第22話 六月の太陽
六月二十六日(金)晴れ
久しぶりに晴れた事もあるのか、どの授業も、みんな集中しており……ここまで書いて手が止まる。
金曜日は一番嫌いだ。土日は八乙女さんに会えない。私にとって、月曜日の朝が一番楽しみになっていた。
会う理由がないのに会いたい。と、思うのが、止められない。
頭では『友達』でいようとしているけど、まだ心が追いついてなさそう。
少しずつ友達らしくは……なって来ている、はず。
前に比べて、思った事をそのまま口に出せるようになってきたし。
「泉さん。日誌書き終わった? 」
「ええ。今、終わったわ」
「おぉ、成長したじゃん」
「八乙女さんの、おかげだね」
「ミリでも力になれたなら、良かった」
日誌のページを火曜に戻す。
八乙女さんが書いた日誌は『朝からずっと雨で、湿気が多すぎて前髪ソッコー逝った。少し癖っ毛だから、毛先が勝手にあっちこっち暴走して、マジで「お前どこ行くねん」状態。泣きたいのは空じゃなく、アタシじゃんね』
先生も呆れたのか『大変ですね』のコメントに、ハンコしか押されてなかった。
これを観たら、何を書いても良いんだな。って、心が楽になったよ。
八乙女さんと、こうして並んで帰るのも、当たり前になった。この、当たり前がずっと続けば、私のハッピーエンドが待っているはず。
「アタシ、今からバイトなんだけどさ。泉さん来る? 」
「来るって、バイト先に? 」
駅前アーケードのファミレスでバイトしてたよね?
「そ。なんか、さっき優梨から連絡あって、叶乃といるみたいに言ってたから」
「もう、いるんだ。私が、行っても良いのかな? 」
「え? なんで?? 全然問題ないでしょ」
持田さんと黛さんは二人でいたいのかも知れないし……
「用事あるなら無理しなくて良いけど」
「ないよ」
「じゃあ。優梨に連絡しとくよ『泉さんも来るって』」
気になってスマホをバッグから取り出すと、思った通り持田さんから通知が入っていた。
「連絡しなくて、大丈夫。持田さんから直接来てたから、『行く』って返すね」
「おけ! アタシも暇な時間あったら、こっそり様子見してる」
八乙女さんって、なんでバイトしてるんだろ? 社会勉強? 暇つぶし? 何か欲しいものがあるのかな?
「アタシ、裏口から入るから」
「うん、頑張って」
ファミレスなんて来たの久しぶりだし、友達となんて初めてだ。
地下に続く階段を降りて、店内に入る。
明るい『いらっしゃいませ』の声とともに、店内を見渡すよりも早く店員さんが近付いて来た。
端の席から手を振る持田さんが見えたので、店員さんに軽く頭を下げ、席へと向かう。
時間帯も関係あるのか、同じような学生がチラホラといるだけだった。
「お疲れ。ドリンクバーと、何か頼む? 」
「お疲れ様」
持田さんの隣に座ると、すぐにメニュー表を渡してくれた。こういうとこが気配り上手なんだろう。
「凄いね……」
「なにが? あぁ、黛の事か」
向いに座る黛さんの前には、フライドポテト、アイスパフェ。ハンバーグセット? 旗が立ってるけど、お子様ランチ??などが並んであった。
これ、夕食じゃないよね?
「黛からしたら、いつも通り」
モグモグと口に運ぶ黛さんは可愛らしいけど、どこにこれだけの量が入るんだろ?
「これも食べるか? 」
「食べる」
持田さんが差し出したのは、ソフトクリームが乗ったりんごパイだった。
すぐに頬張る黛さん。
「ユーリン。右の皿を差し出したなら、左の皿も差し出しなさい」
「強欲のイエスか? これは、ノーだ。ウチの」
「愛と忍耐が足りない」
「最後の晩餐にしてやろうか? 」
「晩餐は、晩餐で食べる」
不満気に『最後のとこに突っ込めよ』と、呟きながら、ガトーショコラを死守する持田さん。
「泉は決まったの? 」
「あ。うん」
本当は二人を観てて、全然決まってなかったけど、美味しそうだし、これで良いや。
「ドリンクバーとアサイーヨーグルトボウル」
「オッケー。泉っぽいな」
何が私っぽいのが分からないけど、手慣れた手付きでタブレットを操作する持田さん。
こういうの慣れてないから、それだけで凄いと思ってしまう。
なにより、猫型ロボットが配膳してるのに驚いてしまった。
ドリンクバーも少し悩んだけど、無難な紅茶にして席に戻る。
「泉さ、期末テストもうすぐじゃん。勉強してる? 」
「予習復習くらいなら」
「じゃあ。テスト勉強はしなくてよろしい」
「ユーリン。一位狙ってるんだとさ」
「中二の時に一回だけ、泉に勝った時あるけど、その時は二位だったし」
私がピアノの事で悩んでた時だ……成績を理由に辞めたけど、メンタルに影響されやすいから困る。
「なんで、イズミンって、この学校選んだの? 」
「え? 」
「イズミンなら、もっと上の学校行けたでしょ」
「ウチらの学校も、けっこう偏差値高いからな! 」
