第34話 文化祭 ②
「企画書通ったから、ウチらのクラス、メイド執事カフェに決定」
優梨の声に、教室のあちこちからまばらな拍手が起こった。
「あと、配った資料の2ページ目を開いてください。文化祭までのスケジュールになります。細かいとこは、都度修正していきます」
文化祭まで約一ヶ月。ポスター作りや装飾制作、食品・衣装の準備、会場設営にシフト調整まで、必要なことが全て書かれていた。
ほんと、優梨ってマメだよね。生徒会の仕事もあるのに、いつこんな資料作ったんだろう。
「注意点ですが、禁止・制限される食品。調理・販売時の衛生ポイント。ここ、大事になります。なので、各々で読んだ上で、来週のLHRで、時間取って意識合わせします」
加熱処理をしっかりする書かれてるけど、半熟のオムライスはダメってこと? アタシ、オムライスはトロっとした半熟派なんですけど……けっこう、ダメなもの多くて面倒くさいな。
「で、今日は肝心の本番で、メイド・執事・調理係・それ以外の裏方。これを決めて行きます。裏方以外は立候補者優先にします」
立候補者……泉さんが自分から手を挙げるなんて、絶対ありえない。
優梨が次々に立候補者を募るものの、メイドも執事も調理人も数人しか手を挙げなかった。
周りから『メイドや執事は恥ずかしい』『調理人は責任重そう』とか聞こえてきた。
「メイドさん、あと2人は欲しい。誰かいませんか? 」
あと2人……アタシと、泉さん? なんとかして、推薦枠みたいな感じでブチ込めないかな。本当に泉さんが嫌なら諦めるしかないけど。
ってか。さっきから、みんなチラチラ見てる……なら、立候補しておくか。アタシの可愛さを表に出さないのは罪ってもんよね。それなら、ご期待に応えましょう。
「アタシ、メイドやろっか」……軽い感じて聞くと、周りから『絶対似合うよ』とか、歓喜の声が聴こえてくる。みんなも観たかったんだね、アタシのメイド姿。
「えっと、八乙女は別枠で、やって欲しい事あるから」
「あっ……はい」
何!? めっちゃ恥ずいんですけど!! それなら、先に言っててよ!!! 別にこっちだって、そこまでメイドしたいなんて思ってないんだからね!
「『アタシやろっか』ぷーくすくす」
叶乃がアタシの真似してバカにしてくる。ホントイライラするなぁ
「うっさい。叶乃も立候補しなさいよ! 」
「執事だったら、やってもいいかな」
「いや、どう見てもメイドのほう……でしょ」
叶乃の執事姿を想像してみた……ギャップってやつで面白いかも。どーせ、メイドでも執事でもマスコット的にカワイイ言われるんだろうけど
「じゃ、執事に立候補すれば」
「ん、別に良いけど」
え? ホントに良いんだ。合唱コンクールのパートリーダーでさえ、面倒くさがって、最後まで断ってたのに。
叶乃が手を挙げると「黛、メイドに立候補? 」と、優梨に返された。
「異議あり。誘導尋問です」
いや、模擬裁判!? まだ諦めてなかったの!?
「知らんし。何で手を挙げた? 」
「先ほど、メイドはあと二人欲しい。とおっしゃいましたが、実際は。執事があと二人欲しいのではないですか? 」
「めんどくさ。で、黛は執事に立候補したいの? 」
「そちらで、差し支えないかと」
「はぁ〜。答えは『はい』か『いいえ』でお願いします」
あっ……優梨が、叶乃に付き合い始めた
「いま、あなたはカノに、執事になりたいか? 質問した事実は間違いありませんね」
「めんどくさい……質問にだけ答えてください」
「はい、なりたいです!! 」
「黛も、他でやって欲しい事あるから無理」
「異議あり。証言の前提が違います」
「もう良いって。ごめんだけど座って。で、メイドさんいませんか? 」
叶乃は座るなり、釈然としない表情で、こちらを向いてきた。
「最初から、カノにも『やって欲しいことある』って、言えば良かっただけじゃん」
「叶乃が模擬裁判始めるから、少し付き合って上げたんじゃないの? 知らんけど」
「でた!『シランケド』言う人。カノ苦手なんだよね」
「はいはい、さーせんさーせん。で、アタシらって、何をやるんだろ? 」
「さぁ……ミスコンとか。シランケド」
シランケド使ってるじゃん! っとに、馬鹿にしてんのか? それにミスコンなんかやってないでしょ…… なんにしろ、今のアタシの最大優先事項は、推薦で泉さんをメイドに押し込むこと!!
