第12話 アタシ、指揮者やるよ!
「結局。伴奏者と指揮者は推薦だな」
「立候補者、来なかったんだ」
アタシの言葉に『誰も』と、言いながら優梨は小さく首を振った。
いつもの昼休み。机を四角に合わせて話し込む四人……三人か。叶乃は朝方までゲームをやっていたらしい。食べ終わると直ぐに寝に入ってしまい、今ではスヤスヤと、可愛い寝息をたてていた。
寝てる叶乃を観ると、可愛いらしい小学生にしか見えない。
先週までと違うとこもある。『昼休みパックジュースを買ってもらう。そんで、なし崩し的に一緒にいてもらおう大作戦』に、ハマった泉さんもいることだ。
非日常だった出来事から、日常へとなっていく。泉さんがいるのも当たり前になれば良い。
「たぶん推薦だと、泉が指揮者になるよ」
「私が? 」
なんで、泉さんなんだろ? クラス委員だし、優梨の方が指揮者に向いてそうなのに。
「トイレ行った時にさ、ウチのクラスメイトも何人かいたんだけど」
続きが気になるのに、笑いたいのを堪えるような優梨。早く先を言ってほしい。
「なに、一人でジワッてんのよ? 」
「ごめん。何か『泉が指揮者だったら、合法的に顔面。見続けられる』って、盛り上がってた」
は? そんな下心丸出しじゃん……でも、ありよりのあり!
「困る」
「あぁ……そこは、本人の気持ちを尊重するけど」
泉さんを見れば嫌がってるのが分かる。うつむき加減に下唇噛んじゃってるし、本当は『やりたくない』って、思ってんだろうな。
優梨も泉さんの雰囲気を感じ取ったのか。今度はアタシに話し掛けて来た。
「その、理由だけどさ。中一と中二の頃に、八乙女が指揮者になった理由と、同じなのが余計面白い」
え? アタシの理由って違くない? アタシが立候補したんじゃ??
リズム感あるけど、歌が下手だから指揮者が良いな。って、クラス委員の優梨に言ったのは憶えてる。
「八乙女の場合は、男子が言ってた事だけどな。立候補してきたから、そのときは伝えなかったけど」
いや、伝えて! 裏ではそんな話があったのかよ。知ってたら、もう少し男子に優しくしても良かったのに……いや、無理か。
今は自分の事より泉さんの事を考えよう。
「泉さん。ピアノ伴奏者は? 指も治ったみたいだし」
「そう言えば、泉って。ピアノ弾けるんだっけ? 」
「そうなんだよ、優梨。小学生の頃だけど、指さばきとか、ガチ神だった」
「八乙女さん。私の指さばきとか見てないでしょ」
「アハハ、でも。凄い聴き惚れてたよ」
本当は弾く姿勢が綺麗だったのしか覚えてない。
楽器が出来るのは羨ましいよ。楽器も出来なければ、歌のセンスは0だからな。
「泉がやってくれるなら助かる。推薦だと面倒事も多くなりそうだし」
「……ピアノは中二で辞めたし」
「アタシ、指揮者やるよ! だから、泉さんはピアノ」
優梨が『は?』と、言うと、寝ていた叶乃の肩が、一瞬だけビクッと動いた。
だって、校内合唱コンクールとは言え、アタシ下手だから極力は歌いたくないもん。練習中とかも肩身狭いだろうし楽しくない。楽しくやるなら指揮者でしょ!
誰もやる人いないならやる!!
優梨は「八乙女かぁ……」と、言いながら、眉をひそめた。
「中学の時、指揮者やってたの知ってるじゃん!! 」
中三は合唱部のモノホン指揮者がクラスにいたから、迷惑にならないように端っこで歌ってたけど。
「それは、さっき言ったから、もちろん分かる」
なんかアタシの指揮って問題あった? どうして、そんなにメンタル苦しそうな顔してるの?
「……ま、いっか。男子いないし」
「え? 」
「いや、八乙女。いつも男子と喧嘩するからさ」
「だって、男子がバカだから」
思い出すだけでイライラしてくる
真面目にやってる奴をバカにしてくる男子
自分は関係ないんで。と、言う雰囲気を、全面に出してくる男子
合唱そっちのけで、ギャアギャア騒ぐだけ騒ぐ男子
自主性も協調性も品性も、何もかも欠けてるバカばっかりだった。
「まぁ。指揮者が八乙女以外なら、泣いて辞めてただろうな」
「八乙女さん。大変だったんだね」
「八乙女も『ちょっと、男子〜』なら、可愛げもあったけど、机蹴りながら『オイ、コラ。メンズ』って、低い声で言ってたもんな」
「凄い」
「八乙女の顔だけ見たかったメンズたちも、大人しくなってたのがオモロイ」
珍しく泉さんが声には出さずとも笑ってらっしゃる! この笑顔を見れたなら、アタシの黒歴史も、男子のバカさも役に立ったよ。
「じゃ、二人とも決まりでいい? 」
泉さんは何か考えてるように口をつぐむ。
「泉さん。アタシも手伝うし、一緒にやろう」
アタシが言うと、泉さんは少しだけ困ったように、でも、どこか覚悟を決めたような目でアタシを見つめてから。
「ええ」と、小さく頷いた。
「ピアノの練習だけど、朝と放課後の45分間までは、音楽室借りれる」
「良かった。今はピアノも家に置いてないから」
「ただし、予約制だから日時は早いもん勝ち。音楽室に置いてある、予約ノートに書いておくこと」
「りょ! 泉さん。アタシのバイトない時に練習しよ。朝でも良いけど」
もう一度、泉さんのピアノ姿が観られる!
それに練習を通じて、もっともっと、泉さんを知りたい。
なにより、泉さんと一緒にいられる時間が増えるのが、アタシは嬉しい。
それだけで、指揮者を引き受けた価値はある気がした。




