第7話 恋・発・嘘 ③
こんなに自分が感情をコントロールするのが下手だとは思わなかった。
コインパーキングの自販機の横、みっともないけど、しゃがみ込む。
体も脳も酸素を欲しがっていて、限界に近い。
いつぶりだろう?
「久しぶりに全力で走った気するよ」
下から見ても八乙女さんは可愛い。その、可愛さに戸惑いつつ前髪をなおす振りをした。
感情の昂りが抑えられずに、手は出てないけど攻撃的になってしまった。
もし、あの場でストーカーが私に反撃して来たら?
それは、まだ良い。
逆恨みして、八乙女さんに攻撃して来たら?
それは、まずい。
あ〜 もう、自分が嫌になる。
感情に流されない、大人になりたい。
自分のした行動が恥ずかしいのと、自己嫌悪で俯いたまま頭を振った。
「でも、男の子の顔見た? めっちゃギョってしてて、口パクパクしてたし」
正解ではないのかも知れないけど、少し楽しそうに話す八乙女さんの声を聞けば、ハズレでもなかったのかもしれない。
思わず八乙女さんに顔を向ける。二人だけの秘密を共有するような共犯者めいた微笑み
いや、小悪魔めいた微笑が近いのかな
どちらにしても、その微笑みはズルいと思った。
そんな小悪魔につられて、私も、つい微笑んでしまう。
「めちゃくちゃ可愛いじゃんね」
たった、一言
私の好きな声と音で綺麗に可愛くラッピングされた言葉は、宝箱から解き放たれ、私の胸へと飛び込んできた。
勝手に世界は救われたんだ。と、さえ思えた
落ち着いて来たのに、また息が乱れそうで深く呼吸が出来ない。
でも…………主語がなかったから『私』の事を言ってる訳じゃないかもしれない。
自惚れるな、私。八乙女さんが何を話していたか、一文字も思い出せない。
こんなことってある? いや、あるのか。現になっている。
私の事じゃなかったら、勝手に勘違いして、恥ずかしいだけなんだけれど。
恥ずかし過ぎて、耳まで真っ赤になってそう……西日の、夕焼けのせいにして…………この考えが、もっと恥ずかしくなって来る。
と、とりあえず下向いとこう。
少しすると、コトン、と冷たいペットボトルが、私の頬に触れた。
これって、私が普段飲むって言ってた『ミルクティー』のペットボトル。
こんなのもう飲めないよ。クリアケースに入れて部屋に飾ろう。
毎日朝と夜に拝もう。土日祝は五回くらい拝もう。
――決めた。そうしよう。
最初で最後になるだろう、初めて好きな人から貰った大切な記念品
今度は連絡先交換しない? って言われたよね?? これは主語が『アタシ』って、言ってた。
スマホ渡しちゃったけど、アタシ=八乙女 める。だよ……ね。 『アタシ』と『私』が連絡先交換するんだよね?
『?』マークが大渋滞起こしてクラクションばかりが脳内で鳴り響く
スマホを受け取る時に、意を決して八乙女さんを見上げた。
街灯と自販機の青白い光が灯り、人工的な光が八乙女さんを鮮やかに彩る。
……八乙女さんがヒロインに見えた。
あぁ、私は八乙女さんしか好きになれないんだ
「八乙女さんはずっと、可愛いよ」
言ってしまった。
嘘の彼氏の皮を被った、私の、本物を。




