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女子高の王子様は、アタシにだけ重すぎる   作者: ちーよー
八乙女 める 近付きたい距離
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14/50

第14話 合唱コンクール ②

 泉さんの様子が何かおかしい。

 壁を感じる気がする。少しは仲良くなったと思ったけど、アタシだけだったのかな。


「前の練習は一人にさせちゃって、ごめんね」

「気にしないで」


 二回目の練習の日。シフトに入ってたバイトの子が体調不良により、急遽呼ばれてしまった。

 アタシが風邪の時に変わってもらった事もあるし、そこはお互い様なんだけど。


 ピアノの前に座るなり、早速弾き始める泉さん。

 ピアノのテンポが前の時より、焦ってると言うか速い気がするし音が強い。


 アタシが急に練習休んだことを怒ってる? 

 でも、泉さんが、そんな事で怒るようには思えない。


 泉さんでもプレッシャーとか感じるのかな?  


「1回ストップ」 


 アタシの言葉に、泉さんはすぐに演奏を止めた。手は鍵盤に掛かったまま動かない。

 少しすると『フッ』と、鍵盤に刺さりそうな鋭利な溜息を吐いた。


 泉さんに何があったのか、どういう心境なのか分からないけど、何かに悩んでるのか、怒ってることは感じる。

 それをアタシが土足のまま突っ込んで行って良いのかどうか


 「座ったままで良いよ」


 無理やり泉さんの隣に座った。二人で座ると当たり前だけど狭い。肩が触れるか触れないのかの距離に緊張するけど、強がって当たり前みたいな顔をした。


「何しているの? 」

「ここに、座りたい気分だったの」


 泉さんが椅子から立ち上がらなかったのは、アタシに対しての意地なのか、どうでも良かったのか。


「口、開けて」

「なんで」

「良いから」


 納得したのかしてないのか微妙な表情のまま、泉さんは口を小さく開けた。


「ほい」


 何ていうんだっけ?鳩が豆鉄砲??食らったみたいな、思考停止して珍しく、泉さんの目が点になっていた。


「グレープ味のグミ。噛んで」


 理解が追いつけないからか、素直にアタシの言う通りにグミを噛み始めた。

 アタシも同じ様にグミを噛む。


 防音された静かな音楽室。

 ほぼ、ゼロ距離で横並び。

 自分の、そして相手の。

 コーティングされたグミを、噛む音だけがリズム良く聴こえる。甘酸っぱい……

 泉さんの心のコーティングも溶ければなぁ。とか、思っちゃったりして、自分の乙女心に酔ってみる。


「グミってリラックス効果あるらしい」


 泉さんは静かに笑ってくれた。


「そうみたいね」

「ってか、このグミ美味しいじゃんね」

「私も前に、食べた時に思った」


 だから、買って来てるんだけどね。


 「叶乃かのから教えてもらったんだけど、こうするとASМRっぽくない? 」


 泉さんの両耳を両手で軽く塞いだ。

 また、目を丸くした泉さん。

 慌てて、両手を耳から離した。


 「ごめん! 」


 なに、勝手に泉さんの耳に手を添えてるのよ! つい、叶乃にしてたこと、しちゃったじゃん!!

 『大丈夫』とは、言ってくれたけど、恥ずかしくなって、同じ事をすることが出来ない。

 叶乃の時はこんな気持ちにならなかったのに。  


 「なんか。キスの時にも、お互いに相手の両耳押さえると、凄いらしいよ。これも、叶乃が言って……た」


 泉さんと視線が絡む。なんだ、このフワフワ・トロトロした空気感? 

 恥ずかしいから、別なこと話そうとしたら、もっと恥ずかしくなった。

 

 叶乃が同人誌で得た知識を、アタシに教えてくれただけなのに。

 でも、ほんの一瞬だけ。泉さんとのキスシーンが脳内スクリーンにデカデカと映し出された。

 2Dだから良かったけど、4DXに進化したら、マジしんどい! 

 今まで、こんな事なかったよね?……この、妄想はセーフ??

