第37話 文化祭 ⑤
文化祭二日目、今日は一般公開日。受付の仕事も大変になる。
昨日のうちに泉さんと文化祭を楽しみたかったのに、結局最後まで一緒に回れなかった。
調理のトラブルだったみたいだけど、アタシに手伝えることもなくて情緒バグる。
「はぁ〜」……つい、溜め息を吐いてしまったけど、マジ無理、詰んだ。今日は一緒に回る事出来るのかな?
「ずいぶん大きな溜め息ですけど、来場者の前では笑顔でいて下さい」
「あっ。すみません、そこは大丈夫です」
隣に座るペアの先輩に、早くも注意されてしまった。……正門前に設営された受付所。最初は来場者が込み合うので、4人全員で対応する事となり、後は2時間毎に交代する流れになった。
って、言っても私とペアになる先輩は最初だけ3時間のぶっ通しになるんだけど。
先輩は書類をトントンと机に軽く打ち付けると、姿勢を正した。
「こちらが1年生のリスト」
「2.3年生は、私で対応するわ」
「ありがとうございます」
頭を下げてリストを受け取る。招待券は学年ごとで色が違っているので、込み合いそうな最初だけ、並んで貰う列も、学年ごとに分けた。
「アナタ。本当に近くで見ても可愛いわね」
「アハハ……良く言われます」
「私は、マコちゃん派だけど」
「マコちゃん? 」
誰、それ? ってか、この人。打ち合わせの時も思ったけど、合唱コンクールでピアノがめちゃくちゃ上手だった人だ。美人でピアノが上手い先輩で、一年生の間でも人気が高い……一条先輩。
「え? アナタといつも一緒にいるでしょ。泉 真琴、マコちゃん」
「泉さん……マコちゃん?……マコちゃん!! 」
なに、泉さんのこと『マコちゃん』って、呼べる距離感なの、一条先輩!?
「二年生の間では、アナタ八乙女派とマコちゃん泉派で、結構分かれてるわよ」
「それは別にどうでも良いんですけど……泉さんとは知り合いなんですか? 」
うわっ 凄いマウント取ってドヤ顔してくるな……美人なのに目が、アタシを品定めしてる的な? なんか嫌な視線だ。
「知り合い? うふふ……一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝泊まりしてた事も、たくさんあるわ」
「そうなんですか……泉さんからは、ひとっことも! 一条先輩の『イの字』も聞いたことないんで、知りませんでした!! 」
アタシだってお泊りした事あるし、一緒のベッドじゃなかったけど……お風呂だって……お風呂はまだだけど、妄想で入った事……あったっけ? なんか出演拒否された気が……くっ 頭が……
「小さい頃の話よ。マコちゃんとは、ピアノ教室が一緒だったの」
「それで……なんだ、そう言う事ですか」
「凄いホッとしてる顔になってるわよ」
なんか、この先輩会話がしづらいな……
「別にそんな事ないです。本当に泉さんから一条先輩の話なんて、これっぽっちも聞いたことないんで」
「そうよね。私は、マコちゃんに嫌われてるから」
「え? 心当たりはあるんですか?? 」
って、言ってみたものの……でしょうね。
『うふふ』と、気品ある笑い方をするけれど、アタシにはバカにしてる笑い方にしか思えない。
「私は、綺麗なものが好きなの。アナタも好きでしょ? 」
「そうですね」
「マコちゃんって、顔も立ち振る舞いも綺麗でしょ」
「そうですね」
どこに向かってるんだろ、この会話。なんか、怖くなってきた。
「だから、マコちゃんの嫌がる反応を見ると、ゾクゾクしてきちゃうのよ」
「そうですね……じゃない」
何それ? 泉さんが嫌がるから言ってるってこと?
「あの、涼し気な綺麗な顔が、拒否反応を示すたびに、最高すぎて鳥肌が立っちゃうのよ」
「ヤバっ……すみません。ヤバいですね。泉さんに、何を言ってるか知りませんけど、辞めて下さい」
「無理ね。私はそういう人間だから。アナタにできることは、私に酷いことを言われたマコちゃんを慰めるか、私がマコちゃんと接触する前に、どうにかすることかしら」
「一条先輩を校内で見掛けたら、泉さんの手を引っ張って、反対方向にダッシュすることにします」
「マコちゃんに目隠しした方が早いんじゃないかしら」
目隠し……泉さんに目隠し……やってみてたい。後ろから『だーれだ?』言っちゃったりして。『八乙女さんでしょ。ったく』とか。言われたい!
「か、考えときます」
「あと、勘違いしてほしくないのは、私には誠実に付き合ってるパートナーがいるわ」
「はぁ……」
「だから、マコちゃんをどうにかしよう。なんて、思ってないわ」
「はぁ……」
「マコちゃんに近付いて来る女の子は、昔から沢山いたけど、マコちゃんと一緒にいる女の子は見たことなかったから、アナタに少なからず興味が湧いただけよ」
なんだ? アタシは一条先輩に遊ばれただけなのか??
「マコちゃんのピアノに温度があったのも、アナタに関係あるのかしらね」
「泉さんが、出来る限りの練習を一生懸命にしたからです」
「そ。……入場時間になるわよ。暇つぶしに付き合ってくれて、ありがとう」
ムッカ……つく!!
