表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
泉 真琴 近付けない距離
PR
19/52

第19話 ピアノ ③

 音楽室では初めての全体練習。パート事に並ぶクラスメイトたちの顔は、私から見ても緊張感がなかった。


「パート事のリーダーだけ、集まって。八乙女と泉も」


 持田さんが音楽室の隅へと移動したので、パートリーダー三人と八乙女さんとで、あとに付いていく。

  

「10分、休憩。休憩後に譜面でも観てて」


 皆が隅に集まると、持田さんは他のクラスメイトに向かって指示を出した。

  

「なるべく小さい声で話すから、もっと近づいて」


 私たちに手招きする持田さんに合わせて、小さい輪を作り顔を近付かせた。


「ウチらのクラス。何人かは、やる気0やん。って、黛は何を口に入れた! 」


 黛さんに目を向けると、小さいお口がモグモグとせわしなく動いていた。


「バレた。喉を潤すグミ」

「せめて、のど飴にしてくれ」

「大丈夫。カロリー0」

「いや、知らんけと。IQも0だろ……って、黛の事じゃない」


 持田さんが黛さんに向かって舌打ちしたけど、普段から仲が良い二人を見るのは楽しい。


 「叶乃。ちょっと、ごめん!」


 少し身を乗り出した八乙女さんが、黛さんの両耳を手で添えた。

 私も前にされたやつだ……ASМRとか言ってた気がする。


 八乙女さんは腑に落ちないような顔をしながら、両手を引っ込めて『なんなんだろ』と、呟いていたのが聞こえた。

 

 そう呟きたいのは、突然、不思議なものを見せられた私たちだと思うけど。

 


「ってか。アタシ、指揮してるから、皆の視線が丸わかりなんだけど……」  


 八乙女さんがチラッと私を見てきたので、ついドキッとしてしまう。

 いつまで、こんな些細なことで振り回されてしまうんだ。


「アタシを観るより、泉さんばかり観てる人いるし、そりゃバラバラになるよね」    

「はぁ〜。何のために泉がピアノになったんだよ」

「逆に泉さん指揮者の方が、みんなはちゃんと観るかも」 

「それは、私が困る」


 一人のピアノよりは合唱の方が弾きやすいし、指揮者は……真正面から皆に観られるのは苦手だ。


「いまさら変更とかしないって。どうしようか? 」

「ユーリン。良いこと思いついたよ」


 黛さんが律儀に小さい手を、小さく上げてるのが可愛い。喉に天使が住んでるんじゃないか。って、くらいに美声だったのには驚かされた。


「あ〜……いちおう。聞くだけ聞いておこう」

「指揮者のすぐ後ろにピアノを置く」

「やっぱ、IQ0じゃん。本番のステージ上は、指揮者の後ろなんてスペースないだろ」

「じゃあ、手前に置く」

「配置が斬新すぎる! 」


 各リーダーも発言はするものの、なかなか良い案は出て来なかった。

 

「アレじゃん。校内合唱コンクールで、ガチでやらなくても。って、思ってるのかもね。来年も再来年もあるし」

「でも、このクラスメイトでやる合唱コンクールは、たったの一回。いま、隣にいる人たちが同じクラスになるとは限らない」


 八乙女さんと一緒のクラスには慣れた。二年でクラスが離れたら、関係性はリセットされてしまうかもしれない。


 強制的に離されたら、私は『友達になること』と、『遠くから観てるだけ』どちらを望むのか。

 近付きたいけど、近付き過ぎるのは怖い、それなら離れていたほうが……中途半端過ぎて嫌になる。


「優梨。言ってることが深過ぎて草 」

「ウチらのクラスのスローガン、忘れたの? 」


 持田さんが、私たち一人一人と視線を交わしながら問い掛ける。


「『毎日がハッピー。とりまエモさとメロいを追求するクラス! 』」


 私以外はハモった。別に口に出して言う必要はなかったのに、ここにいる人たちは見事に調和は取れていた。


「そう、それ。クラス総意でのスローガンだからね。それに、一位はエモいでしょ」

「アタシ、メロい担当か」

「ウチからしたら、みんなメロイって」



 その後の話し合いで『共通の目標』『相互理解』『成功体験』の三つをベースにクラスの団結力を深める方針が取られた。


 まずは、本気で一位を取りにいくか。

 適当にやって、適当な順位でやり過ごすか。

 多数決をとった結果、集団圧力が働いてしまった人も少なからずいたと思う。

 でも、全員一致で、本気で一位を取りにいく事に決まった。




 


 実際に翌日からは、持田さんの提案で色々と試みた。目標を共有したり、朝のHRで五人ずつくじ引きでグループを作り、昨日あった事を一分ほど話したり。帰りのHRでは伝言ゲームや共通点探しをした。


 正直、最初は面倒だと思った。でも、朝のグループトークで今まで話したことのないクラスメイトと会話するうちに、少しずつ名前と顔が一致するようになった。


 自分から話しかけるのが苦手な私にとって、こういう切っ掛けは案外ありがたかったのかもしれない。






 人によっては最初こそ『意識高い系ウザい』や『個人を尊重してほしい』――などの声もあったけど、持田さんの丁寧なフォローと、八乙女さんの巻き込み力で、どんどんクラス内の雰囲気もまとまっていった。

 






 全体練習が出来るのも最後。ピアノを弾いていても、みんなの合唱が最初の頃と比べ物にならないのを感じる。


 それは八乙女さんも同じで、指揮をしてる時に左手の使い方が分からず、無闇に大きい動きになっていた。

 

 合唱自体にはそこまで影響を与えてはいなかったかも知れない。でも、もっと良くなるなら……もっと合唱が上手くなるなら。と、思い、苦手なアドバイスもしてみた。

 

 もとから、感情表現や表情の豊かさが、魅力的な八乙女さんの指揮は劇的に向上した。

 なにより、私も弾きやすくなった。八乙女さんと同じ波長に溶け込む感覚。心の奥を撫でられてるみたいで、少しくすぐったい。

 私の奏でる旋律をみんなが支えてくれる。

 音の流れが、こんなにも居心地の良いものなんて知らなかった。


 もし、もっと早くにこの体験をしていたら、ピアノも続けていたかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