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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
二部 恋人編 湿度そのままにラブコメが増えるよ
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第48話 八乙女メル 球技大会 ②

 試合は泉さんの活躍もあり、アタシたちのクラスが勝った。泉さんの試合中の目つきの鋭さよ……カッコよ。


 コート中央の挨拶を終え、泉さんはクラスメイトとハイタッチをしながら歩き出す。

 ショートカットの黒髪が汗で額に張り付いているのが邪魔なのか、濡れた髪をガシガシとタオルで拭く。あっ、しっかり、ジャスミンの制汗剤使ってるじゃん!



 周りの女子たちの「かっこいい……」「マジでイケメン……」と言う。ため息が聞こえるたび、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。

 

 格好良いけど、意外とポンコツなとこもあって、かわちいのよ。

 なんか、前よりクラスの人と打ち解けあってる気がする……それは、それで嬉しいはずなのに。


 泉さんがギャラリー席へ視線を巡らせた。アタシと目が合った瞬間、さっきまで試合で見せていた鋭い目つきが、一瞬で柔らかい目つきになる。

 普段マジでポーカーフェイスなのに、一瞬だけ目ぇトロンとしてふにゃって、笑うのガチで尊すぎて無理、無理オブ無理!



 またしても隣のグループから歓声が上がる……表情も前より柔らかくなってるし、まっ。アタシ限定だろうけど。



 下に降りて、泉さんとハイタッチを交わす。すぐに恋人繋ぎする泉さん……付き合って二日目だし、アタシの中では秘密ってことにしときたいんだけど。


「お、お疲れ様。格好良かった」

「八乙女さんが、見てたから……頑張ったよ」


 まだ、アタシ動いてないのに顔が熱いんですけど……顔、赤くなってない? 大丈夫??


「コートにいると熱気凄いね」


 首に掛けてたタオルを頭から深く被る。ただの汗だと思わせたい……って、やり過ごそうとしたアタシのたくらみは、一瞬で計画崩壊した。


「大丈夫? 外の風に当たる? 」


 下から覗き込んでくるとかマジで攻めすぎでしょ!! 近いんだって!! 周りにもたくさん人がいて、注目されちゃってんのに……


「そ、そうしよっかな」


 アタシが先に歩き出すと、当たり前のように泉さんが付いてくる。

 周りの視線が気になってしまい、こそ泥のような歩き方になってしまう……堂々のカップルですよ!!って、言いたいけど、なんか言えない。



 外に出るなり周りを確認した。誰もいなさそう……とつぜん、泉さんがアタシのタオルを引っ張って来た。


「八乙女さん。なんで隠すの? 」

「だから、コートの熱気が」

「違う。そっちじゃない」


 完全にタオルを奪われてしまい、泉さんの事も見れず、自分の靴だけを見つめることにした。


「こっち見て」

「いや、ちょっと……」


 不意に泉さんの指先がアタシの顎にそっと添えられた。抵抗する間もなく、くいっと上を向かされる。


 強制的に泉さんの目と合う……やっぱり、綺麗な瞳だなぁ……泉さん。付き合ったとたん、距離感バグってない!?


「ちょ、誰かに見られたら」 

「バレちゃダメなの? 」

「いや、ダメって言うか……なんつーか。アハハ」


 なに、この真剣な眼差し。 だって、別に言う必要なくない? それに見つからないかのドキドキ感がたまらん。


「八乙女!!!! 」


「ひぃ!?」遠くから響いた呼び声に、アタシの心臓は別の意味で跳ね上がった。

 慌てて、泉さんの手を振り払って、後ろに一歩下がる。


「いた! 八乙女!! 試合始まるって……泉も一緒か。ナイス勝利!! さすが学校の王子様」




 見られたとしても優梨なら大丈夫か。叶乃じゃなくて良かった……叶乃ならアタシが照れてる反応見ただけでバカにしてきそうだもんね。


「なんか。お二人、匂うぞ」


 優梨の肩越しから、学校のマスコット叶乃、参上……


「な、何がよ。試合、始まるんでしょ、行くよ、ほら! 」

「もしや……」


 勘の鋭いガキは嫌いだよ……


「ジャスミンの制汗剤、使った? 」

「私、使ったけれど」

「あぁ、イズミンか。良い匂いすると思ったから」


 コイツ……わざと?……んな、訳ないか。


 二人だけの秘密という特別感があった方がアタシは好きだ。

 オープンにして、周りの人間関係が変わるのも嫌だ。泉さんが大好きだから、泉さんが理由で、何かがおかしくなるのは、アタシには耐えられない。それなら、二人だけの秘密で良い。






