第13話 合唱コンクール ①
泉さんと二人で、合唱コンクールの練習をする事になった記念すべき一回目。
最初は連携が取れないと話にならない。との、クラス総意で、ピアノと指揮者がペア。合唱部隊はパート事に分かれてのパート練習。
その後から全体練習する事に決まった。
本番まで三週間くらいだけど、校内合唱コンクールで、どんだけガチでやるクラスがあるんだろ?
朝の音楽室は、空気が重く感じてしまう。それにカビと言うかホコリと言うか、独特の匂いがする。
集団でいた分には、あまり気にならなかったけど、二人だけだとどうしても気になる。
「窓って、開けても大丈夫だと思う? 」
泉さんはグランドピアノに座り、課題曲とは別の楽譜に目を通てしいた。
ピアノに触るのも一年ぶりらしく、昔に弾いてた曲で、指の感覚を取り戻すらしい。
「空気の入れ替えくらいなら」
「じゃあ、5分くらい休憩にしよ」
ピアノのすぐ後ろの窓を開けると、心地良い風が体を吹き抜けた。
思わず伸びをしてしまい「んー。プファ〜」と、声にならない声が漏れた
「なんかリラックス出来て気持ち良い。泉さんも座りっぱなしだし、風でも浴びたら」
「そうね」と、言いながら席を立つと、アタシの隣で泉さんも両手を組んで上に突きだした。
泉さんが目を閉じてる間に、横顔を思わず盗み見てしまった。 無防備だからこそ露わになる完ぺきなEライン。美の暴力!!
「うーん。ふぅ〜」
「やっぱり、自然と声が漏れちゃうよね」
「人前でしないから、恥ずかしい」
「泉さん。ピアノ弾いてる時もだけど姿勢が綺麗だもんね」
「昔は、猫背だったよ。意識して直したけど」
あれ、そうだっけ? いつもピシッとしてる姿しか見てないような気がする
「背が大きいから、少しでも小さく観られたくて、俯いて歩いてた」
「それって、いつくらいの話? 」
「4年生までかな」
「そうなんだ。なんか、切っ掛けとかあったの? 」
「……内緒」
胸の奥がチクチクと痛みだした……その、内緒はいつか話して貰えるのかな?
「でも、別に大した切っ掛けじゃないよ」
泉さんは口元では笑ってるけど、今すぐにでも泣きそうな目をしている。なぜ、こう思ったかは説明が出来ない。出来ないけど、初めてみる泉さんの表情を。美しいと思った。
ビジュが優勝しちゃってるって。
反則じゃん、なんでもない会話だったのに……
もっと、泉さんを知っていけば、距離が近付けば、他の表情も見せてくれる?
「五分経ったから、ピアノに戻るね」
「あ、うん」
泉さんは窓を閉めると、スカートのポケットから小さいポーチを取り出した。
アタシが売った……パックジュースと物々交換した。の、方が近い気もする、目薬を取り出した。
胸のチクチクを取り除きたくて、わざと明るめに「おそろ〜」と言って、アタシも目薬を取り出した。
今度はちゃんと泉さんも微笑んでくれた。
そのまま目薬をさすも、いつもより余計に染みた。ジワジワと心の中まで、しみ込んで来る。
残り15分ほどで、指鳴らしも終わったのか、泉さんは課題曲を弾き始めた。
技術的な事は分からない素人のアタシでも、一つ一つの音がクリアだったり、正確に弾いてるのが分かる。
なにより、初めて弾くであろう曲を、つっかえず自然に弾いてるので、凄い聴き心地が良い。
「泉さん。ホント上手だね。凄いよ」
「ありがと」
「なんで、ピアノ辞めちゃったの? 勿体ない」
「なんで……だろうね」
泉さんは視線を楽譜へ落とした。指先だけが静かに鍵盤をなぞる。
あれ? 聞いてはいけないことを聞いた感じ?? 一気に空気が重くなった気がするけど、窓を締めたから?
「試しに私の演奏に合わせて歌ってくれる? 」
「え? いやぁ……歌いたくないから指揮者をやるわけで」
「私以外は聞いてないよ」
「でも、アタシ歌は自信ないし……」
本当に歌いたくはないけど、泉さんから頼み事して来るなんて初めてかも
仕方ない、防音だし外には漏れないから安心して下手でも歌えるか。
「ホント下手だからね! 」
「大丈夫」
何が、大丈夫なのか分かんないけど、泉さんは弾き始めてしまった。
久しぶりに人前で歌った気がする……こんなにも恥ずかしい思いをしたのは久しぶりだ
少し前に叶乃がBLのくだりを言ってきた時とは、比べ物にならないくらい恥ずかしい
弾き終わったあとも、泉さんは何も言って来ないし、アタシの下手さにフリーズしてしまったのでは?
「下手って思ってるよね? でも、アタシ言ったじゃん」
「うんうん。思ってないよ」
「嘘だ、絶対。思ってる」
「思ってない。八乙女さんの声って」
泉さんは言葉を区切ると、アタシに振り向いた。
「陽だまり。みたい」
「陽だまり? 」
「安らぐ。と、言うかホッとする。八乙女さんの声、素敵で好きよ」
「そ、そうなの? でも、下手だと思ったでしょ。何か、歌が上手な人って、小さい頃から大声で歌ったりしてた人が多いらしいよ」
なに、アタシ早口でどうでも良いこと言っちゃってんだろ?
「ほら、アタシ。小さい頃から、おしとやかで、人前で大きい声とか出せなかったし」
「私と同じ小学校で同じクラス。男の子とも良くケンカしてたの見てたし。それは、無理あるよ」
「よ、幼稚園生の頃とか。い、家ではおしとやかだったから、アタシ」
「想像がつかないよ」
ですよね。幼稚園の頃もオテンバ言われてたし、家でもお姉ちゃんから、うるさくて怪獣呼ばわりされてたけどね。
なんで、こんなホントどうでも良い事を言ってるんだ??
もう、歌が下手なのが恥ずかしいわけじゃない。
『素敵で、好きよ』がリフレインして恥ずかしいんだ。
「八乙女さん。時間来ちゃったし、続きは明後日の放課後に」
泉さんから言ってくれるのが、凄い嬉しかった。
「おけ! 楽譜貸して」
「え? 何に使うの?? 」
戸惑い気味の泉さんから楽譜を受け取る。
弾きやすいようになのか、4枚の楽譜には、色々な書き込みがされていた。
「上の空白のところって、何か書き込んでも大丈夫? 」
「大丈夫だけど……」
一枚目にデフォルメした猫の顔を書いて『泉さんのピアノ特等席で聴けてラッキーにゃ』と、吹き出しを付けた。
「はい。字がちっちゃくなっちゃったけど」
「可愛い! 」
「練習終わるたびに、上に書き込んで行くよ」
「ありがとう、八乙女さん」
テンション上がった? 普段より声が高かったし笑ってる。泉さん、やっぱ猫が好きなんだ。
絵は上手くて良かったよ
「練習、頑張れそう。次も楽しみにしてる」
泉さんの喜ぶ顔は間違いなくメロい。さっきの切なそうな表情も良かったけど、やっぱり、もっとっと色んな顔がみたい!
アタシの頭の中では、まだ泉さんの「素敵、好きよ」がリフレインしている。
これはずっと、泉さんには内緒にしておこう。




