第35話 文化祭 ③
今日は放課後に泉さんとデート……のはずもなく、メイドと執事のコスプレ衣装を調べる為、バイト先、ファミレスの上にあるドンキに向かっている。
アタシの『泉さんをメイドに推薦して、メイド姿を拝んじゃおう大作戦』は失敗に終わった。
それとなく勧めても返ってくるのは『無理』の二文字だけ。結局、泉さんは調理係になった。
「この暑さで9月中旬とかガチ? まだ、夏引きずりすぎてて草。無理すぎなんですけど」
「八乙女さん、暑いのも寒いのも苦手だもんね」
「ほんそれ。早くアーケードの中に入りたい」
残暑ってレベルじゃないでしょ。夏、まだ優勝する気なん?
そんな暑さの中でも、さほど汗をかかず、涼し気に隣を歩く泉さんをチラ見する。
うーん。カッコかわちい……顔面国法に認定して欲しい。
ってか、泉さんからもジャスミンの香りがする。
アタシと同じ制汗剤にしたんだ。……エモ過ぎん??
泉さんと一緒にいて気付いた事はたくさんあるけど、アタシと歩く時は歩幅をあわせてくれる。それに、いつもさり気なく泉さんが車道側を歩いてくれていた。
気付いたのは最近だけど、『お姫様』扱いされているようで、気分が良い。でも、そこまでしてくれなくても良いのに。って、思ってしまう。
さて、泉さんのプライドと言うか、好意を無駄にせずに、どう伝えようか、悩ましい日々が続く。
アーケードに入ると日差しがなくなった分、涼しくはなったものの、今度は人の多さにイライラしてしまう。こんな、簡単にイライラするのも暑さのせいだね。
いや、すれ違う他校の女の子たちが、泉さんを見てるのが、なんとなく嫌なんだ……前は、こんなこと思わなかったのに。
「八乙女さん。今日は調べる為で、買う必要はないのよね? 」
「ないよ。調べて、同じの通販で買ったほうが良いし」
「でも、実際に当日着る人が選んだほうが良かったんじゃ」
「あーね。それ優梨にも言ったんだけど。アタシのセンスに任せた。言われたからね」
ド◯キに入った瞬間ナンパされたけど、秒で処理し、コスプレコーナーへと向かった。パーティグッズやバラエティ雑貨と一緒に置いてあるので、すぐに分かるのは助かる。
「八乙女さんって、コスプレしたことある? 」
「あるよ。ハロウィンの時とか、誰かの誕生日会の時とか」
「そうなんだ。何したの? 」
「なんだっけ? ナースもあるし、もちろんメイドもあるし……あっ、チャイナもやったな」
「……そうなんだ。なら、執事とかも良かったかもだね」
「あーね、執事のアタシか、どうなんだろ? でも、コスプレ楽しいよね。普段とは違うアタシになれて」
どれもこれも似たり寄ったりで、色以外はデザインも金額的にも大差なさそう
「ね、泉さん。専門店に行って買うほどじゃないよね? 」
「文化祭で使うだけだし、金額的にも、こっちで良いとは思うけれど、私は詳しくないから」
「ちゃんと、コスプレしたいなら専門店にするけど……なんか、安っぽいんだよな」
でも、みんなで同じの着るなら、こっちの方が良いか……まとめて購入もしやすいし。
「じゃ、こっちのメイドと、執事にしよう。あとでオンラインで買っておく」
予備入れてメイド5人と執事が4人……9人分買えば良いんだよね
「あれ? めるちょじゃん。夏休みぶり! ってか、何してんの? 」
ん? 不意に呼ばれ振り向くと、中学時代の友達が立っていた……友達の視線の先は、アタシじゃなく、明らかに泉さんだった。
「文化祭のコスプレ衣装を見に来たんだけど……泉さんは、久しぶりかな? 」
「えっと……たぶん」
泉さん、絶対名前覚えてないな…………なんか気まず。
「泉さんも久しぶりだね。中二の時だけクラス一緒だったけど……待って、泉さんマジでビジュ爆発してない!? 」
「そんなことないけれど」
うーん。顔色一つ変えない、クールビューティーめ。
「いや、増し増しになってるよ! ってか。めるちょ、こういうキーホルダー好きだったっけ? 」
「あぁ この馬と猫のやつ? 」
中学の頃からバッグに、ぬいぐるみは付けてたけど、キーホルダー付けるのは初めてかも。
「かわちいよね。アタシのここ最近で、一番のお気に。ね」
『ね』で、泉さんに顔を向けるも、目を合わす事が出来ない。ここ最近、チラ見とか盗み見が多い気がする……気じゃなくて事実か。
お喋りしてる時でさえ、まともに目線が合う事は少なくなった。
「そうなんだ。本当に、泉さんと仲良いんだ」
「あ〜、もう。そう言うの良いから」
「だって、中学の頃は接点なかったじゃん」
夏休み。一緒に遊んだ時も、自撮りしたのを泉さんに送りまくってたけど、『泉さんに送ってる』言っても、友達みんな。ピンと来てなかったしな。
ちょっと、このチャンスを頂いちゃお!
