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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
八乙女 める 名前の、その先
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70/80

第70話 二人だけの『特別』

 店員さんがお皿を置いた瞬間、ふわっと甘い幸せの香りが鼻を直撃した。


 いや、待って。いちごショート、ガチでビジュ優勝、いや大優勝!!

 純白のクリームの上に鎮座する真っ赤ないちご。全方位どこから見ても完璧な黄金比率で、まじで尊い。


 秒でスマホ構えてアクスタ並べてガチ撮影したい……っ!

 でもさすがに、この最強先輩コンビの前で、はしゃぐのを披露するのはハードル高すぎ。

 ……ここは大人しく我慢一択。


「いただきます」


 三人で小さく手を合わせる。


 フォークで先っぽをそっとすくって、ひと口。


「んまぁっ……! 」


 あぶなっ、気づいたら声漏れてた!いやでもこれ、スポンジが雲レベルでふわっふわだし、生クリームも全然重くなくて後味一瞬で消えるし、いちごの酸味が神がかってるし、ガチ大正解。


「これ、ガチでヤバい……」

「気に入ったか」


 橘先輩が、自分のことみたいに嬉しそうに目を細める。


「はい! マジで美味しすぎます! アタシ、ここ絶対また来たいです!  」

「それなら良かった」


 橘先輩は満足そうにコーヒーを口に運んだ。


 ……なんだろ。


 いまの橘先輩、学校にいる時より断然空気が柔らかい。


 生徒会長モードじゃないってだけで、こんなに雰囲気変わるんだ。


「美鈴は八乙女派でもあるものね」

「アハハ……ありがとうございます! 」

「あぁ。まぁ、今は黛派だがな! 」


 はい前言撤回ー! さっきの『ありがとうございます』を大至急セルフ回収したいんですけど!?  どんだけちっちゃい子好きなんだ、この人。ブレなさすぎて逆に清々しいわ!


「それはそうと、八乙女ちゃん」


 一条先輩は、カップに小さくふぅふぅ~って優雅に息を吹きかけてから、そっと口を付けた。

 湯気で前髪がちょっとフニャッてなってんの、お人形さんみたいで可愛いけど、なんかおもろ。

 ソーサーにカップを丁寧にコトッと置くと、綺麗な目でこちらを見据えて口を開く。


「さっき、歩いてる時から何か考え事してたでしょ?  」

「え?  」

「ほら、向こうから歩いてくる時」


 ……ガチで!? バレてた!?


「顔に思いっきり書いてあったもの」

「うっそ!? アタシそんなに分かりやすいですか!?  」

「嘘よ」

「なんなんですか、もう! 」

「2割はね」

「ってことは8割はガチじゃないですか!?  」

 

 アタシの反応を見てクスクス笑いながら、また紅茶をふぅふぅしてるし……。

 まさかの猫舌説ある? ヘビのくせに??

 


「悩みがあるなら聞くわよ」

「別に重い話じゃないですけど……」



 手元のフォークを、意味もなく指先でくるくる回す。


「その……誕生日プレゼントって、何あげたら一番嬉しいと思います? 」


 その瞬間、一条先輩がカップを口元へ運ぶ手をピタッと止めた。逆に、橘先輩は何も考えずに即答する。


「人によるな」

「いや、それは大前提としてそうなんですけどっ! 」

「相手は誰だ? 」

「えっと……友達です。アタシにとって、めちゃくちゃ大事な」

 

 一条先輩がアールグレイを吹きかけそうになるものの、優雅なムーブでハンカチを口に添えて耐えている。


 いや、なんで!?  なにそのリアクション!?


「八乙女ちゃんの大事な友達、ねぇ」

「大事な友達です!! 」

「八乙女、大事じゃない友達っているのか? 」

「え? いや、まぁ……いないですけど……特別な友達、的な? 」

「良いじゃない、美鈴。そういうことにしておきましょ」


 含みっ……! 語尾の含みがエグい。この人、絶対分かってる。



「ってか、二月十四日なんですよ、その子の誕生日」

「ほう」

「しかも、バレンタインデーで日曜日」

「友チョコを兼ねたお祝いか!? 」

「あー………まぁ」

「なるほどな」


 橘先輩が一人でめちゃくちゃ納得したように力強く頷く。


「日曜日なら学校も休みだし、一日中一緒にいられるじゃないか」


「……まぁ、たぶん? 」

「いいじゃないか」


 いいじゃないか、って。そんな簡単に言われても!




