第36話 文化祭 ④
いよいよ、本番を迎えた文化祭当日の朝。校舎の中も外もすっかり文化祭仕様へと変わっていた。
廊下の窓をパッカーン開けて、ようやく秋めいた青空のもと校庭を眺める、ガチ今日の学校の空気感エモすぎ。ワクワクが止まらん! そして隣には泉さん。ドキドキも止まんないんだが!!
文化祭のキャッチコピー『境界線を、飛び越えろ』にふさわしく、正門には来場者を迎え入れる為、極彩色で彩られたアーチやバルーン。
あのアーチが日常と非日常との境界線なんだろうな。境界線を飛び越えろ……なんか、アタシに言ってんのかよ!って、思ってしまうような、タイムリーなキャッチコピーだよね。
校舎の窓や壁一面にも、各クラスや各部活で作ったポスターが貼られていたり、旗が垂れ下がっていた。無機質な校舎がいっきに華やいで見える。
「高校の文化祭って、中学とは全然違うじゃんね」
「中学では一日しかやらなかったし、規模も違うから」
風でなびく前髪を抑えた泉さんの横顔……好き
校舎の中に入れば、天井を覆う折り紙のチェーンやカラフルなポスター。普段とは全く違う景色に、思わずテンションが上がった
「あぁ、いたいた、八乙女。メイドと執事の予備用のコスプレだけど」
アタシを探していたのか、教室から優梨が出てきて声を掛けられる。なんか文化祭の作業書?みたいのと、スマホを両手に持ってるけど、いつ見ても忙しそう。
「ごめんて、同じのオンラインで数がなくて、予備だから良いか。と、思って」
「いや、もう別に良いんだけど。カフェやる教室って着替えるとこないから、調理室に持って行って欲しい」
「オッケー。持って行くわ、なんか、手伝えることあったら声掛けて、アタシ暇だから」
文化祭一日目は校内生徒のみでの参加だから、アタシは簡単な設営や機材のチェックくらいで、特にやる事もなかった。
優梨はもちろんだけど、泉さんも調理係だから、下ごしらえに、個包装の作業とかで忙しくなる。
泉さんと文化祭を回れる時間も少ないし……アタシも調理係でも良かったなぁ
優梨からコスプレ衣装を受け取り、泉さんと調理室へと向かう。
今日と明日の本番は、調理室で作ったものをワゴン等で教室まで持っていく。
そして、教室に作ったバックヤードで、綺麗に盛り付けたり、お客様の前でオムライスにケチャップを掛けたりする。
調理室と教室も同じ階にあるから、やりやすいのは皆が助かっていた。
「八乙女さん。明日の為の打ち合わせは大丈夫だった? 」
「ぜんぜん大丈夫。なんか、紙ペラ1枚渡されて、それ見ながら10分くらい説明受けて終わった」
思ったより簡単そうだし、心配する必要もなかった。それに16時以降は入場者もほとんど来ないので、受付も16時で終わり。16時以降に入場者が来たら担当の先生がやってくれることになっていた。
「受け付け四人でやるから顔合わせしたけど、なんか、ほかの三人とも美人だったり、可愛かったな」
「持田さんが、顔採用で八乙女さんを推薦したのかもね」
「って、思うじゃんね? 笑ってれば良い。みたいに言ってたし」
自惚れでもなんでもなく、そういう事だった。打ち合わせ後に、優梨に聞いたらアッサリと肯定されたし。女子校の文化祭で顔面レベルなら泉さんでも良かったけど、愛嬌面を考えて辞めた。言ってたな。
「なんか。打ち合わせで、学校の顔になるから、品位を汚す事はしないように。ってキツく言われた」
「八乙女さんなら、問題ないよ、大丈夫」
ぶっちゃけ、ミルクティーベージュにインナーカラーがベールピンクの派手髪……そして、耳朶に二つ、アウターコンク一つ。両耳に六つピアスあるんだけど、これって大丈夫なのか少しだけ不安なんだけど。でも、さっき泉さんが「大丈夫」って言ってくれたし、きっと良いんだろう。
調理室に着くと甘い匂いが漂ってきた。アタシも予備で置いてある、エプロンと三角巾を付けて、中へと入っていく。
調理係の何人かは、今日の分の材料のカット。お菓子で出す、ドーナツやクッキーなどを焼いていた。
「おつ。めっちゃ良い匂いすんね! 」
「おつ。一個くらいなら味見して良いよ」
「ガチ? やった 」
丁寧に手を洗い、既に焼き上がっていた、チョコクッキーを一つ頬張る。口に入れた瞬間からバターとカカオの良い匂いがし、噛むとザクザクっとした食感が病みつきになる。何よりめちゃくちゃ美味しい! なんだ、これ? どっかの有名ブランドのチョコクッキーを買って来たんじゃないの!? これ、作れんの?
