第46話 八乙女メル お付き合い初日 一部完結
シャワーを浴び終えた泉さんは、いつもの泉さんだった……いや、落差エグいて!
「トイレ行こ」って誘う時のテンションと、個室に入った瞬間の無言。くらいエグいって!!
元が良いから何してもイケメンでカワイイのは分かるけど、さっきまでボロッボロだったじゃん!!
マジで心臓止まるかと思った。
泉さんが部屋に入ってきた瞬間、ぶわっと広がったシャンプーのいい匂い。
スマホを持ったまま完全にフリーズしちゃったじゃんね!
濡れた黒髪を無造作にタオルでワシャワシャ拭きながら、気怠そうに首を振る姿。
その隙間から覗くうなじが、なんか妙に白くて、信じられないくらい色っぽい。
何よりヤバいのが、あの涼し気な目元。
普段から切れ味鋭くてクールな奥二重なんだけど、シャワーのせいで、目元がほんのりピンク色になってて、かわちい。
さっきまで赤く泣き腫らした目をしていたとは思えん……AI泉さんになって、再登場したのか?
リアルの人間っぽくなくて、この世のものじゃない感。
「……八乙女さん? 私の顔を見てるけど、やっぱり泣いたあとだから変? 」
はい。変です! その非現実的なクオリティに、男も女も脳をバグらされて『エッロ……』ってなるやつです!!
「え? いや! なんでもないし!! 」
泉さんの涼し気な瞳がまっすぐアタシを射抜く……アタシと書いてハートと読む!
少し濡れた前髪の隙間から覗く視線が、イケメン過ぎて直視できない。
鼻と鼻を合わせた時は、ガッツリ超至近距離で、目合わせられたんだけど……これ、もう無理じゃね? 盗み見だけをする一生になるかもしれない。
前にお泊まりした時も思ったけど、泉さんの『シャワー浴びた後』の凄まじい破壊力は、同じ女子としてガチ反則すぎる。
さすがに泉さんは熱が少し残ってたのか、途中途中でフラついたり、苦しそうだったので休憩を挟みながら、掃除を終えた。
消臭をしまくって、シーツやら衣服を洗濯に出し、ピアスもベッドの下から見つかった。泉さんにピアスをあげると、嬉しそうにすぐにラッピングして飾ってくれた
「ペットボトルは捨てなよ」
「蓋開けてないから、大丈夫」
「そういう問題じゃないし……色々、増やしてこ」
何気ない日常の中でも、イベント毎でも、二人だけの思い出は、どんどん増えていく。
これから泉さんと、こ……恋……恥ずっ! 恋人! として、どうなっていくのか楽しみではある。
「夕食どうしよっか? 今からでも、アタシ何か作る? 」
「まだ、お粥ある」
「じゃあ。先にそっち食べよっか」
冷凍庫からアタシが作った、お粥のタッパーを取り出す。
少しだけ残ってる、ちりめんじゃことしらす。塩がゆも結構残ってるじゃん。
「八乙女さん。それ、アレンジして良い? ピザ用チーズも取ってくれる? 」
「おっけー」
小鍋にお粥を入れ牛乳を注ぐと、火にかけて、木べらでお粥をゆっくりとほぐしていく。泉さん……それを横から盗み見するアタシ。
隠し味にコンソメをひとつまみ。白いお粥が、一気に洋風の優しいスープへと姿を変えた。ぽこぽこと小さく泡立ち、温まったところで火を止め。最後に、ピザ用チーズを贅沢に散らす。泉さん……それを目の形をハートにして盗み見するアタシ。
余熱でチーズが溶け、お粥全体がとろりとした琥珀色を帯びていく。お椀に盛り付けると、どこかリゾットを思わせるリッチな香りが湯気となって立ち上った。めちゃくちゃ良い匂いじゃんね!
軽く作ったくせに、なんか美味しそうだし、オシャレや……スパダリ最高かよ!!と、思いながら、スキスキビームを出して、盗み見するアタシ。
「出来たよ。あっさりしたミルクのお粥。チーズも入っているから、病み上がりにも良いかなって」
「凄い。良い匂いだし!! ぜったいおいしいやつ! 」
泉さんの嬉しそうな笑顔がこぼれた……泉さんが笑ってくれると、アタシは嬉しい、、
『いただきます』
残ってた、ちりめんじゃことしらすのお粥も残さず食べる。
飲み物はもちろん、アタシが好きなミルクティー♪
「意外と合うじゃんね」
「え? 」
「いや、ちりめんじゃことしらすのお粥とミルクティー」
なんか、泉さんの笑顔が引きつってない? なんでだ??