「プレゼントって難しくないですか? 」


 アタシがカフェラテの泡をスプーンで小さく混ぜながら聞くと、


「難しくない」


 橘先輩は、フォークでチーズケーキの端っこをキレイに切り分けながら即答した。


「相手が喜びそうな物を買えばいい」

「終わった……」

「終わったな」

「いやいやいや! 橘先輩、そんな一行で片付く話じゃないですって! 」

「私は毎年そうしてる」

「そうよ」


 一条先輩が、ガトーショコラを上品にひと口運んでから苦笑する。




「美鈴は迷わないの」

「好きそうな物を見付けたら、それを買うだけだ」

「でも」


 一条先輩がカップを口元まで運び、高貴な香りの湯気の向こうで悪戯っぽく笑う。


「美鈴、渡すまで隠すのは絶望的に苦手よね」

「あぁ」

「買った瞬間から『早く渡したい』って顔に出てるもの」

「……これでも、隠してるつもりなんだが」

「全然。毎年バレバレ」


 橘先輩がコーヒーをひと口飲んで、「そうか……」と少しだけ肩を落とす。

 その様子に、一条先輩がクスッと笑った。



 ……なんなの、この尊さ大爆発の空間。

 アタシ今、目の前でガチの少女漫画(百合)見せられてるんだけど!?

 あまりの糖度の高さに、いちごショートの生クリームがさらに甘く感じるわ!


 一条先輩はしばらく、何も言わずに橘先輩を見つめていた。それからふっと、アタシに視線を戻した。


「でもね、八乙女ちゃん。私は毎年、『今年は何を贈ったら一番、美鈴が笑うかしら』って、それこそ何ヶ月も前から頭を悩ませるのよ」

「そうなんですね」

「結局」


 一条先輩の口角が、どこか楽しげに、それでいてすごく優しい形に上がる。


「プレゼントって、目に見える物だけじゃないのよ」

「え? 」

「一緒に過ごした時間だったり、その人だけに見せる表情だったり」

「……それって、日常がプレゼントってことですか? 」

「案外、そういうものの方が忘れないのよ。物はいつか壊れるし失くすこともあるわ。二人だけが知ってる思い出って、ずっと心に残るのよ」


 二人だけが、知ってること……。


 その言葉が、アタシの胸の奥にじわじわと染み込んでいく。

 学校でも「泉さん」って呼んじゃってたのを「真琴」って呼び直した、あのハラハラした時間。   

 あの時の、真琴の嬉しそうな顔。

 それだってきっと、アタシたちの「二人だけが知ってること」だ。



「それで、八乙女ちゃんは」


 一条先輩が、アタシの心の中を見透かすように意味ありげに微笑む。


「その『特別な友達』に、物を贈りたいの? 」

「もちろん、形に残る物もあげたいですけど……」


 アタシはフォークをコトッと置いて、カフェラテのカップを両手で包み込んだ。手のひらがほんのりと温かくなる。

 なんでだろ。真琴の手って、こんくらいの温度だったな、ってふと思った。



「その子にとって、世界で一番特別な誕生日になったらいいなって」


 口にした瞬間。自分でも、胸のつかえがスッと取れるみたいに、すごくしっくりきた。


 そうだ。


 アタシはただ、綺麗にラッピングされたプレゼントを渡したいだけじゃない。


 真琴と過ごす初めての誕生日を。

 この先、何年、何十年経っても、真琴がふと思い出して笑顔になれるような、そんな最高の一日にしたいんだ。


 気づけば、二人とも静かにアタシを見ていた。

 ……え、アタシ今、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいポエムみたいなこと言っちゃった!?


「……あの、なんで黙るんですかぁ」



 急激に照れくさくなって、冷めかけたカフェラテを慌てて一口ゴクッと飲む。


「その……お二人は、そういう何年経っても忘れられないような『特別な誕生日』って、過ごしたことあるんですか? 」




「あぁ、それは――」


 橘先輩が、待ってましたとばかりにドヤ顔で即答しかけた、その瞬間。


「美鈴」


 一条先輩が静かに名前を呼ぶ。


「あっ……」


 橘先輩がソッコーで口を閉じた。


 一条先輩はアールグレイを上品にひと口飲んでから、アタシを見てニッコリと微笑む。


「教えないわ」

「えぇーっ!? 」

「ダメ。そういうのは、自分たちで手探りで見つけるものだから楽しいのよ」


 自分たちで、見つけるもの。


 誰かのマネなんかじゃなくて、アタシと真琴だけの『特別』は、アタシたちで作ればいい。


 …………まずは、2月14日。

 

 真琴にとって、世界で一番特別な誕生日にしてみせるんだから。

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