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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
八乙女 メル ヒロイン
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45/80

第45話 八乙女メル 告白 ②


「うっわ。ひっどい顔」それに……



 熱で潤んだ瞳と、泣き腫らして真っ赤になった目元……アタシの大好きな、あの涼しげで綺麗な顔を、アタシは自分の手でめちゃくちゃに壊してしまったの?


「上がるよ」

「なんで……来たの? 」


「え? 昨日言ったじゃん。明日も欠席するようなら、放課後来るって」


「……だって、私は」


「いちおう、RINEは来る前にしたからね。未読二件。続いてるあとに」




 だるっ……九発目




「とりあえず、中に入らせて。お邪魔します」




 そのまま泉さんの部屋へと入ろうとするも『ダメ!』と、必死にドアノブを握られて、止められた。




 だるっ……十発目




「うるさい! どいて。……ってか、どけ!! 」




 泉さんに大きい声で命令なんて初めてしたよ……当たり前にしたくはなかったけど。


 


 アタシの声と気迫に気圧されたのか、ドアノブに掛けられていた手の力が緩んだ。


 覚悟を決めて開けたドアの向こうは、アタシの知る「泉さん」の世界ではなかった。



 家に上がる時に泉さんを見た時から、想像はしていた……してはいたけど……鼻をつく、ツンとした酸っぱいニオイ。風邪だけのせいじゃないよね……




「派手に散らかしちゃったね」



 床に力なくペタンと座りこんだまま、泉さんは俯いたままだった。



 あちらこちらに散らかった衣服、バラバラに散らばった小物類。そして床のあちこちに広がる……生々しい吐いた跡。




 なんで……それでも、出窓に置いてある……アタシが上げたものだけは、綺麗にラッピングされたままなのよ……



 泣きそうになるアタシを必死に奮い立たせた。


 ダルいって……十いち?




「泉さん……シャワー浴びて」




 びくっと肩を震わせたあと、アタシを見上げた。 


 逆にしゃがみ込み、泉さんと目を合わせる。




 学校中の女子が憧れる「王子様」の面影なんて、どこにも残っていなかった。


 顔も酷いし、服も吐いた物で汚れていた。


 もう、今でも良いか。




「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き! 」


 


 十一回。言えたかな。マイナスな感情になった時は、プラスの感情、『好き』に変えて伝えれば、これからは、上手くやっていけるはず。


 


「こんなになるくらいなら、アタシの事を諦めなきゃ良いじゃん。何、勝手に諦めて自暴自棄になってんの? あんな自分勝手なキスで終わらせるな! 」

 

 バカじゃん……


 思わず、泉さんの両頬をビシッと叩いてしまった。

 

 ごめんね――泉さん。



「だって、私の『好き』は、八乙女さんの『好き』とは違う」


「アタシ、恋愛経験ゼロだし。言ってくれなきゃ分かんない、どう違うのよ」




 アタシが掛けてしまった呪いに、泉さんもアタシも掛かっちゃってたんだよね。




「れ、恋愛……」


「恋愛? 」


「た……対象」


「対象として? 」


「……大好き!! 」




 泣き崩れる泉さんを、アタシなりに優しく抱き締める。




「だから、同じじゃんね」




 泉さんを落ち着かせようと、髪に指を優しく絡ませて、ぎゅっと強く抱き締める。




「恋愛対象として好きかどうかは、少し前からずっと考えてた。でもさ、泉さんが他の誰かと付き合うの想像したら、無理だった」



 アタシなりに考えて、考えて、出した答えだ。

 

 「恋愛対象として。泉さんが大好きだよ」




 言葉にならない……泣きじゃくる泉さんを、ただただ抱き締める事しか出来ない。




「だ……れんあい……たいしょで…好き……に……ならない……って、言った」


「ねぇ。何で、アタシが昨日帰ったのか、分かる? 」


「わっ……わた……し……キスっし……から」




 泉さんは嗚咽混じり。途切れ途切れの呼吸の合間に、言葉を挟んだ。


 苦しいなぁ……胸が引き裂かれる……ごめんね。泉さん……アタシが何にも分かってなくて。




「違くないけど、違う。アタシはアタシの気持ちを無視して、無理矢理されたのがムカついたの」


「ごめ……ん、なさい……っ」




 何度も何度も声を詰まらせ、鼻をすすり。掠れた声で泉さんは謝罪の言葉を口にした。




「ねぇ、泉さん。アタシは泉さんと対等に付き合いたい。あんな、強引なキスを受け入れちゃったら、付き合った後に対等な関係でなんかいられない」


「……たい、とうなんて……っ、むり、だよ……っ。……わたし、すき、すぎるから……っ!」



 だるっ……いち



「『好き!』 じゃあ。アタシがどれだけ、泉さんを好きか知ってるの? 毎日の天気なんか、泉さんの一言で、晴れにも雨にもなるんだけど!! ってか、アタシが好きってアピってたって、何にも反応してくれなかったじゃん!! 当たり前みたいなクールな顔しちゃってさ!!! 学校中の女の子から注目浴びて、告白も何回もされて、アプローチも毎日のように受けてて……それを隣でアタシがどんな気持ちで見てたか知ってるの? 誰も泉さんには近付いて欲しくなかったし、告白なんてさせたくないし、聞かせたくもない。アタシだけの泉さんでいてよ!! 」




 一気に喋ったから脳に酸素が…………ふぅー


 思いっきり息を吸う。はぁ〜 思いっきり息を吐いた。




「恋愛対象として、泉さんが好きだよ。アタシと付き合ってくれる? 」


 もうこれは、泉さんがアタシの事をどう思ってても


「アタシは、もう好きだから」



 泉さんの目から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちる。手の甲で涙を拭っても、次から次へと溢れ落ちる。「わた……し……もう……無理だと……おもって」しゃくり上げる声に言葉が遮られながらも、泉さんは何度も深く頷いた。


 いつもの凛とした佇まいはどこにも残っていなかった。でも、そんな泉さんがとても可愛く思えた。





 泣きじゃくる泉さんの顔が近付いてくる。涙で潤んだ瞳も、赤くなった鼻の頭も、汚れた髪も服も。全部アタシのせいで、突き放すなんて出来るわけがない。


 出来る訳がないけど……




「待て! 」




 びくっと肩を震わせて固まる泉さん。




「唇が痛いの」 ワセリンを塗った部分を指差すと、シュンと困り眉になり「ごめんなさい」と、呟く泉さん。


 それでも、アタシにキスしたいのか、今度はソワソワとしだす……なんか、本当に大型犬みたいだな。




「今日は、これで勘弁してよね」




 泉さんの髪を指先で梳かしながら、引き寄せるようにして顔を近づける。鼻先を泉さんの形の良い、少し赤くなってる鼻先に、ちょんと重ねた。


 シャンプーの匂いも香水の匂いもしない……吐瀉物や汗の生臭い匂い。それでも、泉さんから発する泉さんだけの匂いは、アタシの心に優しく染み込んでくる。




 少し顔を離すと、恥ずかしさが込み上げてきた。熱を帯びた鼻先を思わず、こすった。


 きつく結ばれていた泉さんの唇が、不意に柔らかく緩むと、吐息のような笑いが漏れた。




  やっぱり、泉さんって、笑うと



 「めちゃくちゃ可愛いじゃんね」



 何度もアタシたちは鼻先を合わせた……



 「シャワー浴びたら、アタシと一緒に掃除しようね」


 



 10月26日、月曜日。晴れ。


 花火大会でもクリスマスでも、二人の誕生日でもない。


 何でもない日がアタシたちの特別な日になった。

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