「え? ヤバっ…ガチでレベチ! これ、本当に手作り?? 秒でなくなったの悲しすぎるんだが」
「それ、泉さんの手作りだよ。本当に凄い美味しいよね」
「プロじゃんね! 美味しすぎて一生食べてられるわ。ってか、食べてたい」
エプロンを付けて調理に入る泉さん。三角巾姿もイケメン過ぎるでしょ……さり気なく『一生』とか、言っちゃったけど
「気にいってくれたなら、良かった。八乙女さんに、今度作るよ」
ハイ、一生作ってください……なんか、お泊まりした時とか、腕組みした時もだけど、アタシがアピっても効き目0過ぎて無理。ぜんぜん脈なさそうでぴえん超えてぴえーーーーん……はぁ、しんど。
「ってか、予備のコスプレ、調理室に置いて行くから、なんかあったら使うように、メイドと執事係に言っといて」
ボウルに入れたバターを泡立て器で、かき混ぜている調理係に声を掛けた。
「オッケー。でも、予備のコスプレだけ、クラシカルなメイドに、貴族風ご主人様なのウケる」
「数足りなかったし、オンラインでも同じ店で買いたかったから。似たのそれしかなかったんだって」
クラシカルメイドって、コスプレメイドよりロング丈だし、落ち着いて品がありそうだし、ワンチャンこっちの方が良かったかも。
貴族風ご主人様もタキシード風だしクラシカルメイドとセットで合いそうだよね……チョイスミスったか? でも、アタシらのクラスに品位を求めるのが間違ってる気もする……何が正解だったんだ?
「八乙女さん。15 時以降なら、多分、時間出来そうだよ」
「ほんと? 良かった。じゃあ、そのころに、また来るね。二年生でやってるお化け屋敷行こう。なんか、前評判凄い良くて、めちゃ怖いらしい」
「あの……せっかくだから、別なとこ行こう。天文部の展示とか、他のクラスの飲食店とか、外の屋台とか」
「え? お化け屋敷楽しそうじゃん。まぁ、場面で決めても良いけど」
アタシは泉さんと回れれば、何でも良いけど。
「八乙女さん。文化祭の時って、何処行っても人混みになるけど、空いてるところって知ってる? 」
「なんで? 」
「私、人混み苦手だし。どこか静かに出来るところあれば、そこで休憩とかしたいな。って」
「あーね。離れ校舎なら、文化祭でも使用しなかったはず。どっかのクラスとか部活が休憩室で使ってるかもだけど」
「離れ校舎ね。ありがと」
忙しそうに、でも、楽しそうに調理するみんなが羨ましく思えた。
アタシが提案したメイド(執事)カフェなのに、あまり参加出来ないのも、なんか嫌だな。
教室に作ったバックヤードで盛り付けとか、お客様の前でケチャップ掛けたりは、出来ないかもだけど、調理室で作った料理をワゴンで運ぶくらいなら出来るかも。
「配膳係くらいなら出来ると思うから、人数足りなくなったら、スマホに連絡ちょうだい。じゃ、みんな頑張ってね! 」
全体に声を掛けて調理室を出る。高校生活なんて、きっとあっという間に終わる。
少しでも、みんなと一緒に文化祭を作った。そんな思い出が欲しかった。