「時間なくなってきたので、ウチからやって欲しい人に、個人的に声掛けます。推薦でも良いけど、その際もウチに言って。推薦された人にもウチから声掛けするから」
異議なし……あとで、優梨に『泉さん、メイドに推薦する』言っておこう。
LHRも終わった休憩時間。さっそく優梨に声を掛けた。
「おつ、優梨」
「ほんと、疲れた。誰かのせいで」
言われた本人の叶乃は、提出忘れしていた課題を、慌てて出しに職員室に行っていた。
「推薦だけどさ。泉さん、メイドさんとかどうかな? 」
「先に泉に言った方が良いんじゃない? 泉の場合、ウチから声掛けするより、八乙女から言った方が良いと思うけど」
「かなぁ? 」
「泉の性格からしたら、裏で何か話を進められるのを、余計に嫌うタイプだと思うけど」
…………胸の奥がチクチクする。なんで? アタシの方が泉さんを知ってると思ってた。
泉さんの一番の理解者はアタシだって、勝手に思ってた。悔しい……アタシの方が泉さんと一緒にいるのに……別に優梨が泉さんに惚れてるとかないし、優梨が悪いわけじゃない。
それでも、そこまで考えてなかった。アタシは自分のことばかり考えて、自分の事を最優先にしていたんだ。
「八乙女? 」
「ごめ。……そうだね。先に泉さんに言ってからの方が良いね」
「答え分かったら、早めに教えてくれ」
「うん。そうする」
もっと泉さんを知りたい……誰よりも泉さんを知りたい……泉さんの一番はアタシだって。誰からも思われるくらいに。
「うぅ……担任に怒られた」
「叶乃、お帰り」
「そりゃ、一週間遅れだからな」
机にグデンと突っ伏したまま、顔だけを叶乃は向けて来た。
「でさ、カノとめるちは何をするの? 」
「それな。ホントごめん。忙しすぎて言うの忘れてたんだけど」
優梨が忙しいのはアタシもカノも知ってるし、そこは二人とも怒ったりはしていない。でも、何をやらされるのか不安ではある。
「黛には放送係。で、八乙女は総合受付け」
「ユーリン。放送係? って、放送部がやるんじゃないの?? 」
「なんか、今年のスケジュール的に、文化祭と放送部の新人大会が、かぶったらしい。公欠扱いで大会参加するって」
アタシも色々と聞きたいことはあるけど、まずはカノにゆずった。
「なんで、それでカノなの? 」
「黛の作った声、美声で聴きやすいから」
「……じゃ、やるか。って、どういうのやるの? 」
「本番前にも打ち合わせあるけど、業務連絡とか、来場者にタイムスケジュールを伝えたり、迷子のお知らせ。その他諸々」
「ふ〜ん。了解」
地声とのギャップが凄いのは分かる。歌声も天使みたいだったし……天使の歌声を聞いたことはないけど。叶乃にはピッタリかもね。
「初日は普通に色々と周って良いし、二日目の一般公開日も休憩時間は、ちゃんとあるから、その時は、何してても良いよ。で、八乙女は総合受付け」
「大体は想像つくけど、一応は説明を」
「正門を過ぎた辺りに設営するらしいけど、入場する際に、来場者から招待券を受け取る。で、誰から招待券を受けたかをチェック。あとは、何処で何の催しをやっているかを案内したり」
「チェックって、分かるようになってるの? 」
「八乙女も打ち合わせあるから、心配しなくて良いよ。ただ、招待券にはコードが付いてて、全校生徒をリスト化した紙あるから、コードを照らしあわせれば分かる」
なんか、面倒くさそうだな。招待券貰ってない人を入れちゃダメ何だろうけど。
「文化祭二日目は、外部からのセキュリティも来てくれるし、そこまでシビアに考えなくても大丈夫だよ。ただ、来てくれた人に笑顔で対応してくれればオッケー」
「良かった……笑顔ならタダですから。いくらでも振り撒いちゃうよ」
「そう、それ。八乙女に求めてるのは、そっちなんよ。四人で受け付けするから、2.2に分かれて、ローテで交代。休憩中は、もちろん他のところ見に行って良いよ」
良かった。初日もあるし、少しは泉さんと回れそうかな。