 

 場をつなぐように『アハハ』と、力なくアタシが笑ったあとは静寂が訪れた。

 

 終わりの時間が来るまで。そのまま二人。グミを分け合って食べた。

 何も喋らなくても、嫌じゃない時間。

 何もしなくても、嫌じゃない空間。


 緊張は少ししちゃうけど、泉さんといるだけで、アタシは楽しいし満たされるんだ。




「最後に一回だけ、泉さんのピアノ聴きたい」 


 頷くと泉さんは、静かに弾き始めた。

 そのピアノの音ははじめに聴いたのとは全部違っていた。優しく、勝手にアタシに寄り添ってくれているように感じた。

 思ったのは、ゆっくりと氷が溶けていくような感覚だった。

 

「ありがとう。聴き入っちゃった」

「私のほうこそ、ありがとう」

「うんうん。じゃ、帰ろっか」

「私、用事あるから、先に帰ってて良いよ」

「そっか。じゃ、また明日」


 用事……校内に残るってことは、用事があるのは学校ってこと?

 気にはなるけど、泉さんには泉さんの時間もあるもんね。


「八乙女さん」

「ん? 」


 音楽室を出ようとしたら引き留められた。泉さんは椅子に座ったままだった。


「普通ってなんだろうね? 」 


 どういう意味で言ってるんだろ?

 アタシより遥かに頭が良い、泉さんの方が知ってるんじゃないの?


「なんだろ、日常になっていけば、それが『普通』なんじゃない」

「ありがとう」


 今の答えで良かったのかな? 正解が分からない。


「バイバイ」

「バイバイ。帰り気を付けて」    








 泉さんの質問の意図って、なんだったんだろ?


「めるちょ。練習終わって、帰るとこ? 」


 昇降口で叶乃と出くわしてしまった。こんな時間まで、何してたんだ?


「そうだけど、叶乃は? 」

「気付いたら17時だった」

「は? え?? どういうこと!? 」

「カノ、五限目の途中から記憶なくてさ」


 え? まさか?? 帰る時に叶乃が、机に突っ伏してたのは見たけど


「そのまま眠ってたらしいんだけど、さっき起きて気付いたら17時で、さすがに慌てたね」


 いや、全然慌ててないじゃん! 

 眠い目を擦りながら歩いてるじゃん!!


「叶乃! さすがにヤバいって」

「だよね。五限目からだから、3時間くらいしか眠れてない」

「そっちじゃない! ってか、3時間って昼寝にしても眠れてる方でしょ!! 」

「一応、ユーリンからは『ウチは何回も声掛けたからな!』って。DM来てた」


 あぁ もう 叶乃にとっては、これが普通なんだろうけど……『普通』=『日常』

 でも、アタシからしたら叶乃のそれは普通じゃない。って事だし……なんか、ムズ!


「で、優梨は諦めて帰ったのね」

「いや、なんかクラス委員の仕事がある。とかで残ってる」


 こんな時間までクラス委員も大変だなぁ。アタシなら絶対に嫌だけど


 隣から『ふわぁ』と、大きい欠伸が聞こえてきた。


「昨日も深夜から、推しの配信観てたから、寝てなくてさ」

「そんなの、アーカイブでも観れるじゃん」

「リアタイだからこその、良さがあるんだよ」


 叶乃って、リアルの恋愛とか興味はあるのかな? 推しとかにガチ恋か??


「叶乃って、好きな人いんの? 」

「一個下に」

「え? 」

「今は、呪滅に出てる宝生院マユリ様」

「絵!? 」

「マユたそは良いぞ。二次創作だとカノとは解釈違いの、カプにもなったりが多いけど〜」


 次元が一個下? 叶乃に聞いたのが間違いだった。

 アタシも女の子のアイドルものソシャゲとかアニメも好きだから、別に否定はしないけど。

 でも今、アタシが欲しい言葉とは違う


「カノさ、普通の恋愛は? 」

「『普通』って、なに? 」


 それが、知りたいんだけど


「いや、知らんけど。他の高校に好きな男子がいるとか? 同中だった先輩が好きとか」

「カノの好きも『普通』だ。それに、もし『普通』じゃないと思うなら、自分なりの『普通』にして行けばいい」


 分かるようで絶妙に分からない!!

 もし、仮に、アタシが泉さんを恋愛対象と見たら?


 「イズミンが、昼休み一緒にいることも『普通』になったし」


 あぁ、そうか。アタシが泉さんに言ったことと同じだ。泉さんが居る昼休みは日常で、アタシたちにとっては普通になったんだ。


 じゃあ。普通は、どこからが友達で、どこからが恋人? グラデーションみたいになってるの? 何かキッチリとした境目があるの?


 今まで考えたこともないし、誰にどう伝えれば、アタシの欲しい答えは返って来るんだろ。


 そう言えば、今日も前も泉さんの楽譜に、イラストと吹き出しコメント、書けなかったなぁ。

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