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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
八乙女 める 確定演出
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第24話 お泊り

 上を向けば、まんまるお月様。

 昼間のニュースで、今日は満月だか。って、言ってたっけ。


 夏は夜。月のころは……月のころはさらなり…… あぁ……受験勉強で覚えたのに忘れた。


 まさか、夏休み初日に家出をする事になるとは思わなかった。誰もいない公園のベンチ、一人思いに耽る美少女ありけり。


 街灯に付いてる時計を見れば20時を過ぎていた。

 肌にまとわりつくような、湿度高めの生暖かい風が不快指数をさらに上げてくる。

 ジワジワと汗が吹き出し、前髪がオデコにくっつく。マジ最悪。


 この、どうしようもないイライラはパパに対してでもあるし、アタシに対してでもだ。


 テスト結果がさらに下がったこと。

 夏休みにバイトを多目に入れてしまったこと。

 それ以外は中学の頃の友達や、優梨との遊びの予定。

 さらに派手髪になったインナーカラーに、増えたピアスの数…………


 怒られるのも分かるには分かる。追試ライン、スレスレなのにバイトや遊んでる余裕なんかないだろ。って、事でしょ? この攻撃は全然耐えられた。

 お姉ちゃんと比較された事もギリ耐えられた。

 ピアスの数が増えた事に対して、怒られたのも耐えられた。

 でも、ヘアスタイルの事を言われたら、秒でブチ切れたね。

 売り言葉に買い言葉で、勢いのまま飛びだしてしまった。

 パパと喧嘩したなんて、何年ぶりだろ? ここまで言い争ったのは初めてかも知れない。


 だって、ヘアスタイルと成績に関係性なんかあるわけないじゃんね。せっかく泉さんのママが素敵にしてくれて、めちゃめちゃ気に入ってるのに。

 ホントイライラする!!


 ってか、高校生の夏休みだよ? 家に籠もってるよりは健全だと思う! 

 スマホだけ持ってきたけど、これからどうしよう。

 家に戻って謝れば良いんだろうけど、それはしたくない。

 最近はこういう時に、一番最初に思い浮かべてしまうのは


 不意に公園の入り口付近で『ザザッ』と、自転車が止まる音が聴こえてきた。


 ヤバっ さすがに女の子一人でいるのは危ないかも。

 急いで立ち去ろ……


「やっぱり、八乙女さんだ」

「え!? 泉さん?? 」


 思い浮かべたら現実になる能力を持ってしまったのか、アタシは?

 だとしたら、次は何を思い浮かべよう


「こんな時間に、こんなところで何してるの? 」

「お、お月見。アハハ……」


 さすがに家出してます。なんて、恥ずかしくて言えない。恥ずかしい事をしてる自覚はあるのに、家にも戻りたくはない。

 すぐにを上げて、帰って来るだろう。って、パパに思われてそうだから!!


 アタシがベンチに座り直すと、泉さんも隣に腰を下ろした。


「泉さんは、明後日からだっけ?? 北海道」

「そう。だから、色々と準備も兼ねて買い物行ってた」

 

 お父さんがいる北海道に行くらしいから、仕方ないけど、夏休み中に会えないのは、めちゃくちゃ寂しい。

 今日、会えたのはラッキーかもしれない。

 

 まんまるお月様を見上げる泉さんの横顔が、ミステリアスな感じで、たまらなく好きなんだよな。



「月、綺麗だね」

「え!? 」

「いや! そのままの意味で、深い意味はないのだけれど」

「う、うん」


 珍しく、泉さんが慌てふためいてるけど、なんなん?


 …………あぁ!!! なんか、月が綺麗って、アイラブユー。的な、意味で昔の文豪が訳したんだっけ?

 じゃあ、ここはアタシも博識なとこを泉さんに知ってもらおう。昼のニュースで知っただけなんだけど


「月って、毎年3.8cmずつ地球から離れてるらしい……よ」


 いや、この返しはダメでしょ! 告白もされてないのに、振った。みたいになるじゃんか!!


潮汐力ちょうせきりょくだね」

「ちょうせきりょく?? 」

「あっ。えっと、地球が月を『加速』させて外側に押し出している状態かな」

「ふ、ふ〜ん」


 慣れない事をするんじやなかった。ふっつーに『そうだね。綺麗だね』だけで良かったよ。


「八乙女さんは、本当はどうしてここにいたの? 」

「ねぇ、小学生の頃。この公園で遊んだことあるよね」


 話を変えようとするも、そんな、真剣な目で真っ直ぐに見つめられたら、嘘なんて付けないよ。

 ってか、目が綺麗過ぎて視線を外したいのに外せない。


「実は、家出をしてまして。ほんっと、大した事はないんだけど」

「何かあったの? 」


 今度は、そんなに心配そうな目をしないで、そんなに優しい声音で言わないでほしい。


「ちょっと、成績の事とか、バイトの事とか言われちゃって」

「それは、大変だね」

「ね。ホント大変で嫌になっちゃうよ」


 一番は、やっぱり髪の事なんだけどね。あっ、ダメだ。泣きそう……なんで、こんな時に頭を撫でてくれるのよ

 めるちポイントの時は振り向いてもくれなかったのに。

 なんで、こんな時に限って。


 泉さんの手に包まれると、張り詰めていた心の輪郭がゆっくりと溶け出していくのが分かる。

 優しくしないで欲しい、自分が情けなさ過ぎて、本当に涙が出て来ちゃうって。

 すぐに泣く女なんて格好悪いし弱いから嫌だ。今は優しくしないで、でも、見捨てないでもほしい。構ってほしい。

 


 アタシって、めちゃくちゃ面倒くさいんだろうな……


「少しだけ待ってて」


 言い残した泉さんは、自販機に向かって行った。

 戻ってくるなり『冷たいのしかなかった』とミルクティーを手渡された。


「あり……がと」

「どういたしまして」


 泉さんには静かな微笑みが似合うと思った。その笑顔を観ると、心が落ち着いて安らいでいく。


「八乙女さん、鼻」


 泉さんは自分の鼻をチョンと指し示した。

 必死に涙を堪えたぶん、鼻水が出そう。ってか、少し出てない?