なんでって。そこそこ家から近くて、そこそこ偏差値良くて、女子校だから。大した理由なんてない。
「とくに行きたいとこもなかったし……二人は? 」
「ウチは、上下関係も校則も緩い。って、先輩から聴いてたから」
「カノは、大好きなユーリンが行く。って言うから」
「黛、これもお食べ」
持田さんは、ニコニコ顔でガトーショコラを差し出した。
「チョロい」
「おまえ! やっぱり、返せ!! 」
言った時には遅く、ガトーショコラは黛さんの、小さい口に入っていった。
それぞれ理由がある事が羨ましくもあった。私は、いつも何をするにも理由なんてなくて、成り行きばかりだ。
これが、したい。これが、欲しい……ダメだ、八乙女さんの事しか浮かばない。
「八乙女さんは、なんで入学したんだろ? 」
「アタシがなに? 」
気が緩みっぱなしで、八乙女さんが近付いてたの気付かなかった。
「アサイーヨーグルトボウルお持ちしました」
「あ、ありがとう……ございます」
猫型ロボットが持ってくるもんだと思ってたから、突然の八乙女さんで、何か恥ずかしい。
「めるち。あれやって。美味しくなるやつ」
「はぁ〜。お客様、お店間違えてません? コンカフェじゃなく、ファミレスなんだけど」
「イズミンも見たいって」
私に振らないで! 見たいけど、振らないで欲しい……想像してしまって、八乙女さんを観れなくなった。
「泉さん、見たいの? 」
なんて言えば正解なんだろ? 見たくない。も、それはそれで失礼な気もするし……ここは、正直になっても良いのかな。
「み、見たい……かも」
「もう、しょうがないなぁ。お客様も少ないし、特別だからね」
「いや、八乙女。ノリノリじゃん」
声のチューニングする。と、言った八乙女さんは、小声でブツブツ呟き出した。
「よし、おっけー」
両手でハートマークを作る八乙女さん。それだけで可愛い。
「ガチで愛の魔力注入完了!萌え萌えきゅんとか、ハイ優勝〜!神案件、アゲ〜 」
「こいつ、ヤバっ」
「めるち……完」
八乙女さんを終わらせないで! 八乙女さんも、そんな悲しい顔しないで!! 思ってたのと違うけど、萌え声が凄い可愛かったし、八乙女さんらしいから、私は好きだよ!!
アサイーヨーグルトを一口だけ口に入れた。
「わぁ……美味しい」
美味しいのは本当だけど、私の演技力のなさが、逆に凍り付かせてしまったかも。
「ごゆっくりどうぞ」
感情がこもってないし、目が虚ろなまま、八乙女さんは戻って行った。
ごめんなさい。守るって決めたのに、こんな守り方は知らない……
「やっぱ、アイツおもしれーな。パンケーキとかオムライスなら分かるけど、アサイーヨーグルトだぞ」
「めるち、おもしれー女」
「フライドポテトに、わさび付けてるお前も、おもしれー女だよ」
「おとなの味」
「お子様ランチ食べてた奴が、言うセリフじゃない」
やっぱり、お子様ランチだったんだ……
「で、さっきの質問。八乙女が、ウチの高校選んだのは、制服がセーラー服で可愛いからだって」
「それだけ? 」
「それだけ。って、伝統ある、ウチの学校のセーラー服に憧れてる子は多いぞ」
八乙女さんセーラー服似合うものね。少しスカート丈が短いのは気になるけど、絶対的な正義の八乙女さんだもん。あんなに可愛い子は他にいない。いや、比べること自体が、おこがましい。
「そう言えば、めるち。最初のテスト悪くて、パパさんに怒られたってさ」
「あぁ。言ってたな、最初からバイトばかりしてるから、少しは勉強しろ。って」
「なんで、そんなにバイトしてるんだろ? 」
「夏休みはインナーカラーにしたり、色々行きたいとことか、あるらしい」
「昨日が給料日だったから、期末テスト終わった後にするって、言ってた」
それでお金貯めてたの?
お洒落な八乙女さんっぽい。私も八乙女さんと、色々行きたいけど夏休みは……
そんな事を考えていると――
「泉の家って、美容院じゃなかった? 」
「え? そうだけど」
「イズミン。美容師だったのか」
「もちろん。母親がね」
「しかも、街中にある。めちゃくちゃ、お洒落な美容院」
あれ? 私、お店まで教えたことあったっけ? 誰にも言ったことないよね??
「中三の授業参観の時に、凄いモデルみたいな母親いる。って、話題になったけど」
「そんなの知らない」
友達らしい友達がいなかったし、私の耳には入って来なかった。『凄いモデルみたいな母親』……少し恥ずかしくて俯いた。
「その店を予約した。って、八乙女言ってた気がする」
「え?」
思わず顔を上げた。
平静を装ったまま、喉の奥で息をのんだ。
第二章 完
※ここまで読んで下さった方には感謝しか御座いませんm(_ _)m
本当にありがとうございます!! 更新頻度が少なくなりますが、書き続けますので、宜しくお願いします!
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