第3話 嘘・初・恋 ③
泉さんなら、もっとこう頭を使うと言うか、スマートにするのかと思ったんだけど……
ただ、さっきのはガチで怖かったし、ドキッとはした
走りながらも頭の中は絶賛混乱中である。心はドキドキしてるし、頭はぐちゃぐちゃだし。もう、なんなんこれ??
路地裏を走り抜けていたのか、広いコインパーキングに出ていた。
街灯の下にある自販機の横で、息を整える為に泉さんはしゃがみ込んだ。
さっきコーヒー飲んだばかりだけど、泉さんに何か買おうかな……ミルクティー好きって言ってたよね。
いや走ったばかりだしスポドリかエナドリだよね? 直接聞くか
「久しぶりに全力で走った気するよ」
「それなすぎる」
先に話されてしまったけど、アタシも久しぶりの全力疾走だったよ。
しゃがみ込んでいるぶん、泉さんを見下ろせるのは珍しい
泉さんは前髪が鬱陶しいのか、息を切らしながら、手でワシャワシャと前髪を崩し始めた。
すごい指と指の間隔が開くけど、泉さんってピアノやってたんだっけ。? 小学生の頃、合唱コンクールとかで、いつも伴奏者してたような。
弾いてる姿が、凄い綺麗だったのは覚えてる。
「普段はオデコ出してるから、こそばゆいんだよね」
「あ、あーね。ってか、泉さんビックリしたじゃん」
崩れたヘアスタイルを直したいのか、下を向いて頭を小さく振る泉さん。
西日に透けた泉さんの髪は少し赤く輝いて見えた。
「私も分かんない。なんで、あんな行動したのか」
「でも、男の子の顔見た? めっちゃギョってしてて、口パクパクしてたし」
泉さんの行動を、たぶん良かれと思ってやった好意を、無駄にはしたくなかった。
アタシが笑うと泉さんは顔を向けた。
アタシにつられたのか、珍しく一瞬だけ、泉さんも笑っていた……その笑顔があまりにも無防備過ぎて、キラキラフィルターが掛かったんだが。
そっか。アタシが思ってた泉さんは、どこかいつも構えていて、人を寄せ付けないオーラを出していたんだ。
なんだ。笑うと泉さんって
「めちゃくちゃ可愛いじゃんね」
え!? アレ?? アタシ何、言った? この『可愛い』って、何の可愛い?? 友達にいつも使う『可愛い』と、違う気もするけど?
なんで、こんなにドキドキしてるんだ? 走ったから??
ってか、アタシが変な事言ったから、泉さん下向いたまま固まったじゃん
ヤバい、今こっち観られたら顔赤くなってそうなんだけど
でも、ドキドキしてんのも、顔に熱が帯びるのも走ってきたからじゃんね
きっと、そうだよね
もう! どうして良いか分かんないよ!!
とりあえず、勢いのままミルクティーだけ買っちゃったけど
「泉さん、スポドリの方が良かったかもだけど」
スッと下を向いたままの泉さんの顔にペットボトルを近付けてみた
「お金は大丈夫。今日のお礼だから」
『ありがと』と、即、空気に溶けていきそうな声で受け取ってはくれた。けれど、こっちは向いてくれない
「あ、あの。泉さんって、何かSNSやってる? 」
「LINEくらい」
「そっか。アタシと連絡先交換しない? 」
下を向いたまま、黙ってスマホを渡して来たけど、勝手に登録しといて良いのかな?
普段使いはインスタとかじゃなく、LINEなんだ。
「ハイ、連絡先、フルで登録しといたよ! 」
ペットボトルと同じ様にスマホを近付けると、泉さんは受け取りながらこっちを見上げた。
ん? 何?? この、世界からログアウトしたみたいな間は??
「八乙女さんはずっと、可愛いよ」
街のノイズが消え……クリアに聴こえた泉さんの声は、ダイレクトに脳と心にブッ刺さってきた。
泉さんと目が合った瞬間、ーーバチッ。っと、目の前で何かが強烈にショートした。息苦しい! 酸素プリーズ!!
「アハハ、ありがと。じゃ、もう帰ろうか」