 なんで、こんな姿を見せなきゃ行けないのよ。まだ、涙の方が綺麗だったじゃん!


「はい。ティッシュ」


 もう。ここまで来れば格好付けても付けなくても一緒だと思い、公園に響き渡るくらいに思いっきり鼻をかんだ。


「ふぅ、なんか。頭も心も鼻もスッキリした」

「良かった。じゃあ、家まで送るよ」

「え? アタシ、帰らないよ」

「なんで? 」

「家出中だから」


 泉さんの滅多に見れないキョトン顔。それでも美形なのはズルいでしょ。


「スッキリしたんだよね? 」

「したよ。でも、帰る帰らないは別だし」


 自分でも本当に子どもだな。とは思うけど、ヘアスタイルの事も言われて、すぐに帰っちゃダメなんだよ。そんな軽い思いで、この素敵なヘアスタイルにした訳じゃない。

 アタシのアイデンティティに関わる問題だ。

 もらったミルクティーを思わずガブ飲みしてしまった。


「これからどうするの? 」

「まぁ。夏だし、駅前とか行けば何とかなるっしょ」

「ダメだって、変なのに絡まれるよ」

「じゃあ、24時間やってるネカフェかカラオケ」

「時間的に、年齢確認されるよ」


 アウトローな事しか思い付かないから、正論で言われると何も返せない。


「家に戻ろう」

「嫌だ」

「夜遅くなるよ」

「嫌だ」

「家に電話だけでも入れなよ」

「嫌だ」

「今日だけ、私の家に来なよ」

「いや……じゃない! 」


 眉根を寄せて、困ったように泉さんは言ったのに対して、力強く頷いてしまった。


 すぐに帰るのだけは、アタシも本気で怒ってる感がなくなってしまうから嫌だ。

 馬鹿らしいけど、それがアタシなんだから仕方ない。


「でも、迷惑じゃない? 」

「なら、八乙女さんの家に帰ろう」

「それは、嫌」

「ワガママな、お姫様だね」

「後半部分だけ受け取る」

「前半あっての、後半だよ」


 泉さんは、珍しく、ふっか〜い溜息を吐いた。


「さすがに放おってはおけない。八乙女さん、お母さんは家にいる? 」

「いるけど」

「今、ここで、お母さんに電話して」

「なんで? 」

「『友達の家に泊まる』って、お母さんに許可を貰って」  


 友達……まぁ、それ以外の言葉なんてないのに、少しチクチクと心が痛んだ。


「許可なんていら」

「ダメ! 貰って!! 」


 珍しく言葉の圧が……少し怒ってらっしゃる? ここは素直に従っておこう。

 スマホを操作してると『スピーカーにして』と、言われてしまった。

 アタシって、そんなに信用ないのかな?? 悲しくなってくる。


「あっ、ママ。アタシ」

『詐欺ならウチは間に合ってます』

「いや、詐欺じゃないし! アタシの番号じゃんね!! 」

『アンタどこにいるの? パパも魂抜けてボーッとしてるから邪魔なのよ』


 凄い恥ずかしい……ねぇ、ママ。これ、スピーカーで友達に聞かれちゃってるんだよ。


「あのさ、今日は友達の家に泊まるから」

『友達って、まさか』

「女の子だよ。泉さんって子」

『泉さんって、アンタが最近仲良くしてる、可愛いイケメン』

「もういい、もういい!! とにかく、そういう事だから」


 あっぶな! ママの事だから何を言い出してくるか分からなくて怖すぎるんですけど!!

 早く切りたいよ。


『本当に大丈夫なのね? 』

「大丈夫だって」

「あ、あの。泉です」


 え!? なんで泉さんがカットインして来るん??


『あら、いつも娘がお世話になってます。迷惑だったら、その辺に捨てて良いからね』


 なんつー事を、可愛い娘じゃないの??


「いえ、迷惑だなんてとんでもないです。私こそいつも助けれてます」

『泉さんが一緒なら安心ね。本当にごめんなさいね、変なのに巻き込んじゃって』

「大丈夫です。大切な娘さんを預からせて頂きます」


 泉さんもなんかおしかくなってない? アタシは嫁にでも行くのか??

 そして、泉さんが登場しただけで、あっさりとオッケーになったんだが。

『失礼します』と、言ってから切った泉さんの顔は……なんか疲れてそうだった。

 ごめんね、初対面? 初代耳?? でママの相手は疲れちゃうよね。


「緊張した」

「あっ。疲れてたんじゃなく、緊張から開放された顔だったのか」

「良い、お母さんだね」

「そうなのかな」

「そうだよ。緊張したから喉が渇く」


 まだ、ミルクティー残ってるし


「ハイ。って、もともと泉さんが買ってくれたやつだけど」

「ありがとう……あ、後で飲むよ」


 今、喉がカラカラなんじゃないの? 別に泉さんの飲みたい時に飲めば良いけど


「良し、私の家に行こっか」

「うん! 」


 泉さん家って、どんなとこなんだろ?



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