第39話 文化祭 ⑦
『離れ校舎にいる方、届いてますか? まぁ 良いや。早く喋って。バレちゃうから』
ホントにどういうこと? 離れ校舎だけに流してる?? アタシと泉さん以外にいないでしょ。
『い、泉……』
コイツ! まだ、泉さんに絡んでくるのかよ!! ってか、なんで、コイツが喋ってんだよ。……名前なんだっけ?
『離れ校舎にいるって持田から聞いて……あのさ、俺の話しを良く聞いて欲しいんだけど……』
『ハイ、おわり! あのお菓子では、ここまで』
『ふざけんな! 何も言えて』プツッ
え? 放送が切れたんだけど……なんだ、これ??
「カノ、お菓子で買収されたのかな? 」
泉さんの反応が気になるけど、特に怯えてる様子もなさそう……
「なんかさ、意味分かんなかったね」
「中山君の事は。もう、どうでもいいから」
「そっか……」
そうだ中山だ! やっと思い出せた……って、特に中山との想い出もアタシにはないけど。
う〜ん。放送の前って、何を話してたっけ? 教室に戻ろう。で、良いのかな? ってか、戻る前に……
「あのさ、泉さん? 」
「なに? 」
「しゃ、写真撮らない? 」
「写真? 」
「そ。泉さんメイドと、アタシご主人様で」
スマホを取り出す……だって、撮りたいもん!!
メイドコス、ガチで神。ビジュ爆発しすぎ!国宝級だから、記念にツーショしたい!!
「良いよ。ポーズは、私が決めていい? 」
「え? 良いけど」
なんか泉さんもスマホ取り出したけど、珍しいな。あまり、こういうの乗り気じゃなかったのに。ってか、アタシ的には……
アタシが椅子に脚なんか組んじゃって座るじゃん。で、肘掛けに肘を立てて、気怠げに頬杖までしちゃうじゃん。
んで、泉さんがアタシの目の前で片膝を付いて、アタシが差し出した手に泉さんが手を添える。忠誠の証パターンでしょ!
それに、アタシが椅子に座って紅茶を飲んでいて、その横で泉さんが銀盆?って、言うのかな? なんか、銀色のトレイ。みたいなやつを胸元に抱えて一歩下がって控える。
泉さんは、少し俯き視線を落としている。窓からは木漏れ日なんかが差し込んでたら、さらに良き!!
アタシとの主従の空気感がエモいパターンでしょ!
「八乙女さん……これは? 」
泉さんのスマホを覗き込む。
待って……これは……『アゴクイ・目線そらし』の鉄板、黄金パターン!!
「い、良いけど。アタシが泉さんをアゴクイするんだよね? 」
コクリと頷く泉さん……キャワイイが過ぎる……こんなメイドさんいたら、即、正妻に格上げするわ!!
「じゃ。これで撮ろ」
身長差があるから、泉さんは膝を曲げてくれた。うつむいた泉さんのきゅっと尖った小さなアゴが、繊細なガラス細工を思わせる。
AIが作った顔でも、こうはならんやろ! ホント顔面国宝の世界遺産!!
と、とりあえず泉さんのアゴを指で軽くクイッと持ち上げた。指が震えていたのは内緒。
泉さんは、恥ずかしそうに視線を斜め下に逸らす……ガチ美人の伏せ目、まつ毛バチバチで色気エグくて草 思わずゴクリと生唾を飲んでしまったじゃんね!
「と、撮るよ」
「はい……ご主人様」
……はぅっ! 変な声でそうになった。 もっと『ご主人様』って、呼ばれたい!! ヤバいって! これ、ビジュ良過ぎて、スマホ画面が耐えられないんじゃ!? 撮ったものを急いで確認する。
#尊死 #推しが尊い #ビジュ爆発 #しんどい #限界オタク
あぁ……アタシの心のSNSだけに上げとくけど、こんなん、万バズ確定案件でしょ
これからも、たくさん付けるであろう、アタシの全イイねを、いま、このツーショに捧げたい!!
身分違いの恋の切なさが、画面から飛び出しちゃってるって。絶対無理な相手って、分かってんのに、沼りすぎててマジしんどい。 他の生徒からアプローチを受けてるのも、最近は良く見掛けちゃうし……
「きょ、共有するね」
「――撮れたね」
泉さんは小さくそう言って、スマホを伏せた。
『バーン!』突然、鼓膜を震わせた破壊音に心臓が飛び跳ねた。
なに!? 慌てて音の方に振り向く。
「泉……」
ドアを開けて、肩で息をしていたのは、泉さんに絡んでいた男子だった。
「中山! さっきの放送」
「八乙女……悪い。泉と二人になりたい」
「は? させるわけないじゃん!! ってか、帰れよ」
中山はアタシから泉さんに視線を移した。
「泉……俺が嫌いなのは分かるけど、どうしても伝えたい事がある」
「…………良いよ」
「泉さん? 大丈夫?? 」
「えぇ」
本人が『良いよ』言ったら、アタシにはどうする事も出来ないじゃん。
「じゃ、教室の前だと話し聞こえるかもだから、校舎の入り口にいる」
「悪いな、八乙女」
「中山が出てきたら、アタシ戻って来るから」
泉さんが小さく頷いたのを見て、空き教室を出た。
スマホの時計を見つめる……時間ばかり気になって仕方ない。二人きりなってから5分は過ぎていた……あまり、一緒にいて欲しくなくて、戻りたくなる気持ちを必死に抑えた。
少しすると、廊下から足音が聞こえてきた。足音はどんどん大きくなってくる。
「八乙女、ありがと」
「中山に、礼を言われる覚えはないんだけど」
フフッと、鼻で笑われた……
「お前、ぶん殴るとか言ってたけど、小学生の頃に、ぶん殴られてるからな」
「覚えてない」
「はぁ 泉も大変だよな」
小学生の頃。とくに低学年の頃は、男子と良く喧嘩はしていた。でも、一つ一つを覚えてないからなぁ
「盛大に振られたよ」
「は? 泉さんの事、好きだったの? 」
「昔な」
「好きな人の気を引きたいからイジメる。とか、小学生かよ! 」
「いや、小学生の頃の話な」
「あっ、そっか。」
だから男子はガキで嫌なんだよ。泉さんの気持ちを考えたら、やっぱりコイツを許すことなんてアタシは出来ない。
「『好きな人いる』って、言われちった」
その言葉が耳に入った瞬間、頭の中心をガンッと殴られたように、脳と視界が揺れた……
好きな人。泉さんが誰かを好きだって言った? 誰に? 誰を?