「……そう。良かったね」
「泉さんも、飲む? ミルクティー好きでしょ?? 」
「大丈夫。お水で良いよ」
ふぇん。断られちゃった……そして、チーズミルク粥。
「ガチで美味しい!!」
お粥のとろみと、溶けたチーズの粘り気が合わさった相性バッチリ!! うまっ! 美味しすぎて作ったシェフを呼んでほしい……すぐ、目の前にいたわ!!
「あっ。こっちのほうが圧倒的にミルクティーと合う」
「私も、そう思う……そっちとならミルクティーで、飲もうかな」
カップに注いだミルクティーを泉さんの前に差し出す。
カチカチカチカチと、時計の針だけが聞こえる。つい、ミルクティーを飲む泉さんを目で追ってしまう。
「美味しい」
「ね。美味しいよね」
静かに微笑む泉さんを見てると、心がじんわり温かくなってくる。
チーズミルク粥とミルクティーとか、抜群の相性。 ガチ、マリアージュ感!! 幸せ……
「八乙女さん……」
「ん? どしたの?? 」
「きょ、今日だけど」
「うん。今日が? 」
「と、泊まって……いく?……とか」
「良いよ。ただ、パジャマとかは貸してほしいかもだけど」
なんで? そんなにキョトン顔なんだ? もともと、料理を作る。だか、泊まるだか。って、話を前にしてたじゃんね。
「パジャマは、前に貸したのと、同じブランドのあるから大丈夫」
「あの、ブランド神だよね! 誰が着たって可愛いの確定案件でしょ」
「服とかブランドとかじゃないよ。八乙女さんが着てるから、可愛いんだよ」
「あ……はぃ」
ごめっ! なんか、不意打ち過ぎて、スンッてなっちゃった!!
もう!! チーズミルク粥の味が分かんなくなっちゃっだじゃん!!
アタシもシャワーを浴びて、泉さんの部屋に戻ると布団が床に敷いてあった。
良かった……恋人になったからって、最初から同じベッドだったら、ガチで心臓持たん。
今日は本当に濃すぎる一日だった……って、もう昨日になってるじゃん。
さすがに疲れた……肉体的より精神的に、生きてきた中で、いちばん疲れた。そして、いちばん嬉しい日になったかも。
「八乙女さん? 」
「なに? 」
ベッドで謎に泉さんが体育座りしてる……なんだ、やけに緊張してそうな顔してるけど。
「寝る前に……抱いて良い? 」
「は?…………………」
「違うの! そうじゃないよ!! 抱き締めて良い? っ、言いたかったの!!! ホントだよ! 緊張して……」
ビビったーーー は? って、一言しゃべってる間に、脳内では一気に事後的な雰囲気で、泉さんに腕枕されてるシーンになってたわ!!
「良い……よ」
どうしよう? アタシが泉さんの方に行くのか?……あっ、泉さんから来てくれるのね。
ベッドから降りると、アタシと向かい合う泉さん……もうアタシの心臓の音聞こえてない? めちゃくちゃバクバクしてるんだけど。
「なんか、恥ずかしいから。電気暗くしない? 」
さっきはアタシから泉さんを抱き締めたけど、雰囲気を噛み締める余裕なんてなかった。
別にハグなんて優梨とも叶乃とも何回もしたことあるじゃん! 中学の頃だって、友達と体育祭とか卒業式とか、何回もしてたじゃん!!
なんで、こんなに緊張しちゃうんだ……
「じゃ。だ、抱き締めるね」
「う、うん」
好きな人からの初ギューとか、神イベント過ぎる!!
優しく包まれてる感ヤバっ
「も……もう少し。……強くても……大丈夫……だよ」
アタシの言葉に反応して、少し強めにギュッてしてくるの、さすがに可愛すぎん?
匂いも温もりも全部閉じ込めてーーー!!
一生この腕の中から出たくないし、出さないでください!!
泉さんの心臓の音が早くなってくのを感じる……アタシと同じくらいかも……
少し上目遣いに泉さんを見る……盗み見みじゃなくて、ちゃんと見たい!!
