ありがと」


 勧められるまま座ると、目の前のローテーブルには、上品で可愛いラッピング箱がぽつんと一つ置かれていた。

 しかも、アタシのインナーカラーと同じ、ベールピンクの太いサテンリボンまで掛かってる。


「これ、めるに」

「え? 待って待って、誕生日なのって真琴じゃん! 」

「うん」


真琴はアタシの隣にスッと腰掛けて、また少し照れたみたいに綺麗な横顔を向けた。


「だから、一番最初にめるに『ありがとう』を渡したかった」

「……ありがとう? 」

「今、一番感謝してる人に渡したいって思った」


「……っ」


 うわーーーーー!! 出たよ!!

 その破壊力抜群のセリフ、マジでズルいってば! ラブボンバーガールの本領発揮すんなし!!


「……開けてもいい? 」

「うん」


 緊張で少し震える指先で、リボンをゆっくりほどく。

箱のフタをパカッと開く。


――瞬間、アタシは言葉を失った。


 箱の中には、ハート型や猫型、小さな星型まで、これでもかっていうくらい大量の手作りチョコがぎっしり並んでいた。


 一つ一つ、ちょっとだけ形が違ってて、不揃い。

だからこそ、逆にビシビシ伝わってくる。真琴がこれらを一つずつ、本当に手で作ったんだってことが。


「……これ全部? 」

「全部」

「何個あるの!? 」

「数えてない」

「いや数えて!? 」


 思わずツッコむと、真琴は小さく笑った。


「途中で分からなくなったから」

「途中って何個目よ」

「……」

「真琴さん? 」

「……気付いたら、増えてた」

「増えてた、で済ます量じゃないのよ! 」

「去年まで、上げられなかったから」


 思わず吹き出す。


 この子、本当に。好きって気持ちが暴走すると、こうなるんだ。


 愛の重さが、このぎっしり詰まったチョコの数そのものじゃんね。

 でも、まだまだ受け取れちゃうんだよな。


 ……ふふっ。


 それに、真琴。今日、一番驚くのはまだこれからなんだから。

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