「眉間に皺が寄ってるわよ。アナタのその顔を見てもゾクゾクしないわ。せっかく、可愛い顔してるんだから、笑顔笑顔」
「一条先輩が隣にいなければ、笑顔になります」
「そう、残念ね。今日、一日よろしくね」
すっごい笑顔を向けて来る。何も知らなければ、清楚なお嬢様にしか見えないのに。性格とのギャップがエグいて。マジ無理。今日二回目の詰んだ。
昼休憩も終わり、入場者も落ち着いて来たので、少し心に余裕が出来た。
優梨からRINEが定期的に届く。クラスのメイド執事カフェも順調らしく、みんな忙しくしてるらしい。
『文化祭も残り4時間になりました。まだまだ、体育館では軽音部の〜』
たまに聴こえてくるカノの放送。あのカノが真面目にやってる事で、文化祭の重みをアタシは感じてしまう。
全校生徒で作り上げる文化祭だから、カノも変な事は出来ないだろうけど。
一条先輩がチラッとこちらを見てきた。
「八乙女さん。15時になったら終わって良いわよ」
「でも、16時までじゃ」
「入場する人は少ないし、私だけで捌けるわ」
「良いんですか? 」
「別に良いわよ。私も去年は先輩にそうしてもらったし」
「ありがとうございます」
ちょぴっとだけ、一条先輩を見直した。
一時間だけとは言え、早く終われれば、それだけ泉さんとも楽しめるかも。15時になったらアタシも調理室かメイド執事カフェ行こうかな。
「で、八乙女さん。何人から貰った? 」
「えっと……」
机の引き出しから、折り畳まれた紙を取り出す。入場者から渡された、連絡先が書かれた紙……いらないっつーの。終わったら捨てよ。
「9ですね」
「そう……私は、10だけど」
「だから何なんですか。羨ましくもないですけど」
「羨ましがられたい訳じゃないわ。事実を述べただけよ」
「そうですね。好きでもない人から渡されても迷惑なだけじゃないですか」
「それは否定しないわ。で、八乙女さんは好きな人いるのかしら」
なんか一条先輩って、全てを見透かしてそうな目をしてるんだよなぁ……この人に本当の事を言うのも嫌だな。アタシの神聖な……邪な思いも少しは入っちゃってるけど、ピュアな気持ちが汚される。
「いないですけど」
「……そ。良い人が見付かると良いわね」
超超超超大きなお世話なんですけど。もう、見付てるっつーの。
「めるちょ、来たよ」
ド◯キで会った、中学の時の友達……マジか……6名って、女3の男3かよ。しかも、ほぼ同中じゃん。男に招待券渡すなら、あげなきゃ良かった。
「いらっしゃい。招待券見せて」
一応はちゃんとチェックしとくか。
「八乙女、久しぶりだな。いま彼氏いんの? 」
「うっさい。いま、喋りかけんな」
「相変わらず、こわっ。一応、これ。オレの連絡先」
「おまっ! ズリぃ!! 抜け駆けすんな。八乙女、こっち俺の」
「なんで、お前も準備してんだよ」
勝手に机の上に置かれたけど……ゴミが増えるだけじゃんね。
「八乙女、中学より派手になってんじゃん。ぜってー遊んでんだろ? 」
「もう、喋りかけんな。バカ」
一条先輩が『お客様はお客様よ』と、目で伝えようとしてるのは感じた。
ホント、同中の男子とかガキにしか見えない。高校入ってもぜんぜん変わってなさそう。
「オッケー。入って良いよ」一通りチェックを終えて、半券を女友達にまとめて渡す。
「めるちょ、ありがと。一通り回ったら、メイド執事カフェ行ってくるよ」
「泉もいんだろ? メイド? 執事?? 」
聞いてきたのは、アタシには連絡先を渡してこなかった男子だった。
「泉さんは、調理係だから、裏方だよ」
「あっそ」
ん? コイツ、同中でいたっけ? 小学校の頃に一緒だった気が……そう言えば、低学年の頃、泉さんとも遊んでたんじゃなかったっけ?
あの頃の泉さんを、アタシはあまり覚えてないけど……
もうタイムスリップして小学校の頃に戻らないかな! 小学生だったアタシに言いたい『泉 真琴』とは、仲良くしておけと!!
男子二人が、ギャアギャア話して来るのを無視してると、女友達が二人を引っ張って行ってくれた。
校舎の中へと向かっていく際に、女友達が振り向き『ゴメン』のジェスチャーのあとに手を振ってくれたので、手を振り返す。
男子が机に置いてった紙も邪魔だし……これは!
「あっ。いっちじょおぉ、せんっ〜ぱい」語尾にハートマーク付ける勢いで言ってみた。
「あてぃし……11になっちゃいました。キャハ」
男子が渡してきた紙をヒラヒラさせ、100%フルスマイルを向けた。
「本当にアナタ、良い性格してるわね」
「えぇ〜。そんなぁ 一条先輩ほどじゃないですよぉ」
ハイ勝ったー! こんなので勝ってもって感じだけど、一条先輩には張り合ってしまう……今のアタシ、ドヤスマすぎてウケるw
…………ってか、なんであの男子、泉さんの名前を出したんだろ?