潤んだ瞳の泉さん…………ちょ 顔が近付いて来るんですけど!
「待て! 」
ピタッと止まる泉さん……ったく。さっきも言ったのに。
「唇が痛いんだって」
……そんな、捨てられた犬みたいな目で見ても無理なもんは無理!
「発情した大型犬に噛まれたから……こちとら、恋するピュアな乙女なんだから」
「ごめん」
「あのキスはノーカンです。アタシは、まだ、ファーストキスもしてない。するなら、ロマンティックにしたいの」
「例えば? 」
「そ、それは……分かんないけど、、キスは今は無理」
おい! 頭をポンポンするな! なんか、アタシが分からず屋みたいじゃないか……でも、もう少しだけ撫でては欲しいかも……
「八乙女さん。必ず、八乙女さんを幸せにするね」
「ちょ! 段階飛ばしすぎ!! アタシらのペースでいいんだよ」
今はお互いが高揚感?ハッピー感に包まれてるけど、アタシたちだけの普通を作っていけば良い。泉さんとなら、必ず出来るよ。
「また、明日ね。おやすみ、八乙女さん」
「オヤスミ」
……え、待って、画面に表示されてる「10:32」って数字、マ? 一瞬、バグかと思ってスマホ5回くらいタップしたし。
え、本当に朝の10時? てか、もう1時間目とか終わって中休みの時間……2時間目じゃん。完全に詰んだ、ウケる。
立ち上がり、ベッドに目をやれば、スヤスヤと可愛い寝息を立てて、可愛い泉さんが寝ていた……キスで起こしてやろうか!……病み上がりで、昨日もあれだけ色々あって、さすがに疲れちゃったのかな?
起こそうかどうか迷ったけど、初めて見る、泉さんの寝顔が、あまりにも可愛いくて、起こすのを止めた。
今さら30分や1時間遅れても同じだろうし……泉さんは、どんな夢を見ているのか……好きだよ。泉さん。
部屋の中は泉さんの寝息と、時計の針が進む音しか聞こえない。床に散らばっていたものは、最低限だけ片付いている。
まだ、ところどころに『昨日』が残っていた……今日も放課後は、この部屋の掃除かな。
予鈴のチャイムが鳴り響く中、二人、息を整えて、教室の引き戸を引いた。
文化祭も終わった。中間テストも終わった。
一度は壊れかけた関係も、なんとか繋ぎ直した。
それでも――目の前にあるのは、いつもと変わらない教室だった。
こちらを向いたクラスメイトたちの視線を、『アイドルがファンに手を振る勢いで、大袈裟に手を振りながら、アタシの席へと向かった』
泉さんは良いよな! 廊下側で前から近い席で!!
「ふぅ〜。セーフ」
「完全アウトだろ! 」
優梨のツッコミに笑いながら、自分の席へと座る。
泉さんの席は、少しだけ離れている。
さっきまで隣で寝ていたのに。
なんか実感わかなくて、フツーに詰む。
「おは」
「ご機嫌よう。の時間だけどな」
「ご機嫌よう」
「本当にご機嫌みたいだけど、事後? 」
事後……いつか、本当にそうなっちゃう日が来るのか、想像が出来…………ない!
授業中。ノートを開く。文字は読めるのに、内容が頭に入ってこない。
ふと視線を上げると泉さんと目が合う。
……むり。
赤くなる顔を隠すようにノートを広げた。窓の外からは、秋の澄んだ青空が広がっていた。
互いの想いが重すぎて、一度は壊れかけたアタシたちの関係。
だけど、これからはアタシたちのペースで、アタシたちの普通を積み重ねていけば良い。
たぶん、それで良い。いや、絶対そのほうが良い。
晴れて恋人にはなった。正解かどうかは、これから決めていけばいい。でも、何も変わらないとも思っていなかった。
――この関係の名前が、まだちゃんと、身体に馴染んでいない。
第一部 完
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。 フォロー、レビュー、評価、コメントなど、宜しければお願いします!!
一部は二人の関係性メインでしたが、恋人になっても、お互いの激重感情に決着はついてません!!
二部は外圧(友達や先輩や先生や家族など)を受けながら、どう二人だけの関係性を作っていくか。になります。