「JKなってからの、マブなんだよねー」
と、言いつつ。泉さんの腕に絡めて、ベッタリ腕組みなんかしちゃったりして……ごめんなさい。アタシの方が、一気にドキドキして耐えられんかも。
「え、待って、距離感バグってね?ww で、めるちょのクラス何やるの? 」
「メイド執事カフェ。で、今は、その時のコスプレを探してた」
「ガチ? 泉さんも執事やる?? 私も行くから楽しみ何だけど」
「あっ。えっと、私は調理だけかな」
分かりやすいくらいに残念がってるじゃん……みんな泉さんの執事姿って見たいんだ。
絶対、メイドさんの方が可愛いのに。
「マジかぁ。残念……って、私も待ち合わせしてるんだ。もう行くわ」
「さっさと行け」
「って、いつまで腕組みしてんだよ。顔面偏差値、高すぎのパワーカップルかよ! 」
「さっさささと、いけ!! 」
めちゃくちゃ噛んだじゃん! パワーカップル!?……カップル?……アタシと泉さんがカップル!! そう見えちゃうかな。女子校の制服だけど、そう見えちゃって欲しいんだが。
「もっちんに言っといてよ。チケット6枚だからね。って」
「言っとくよ。その6枚の内の2枚は、アタシだからな、感謝してよ」
「してるよ! みんなでメイド執事カフェ、遊びに行くから。バイバイ」
6枚……って、ことは6人で来るってことだよね? 誰が来るか聞けばよかった。
「八乙女さん?……」
「なに? どうしたの?? 」
「腕、どうすれば良いかな。って」
「腕?……ごめん! 」
慌てて、泉さんから距離を取る。ずっと腕組みしたままだった……暑苦しかったよね?
って、ホントは友達との話より、腕組みに意識をフォーカスしちゃってたけど……気付かれてしまったか。
腕組みくらい減るもんじゃないし、もう少しさせてくれたって良いじゃん!!
泉さん。力が弱いわけじゃないけど、二の腕も細い。骨格がそういう作りなのかな?
アタシも太くはないけど……二の腕すっきりマッサージもお風呂上がりにしてるのに、少しぷにぷにしてるのがコンプレックスなんだよなぁ。
「泉さんって、二の腕も良い感じに細いよね」
「私は……八乙女さんの二の腕。柔らかくて……好……良いと思うけれど」
「アハハ……。なんか、女の子の二の腕と胸の柔らかさって、同じって言う……」
あれ? これはある意味失礼な事をアタシは言ってるんじゃ……
「そう……なんだ」
「もちろん! 都市伝説だよ都市伝説!! 実際は関係ないじゃんね」
泉さんのテンション下がってる? もしかしたら細いのを、胸の事を……気にしてるのかな??
「そう……なんだ」
「そうそう。細いほうがモデルみたいだし良いって」
これフォローになってる? 泉さんのビジュやスタイルが今と同じじゃなかったら、アタシは泉さんを好きになったのかな?
「細くても、そうじゃなくても、八乙女さんの二の腕は魅力的だよ」
「そう……なんだ」
「私と同じこと言ってる」
クスッと静かに笑う泉さんが好きだ……
「でも、ごめんなさい。二の腕だけじゃないよ、八乙女さんが、魅力的なのは」
へぇ〜、ふ~ん。そう……なんた。なんか、すごい恥ずっ! 顔が熱くなってくる……エアコン効いてようが、残暑のせいだね。
泉さんのビジュやスタイルが今と同じじゃなくても……
ぜったい好きになったな。この、天然タラシめ!