 ドッジボールのコートに行くと、すでに二年生たちがスタンバっていた。

 慌ててアタシたちも中央に整列する。

 向かい合うのは、憎き一条先輩!! 相変らず見た目だけはお嬢様だった。あからさまにアタシを見て、ニヤついてるのが分かる!

 ってか、先頭にいる人って誰? ショートボブの白銀髪クールビューティ?? 泉さんほどじゃないけど、格好良いな……


「持田。私のクラスが勝ったら、正式に生徒会に入ってもらうからな」

「負けませんから良いですよ」


 え? この人、生徒会長の橘さん……橘 美鈴みすずさん。あれ? 会長選挙の時は黒髪ロングじゃなかった?

 


 スタートの笛が鳴った途端、それまで固まっていたみんなが、文字通りバラバラの方向へすっ飛んでいった。


 とりあえず、外野に近いとこにいると、後ろから一条先輩が話し掛けてくる。


「ギャラリー席から、マコちゃんと、アイコンタクトしてたでしょ」

「はい。愛コンタクトしてましたけど、なにか? 」 

「付き合ってるの? 」


 一条先輩だけには『付き合ってますけど!!』って、言いたいかも


「八乙女! 」


 優梨の声にハッとしながらも、視界の端から、空気を切り裂くような鋭い風切り音が迫ってくる。

 容赦なくアタシの胸元をめがけ一直線に進んでくるのを間一髪で避けた。


「っぶな」

「八乙女、集中!! 」

「ごめん」


 慌てて周囲を確認しやすい、コートの真ん中へと走り出す。


 一条先輩に気を取られてしまっていた……






 さすがは先輩と、言うべきなのか。優梨もアウトになり、内野はアタシと叶乃の二人だけになってしまった。相手も内野は橘先輩と、あと一人……2対2か。上手く外野を使えば勝てるか?

 ってか、あの橘先輩ヤバすぎでしょ!? アタシも運動神経は、かなり良い方なのに、レベチじゃん!! ぜんぶ、橘先輩がアウトにしてるし。なんで、運動部とかじゃないの?


 橘先輩は余裕の表情で、ボールを床に激しく叩き付け、ダン・ダン・ダン、と一定のリズムでバウンドを繰り返す。

 もはや、獲物を前にした猛獣の足踏みじゃんね!

 一条先輩とは違った怖さがある。



 背中合わせになる叶乃に声を掛けた。


「これ、避けてるだけじゃ、勝てない」

「めるちが、囮になると? 」

「嫌だよ! どこかでキャッチしないと」


 でも、なんかおかしい……叶乃って、ボールを避けてた素振りなかった気がする……


「叶乃さ。キャッチと避けた回数は? 」

「ん、ゼロ」

「はっ? おかしくないっ!! 」


 ボールを持つ橘先輩は、アタシと叶乃を交互に見ると、隣の人にボールを手渡した。

 なんで? 橘先輩が投げないんだ??


 鋭いボールがアタシに向かって飛んで来るけど、橘先輩のスピードに慣れたから、難なくキャッチし、そのまま勢いよく投げ返す。

 ボールは見事に先輩を捉え(名前も存じ上げず、すみません!!) パァンと小気味いい音を立てて、床に転がった。



「よし! 後、橘先輩だけ! 」

「さすが、めるち!! 」


 橘先輩がボールを拾うと、外野に回した。

 内野がアタシと叶乃だけになってから、橘先輩投げて来なくね?

