第6話 恋・発・嘘 ②
バイト終わりにも関わらず、キラキラしたものを纏ったまま現れた八乙女さんは、私の世界を一瞬にして止めてしまった。
私服姿をみるのも小学生以降は初めてだ。あまりにも強烈で綺麗な光を、私は忘れる事が出来るのだろうか?
「ご、ごめ」
「どったの? ってか、女の子たち大丈夫そ? 」
そう言えば女の子たちから声を掛けられていたような
ほかの女の子……違う。ほかの人とは比較にもならないし、したくもない――私の特別。
カフェに向かう道すがら、すれ違う人の視線は八乙女さんを追っていた。
外見の良さもだけど、八乙女さん自体が発するオーラに、引き寄せられるのは当然だと思う。
それは、カフェに入ってからも同じで、周りから観られてる気がする。
誰にも見せたくないけど、皆に見てほしいような、ムズムズとした感覚は初めてだ。
何回も妄想はした事がある。八乙女さんとのデー……デート
……思うだけで照れる。
ふと、視界に白いキャップを被った男の子が入って来た。
八乙女さんが振り向かない限り、八乙女さんからは見えないけれど、直感的に彼がストーカーだと感じた。
私の知ってる昔の八乙女さんなら、ズカズカと男の子に向かって『ウザい』の一言でも言いそうだけど……今の八乙女さんは違うのかな
デフォルメされた男性キャラを演じるための、ブラックコーヒー。
八乙女さんが観てない時に角砂糖をいれておいた。
同じミルクティーが好きだと言う共通点。
ブラックコーヒーが甘く感じたのは、角砂糖が溶け始めたからなのか、八乙女さんの笑顔が見られたからなのか。
でも、心の底には、最後に溶け残った角砂糖みたいに、甘く、苦い、感情だけが、こびりついて剥がれ落ちない。
カフェを出たあとも、男の子は追ってきた。さすがに不安になり、つい早歩きになってしまう。
どうせ、最初で最後なんだ
自分に言い聞かせ、夢だと思うことにし、大胆になろうと決めた。
「ごめん。手、貸して」
何度も何度も妄想し夢でも触れた、八乙女さんの手。
丁寧に塗られたマニキュアに、形の良い細長く綺麗な指先。
触れたかったものに触れたのに、罪悪感に押し潰されそうになる。
追って来る男の子に、どうしようもない怒りが沸いて来た。振られるにしろ、正攻法で告白できるのに。
『男の子』だから
好きだと伝えることを、誰にも否定されないくせに。
沸々と沸いてくる怒りや、何処にもぶつけられない感情が体と脳をグルグルと駆け巡る。
「こっち」
裏路地に逸れて、八乙女さんと向かい合う。八乙女さんが付けてる制汗スプレーなのか香水なのか。
ジャスミンの匂いが、鼻腔をくすぐる。思わず妄想か夢の続きで抱き締めそうになった。
「大丈夫、安心して」自分に言い聞かせる。
感情のまま男の子に向かって行きそうだったけど、何とか止められた。
小走りに掛けてくる足音……今だ
「お前、何なの? この子、俺の女なんだけど」
自分史上、一番低い声が出た。
その偽りのセリフの甘さに、自分の脳がドロドロに溶けてしまいそうになる。
あっ、ダメだ。やっぱり、感情が昂っていくのが分かる。
ふざけるな。男の子ってだけで恋愛対象になれるくせに。
私は六年間、見ていることしか出来なかったのに。
ふざけるな。固まって行くこの感情を溶かしたいのに。
友達ならなれるかもしれない
ふざけるな
消えてしまえ、この感情ごと
友達ならなれるかも知れない……
ふざけるな、私
気が付けば、八乙女さんに腕を掴まれ走っていた。