「そ、そんなの断り文句でしょ」
あれ? アタシ、声出てる?? 自分の声すら認識が出来ない……
「あんな、表情で嘘を言ってたら、ハリウッドでも成功するわ。じゃあな」
なんで? 前に聞いたときは『いないよ』って、言ってたじゃん。
夏休みに北海道に行ってた時に出来たの? それとも最初から『いないよ』って、嘘付いてたの?
泉さんのとこに戻らないと……なんか、脚が重い。頭も心も重いや。
うぅ……泣くな……ダメだよ……アタシが勝手に惚れただけなんだから……涙を流すなアタシ!!
自分のホッペを両手で思いっきり叩いた。
良し! 大丈夫。
笑顔、笑顔。一条先輩にも言われたじゃんね。せっかく可愛いんだから、笑顔でいないと。
空き教室のドアを開けて、いつものトーンで泉さんに声を掛ける。
「泉さん。大丈夫だっ……」 泣いてる?
「やっぱ、中山、ぶん殴って来る!! 」
「違うから。大丈夫だよ、酷い事も言われてないし、何もされてない」
……見間違いかな。泣いてるように見えたけど。ここは明るい話題とかで場を和ませないと。
「あのさ。前に料理作るって、言ったじゃん」
「覚えてるよ」
「あれ。9月くらいって言ってたよね? 」
「私、言ったかも」
「いま、何月? 」
「10月になったばかり……中間テスト終わったら、お願いしようかな」
「畏まり!! 」
これで良い。アタシは恋人になれなかったとしても、友達で十分じゃん……
「その頃は、お母さんも1週間くらい出張の予定だから」
「え? お泊まりして良いの? ってか。セリフが、なんかエロッ」
「な、なんで? 」
「なんでも」
『好き』って、伝えられないまま終わる初恋とかエモいよね。うん……めちゃくちゃエモいじゃんね。
「もう17時だよ。泉さん戻ろ」
「そうね。でも、怖かった」
「え? やっぱり中山が」
「違う。あの、待ってる間、一人だったから……ゆ、幽霊とか」
「ップ。泉さん、可愛いなぁ」
マジ不意打ち過ぎで、思わず吹き出してしまった……
「わ、私だって苦手なものはあるよ」
「ごめんて。じゃ、戻ろう」
プイッと横を向いた泉さんの横顔に……キスしたい……泉さんが幽霊を怖がるなんて誰も知らないだろうな。泉さんを知るたびに嬉しくなる。
人混みで溢れる校庭に出る。帰る人が多いからか、人混みの波に逆らって歩く。周囲の賑やかな話し声に軽快な音楽も、今のアタシにはどこか遠く、他人事のように聞こえてくる。
「八乙女さん? 受付大変だったの?? 顔色悪い気がするけど」
「ごめん、大丈夫だよ」
好きな人って誰? 怖くて聞けない。
「人……多い」
「泉さん。苦手だもんね」
泉さんが誰を好きになったとしても、アタシは泉さんを好きになる……そうだよ、泉さんに好きな人がいようと、アタシが好きなのは泉さんだ。
それは、何も変わらない……思い通りに行かないから恋なんだ!!
「アタシから、はぐれないように。手貸して」
「え? う、うん」
そっと、差し出された泉さんの手を握り締める。
それでも、好きって言いたいのに言えないよ。やっぱり、怖いもん。
誰かのものになる泉さんなんて嫌だ、そんなのみたくない。隣にいるのはアタシなのに、嫌だ嫌だ嫌だ……
繋いだ手を離したくない、回り道して、ゆっくりと帰りたい。
アタシの零れそうになる、想い、好き、初恋。全部全部全部、繋いだ手に込めた。
「泉さん、ちゃんと握ってね」
ギュっと、強く握り締める。
「はぐれちゃダメだよ」
下手くそな言い訳と一緒に……
「……ごめん! 八乙女さん。用事あるの忘れてた。帰るね」
強く握っていたはずの熱が、乱暴に引き剥がされる。
「ちょ、泉さん!? 」
呆然とするアタシを置いて、泉さんは人混みに消えていく。
メイドに逃げられた、ご主人様とか惨め過ぎて、余計に泣きたくなる。
なんで? アタシ何かした?? 教えてよ……
※ここまで、お読み頂き本当にありがとうございます!!
次からは泉視点になって、色々とドデカ感情とドデカ感情のドッカンバトルやら、なんやかんやありますが、次からも読んでやろう。って、方は是非、フォローや♥や☆やコメントなど頂けたら嬉しいです。
宜しくお願い致します。