 ってか、叶乃に至っては、当てるチャンスが、たくさんあったのに、誰も叶乃を狙ってないじゃん。



 外野から意表を突いた鋭いボールが内野の橘先輩へと渡る。


「叶乃! 危ない!! 」


 え?……めちゃくちゃ至近距離なのに橘先輩、叶乃に投げないじゃん……


「ミスズ。早く終わらせてよ」

 

 外野の一条先輩が呆れたように声を掛けた。


「そうしたいのだが。さっきから、凄いウルルンした瞳で『おねぇちゃん。カノに当てるの?』って、震えた小声で言ってくるんだぞ!! こんなん当てられるか! 」


 はっ? なにそれ……叶乃は何事もなかったかのように、スタスタと、真ん中まで戻ってきた。


 じゃあ。必然的にアタシ狙われるじゃんね! 叶乃は敵にしたら厄介だと思ってたけど、味方にしたら、もっと厄介だった。


「ミスズ。もう良いから、ギャルピースしてる子から当てなよ」


 そんなんしてる余裕ないです! それに、一条先輩って、一回もボール触ってなくない?


天音あまね。それもダメだ……私は八乙女派だから……」


 八乙女派が、ここにいたじゃんね! それだけで凄い良い人に思えてしまう!!


「アマネが当てれば良い」

 

 橘先輩は外野の一条先輩にボールを、やまなりで投げた。


 一条先輩の名前『天音アマネ』って、言うのか。


 やまなりで投げられたボールを当たり前のように無視する一条先輩……


「ちょっと、爪が割れたり突き指したら、ピアノ弾けなくなっちゃう」


 なんで、ドッジボールのメンツになった? 数合わせかな??

 これは勝てる! 橘先輩になんとか当てられれば!!

 敵の外野と橘先輩でブンブン回してたボールを、アタシが華麗にパスカット!

 そのまま橘先輩目掛けてカウンター!!

 勝ったな、と思ってぶちかましの一歩を踏み出した瞬間



「八乙女、危ない!! 」の声が聞こえるも、時すでに遅し……隣のコートからコロコロ〜って、ガチ緊張感ゼロで転がってきた迷子のボール。

 視界では確認出来たものの、もう体は投げる体勢になっちゃってるから、避ける事も出来ない……

 右足の裏に伝わる「ぐにゃり」とした最悪な弾力。


 あ、終わった。


(ここからスローモーション再生でお届けします)脳内ナレーションと、ともに


 アタシの体は重力をガン無視して宙を舞った。体育館の天井が近付いたと思ったら、床がマッハで迫って来る。


 ふぎゃん!という、一瞬でギャル捨て去ったレベルの情けない肉声がコートに響き渡った。


「…痛っ、え、なにこれ。ガチ無理なんだけど……」


 床と熱烈なファーストキスを交わしたアタシは、這いつくばったまま、目に星を浮かべてフリーズしていた。唇治ったのに、また、切ってそう……

 恥ずかしさから「アハハ」と、笑いながら立とうとするも、捻ったのか痛さで立てない。

 産まれたての子羊だよ……


「八乙女さん!? 」


 泉さん、声デカ……そんな大声、初めて聞いたよ。何処で見ていたか知らんけど、文字通り「すっ飛んで」くる。影までビジュ良いじゃん……



「大丈夫? 無理して立たなくて良いよ。脚、捻ってそうだし、保健室行こう。私に捕まって」


 そんなスマートに、お姫様抱っこしようとしないで……周り見て、泉さん。ポカーーーンしてるから、みんな。


「待て! 落ち着いて!! 脚の痛みより、恥ずかしさで痛いよ」


 派手に転んだアタシより、泉さんムーブに驚いてない? 


 こんなに皆が観てる前で、王子様ムーブされると、勝手に顔が赤くなるし、ニヤけてまう。


「保健室まで、肩だけ貸して」


 結局、泉さんに脇をガシッと抱えられ、二人三脚みたいな体勢で歩き出す。歩く度に片足が浮いて、泉さんの身体にぶつかってしまう。

 恥ずかしさと、赤くなった顔とニヤけ顔を見られたくなくて、ぶつかる勢いのまま泉さんの胸に顔を埋めた。

 ―ふわり、とジャスミンの香りが鼻腔をくすぐる。

 周りの女子たちの悲鳴にも似た、ざわめきが聞こえるけれど、今だけはどうでも良いと思ってしまう。

 バクバクとしてるのは……アタシの心臓の音なのか、泉さんの音なのか、もう分かんないじゃんね。


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