第10話 喜び度がキャパい
アタシと優梨は机を向かい合わせ、隣の叶乃はアタシの机とくっつけている。
三人で喋る、いつもと変わらない昼休み。
いつもと変わることと言えば、断られたショックなのか、今日のお弁当は味が良く分かんなかった。
お母さん。ごめんなさい……
「今日のお菓子。二人からも預かったお金で、新発売のものを中心に買った」
楽しみにしてたのか、叶乃の声は少しうわずっていた。広げたティッシュの上に、バサバサと次々にグミを出してくる叶乃。
1.2.3……4袋? さすがに多くない??
しかも、全部味が違うし。
さっき、コンビニ弁当2個と菓子パン3つ食べてたよね? マジか?? との気持ちで叶乃を見るも。
本人に取っては自然なことなので、気にする様子もなく、グミをパクつきはじめる。
150cmもない小柄で華奢なのに、何処に入るのよ? そして、なぜ太らない??
その体型と幼い顔付きにツインテール。制服を着てなければ、ガチ小学生でも通じそう。
叶乃とアタシは違う中学校ながら、受験勉強の塾は同じで仲良くなった。
叶乃と優梨が同じ小学校だった事も話す切っ掛けにはなったけど。
そんな叶乃と、一緒に帰る事も多かった塾の帰り道。
小学生キッズモデルに、スカウトされてた事が叶乃には何回かあった。
本人なりに気にしてるかもだから、言わないようにしているけど。
美少女ってより、小学生ビジュ。マスコット的な可愛さで、泉さんとは違った意味だけど、学校内人気は抜群にある。
「あの」
え? 泉さん?? 叶乃に気を取られていると、泉さんが立っていた。
「泉さん。どしたの? 」
「さっきは断ってしまったけど、私も同じ班に入れて欲しい」
「え? もちろん!! 全然良いけど、大丈夫だよね? 優梨?? 」
「オッケー! ウチら人数足りなかったから、めちゃ助かる」
「ありがとう」
なに? この時間差攻撃は?? マイナスからのプラスで、喜び度がキャパいんだけど。
泉さん、ツンデレか!? やる気が出て来た!!
つい、顔がニンマリとしてしまう。
「ウチ。先生から、合唱コンクールの課題曲。貰って来なきゃだから、泉、座っていいよ」
席を立つ優梨に感謝の眼差しを向けた。
知らずにやった事だろうけど、ナイスアシスト!!
そのまま戻ろうとしてた、泉さんを引き留めることに成功です!
ゴールまで遠いかもだけど、そのアシスト無駄にはしたくない!!
「泉さんも、一緒にグミ食べよ」
「ねぇ。なんで、イズミンを班に誘ったの? デカいから、待ち合わせの時に便利とか?? 」
見た目幼女から、とんでもないキラーパス来たぁぁ
スルーする事も出来ず、アタシと立っていた優梨が、同時に叶乃にチョップしていた。
「ご、ごめんね。泉さん!! 」
「気にしてないから」
そうは言うけど、最初から嫌な班だな。とか、思われたくないよ。
「叶乃! 次、失礼な事言ったら、ММPが減るよ」
「カノが小さいから、イズミンが羨ましいってだけなんだけど。ММPってなに? 」
「めるち満足ポイントの略」
「なにそれ? 貯めたらカノたちに良いことあるの?? 」
凄い怪しんでる目つきしてるけど、思いつきで言っただけだからなぁ
「貯まると、アタシがハグしてあげる」
「「いらん」」
叶乃と優梨の美しいハモリでの『いらん』こっちだって、そうやすやすとしてあげないんだから。
「とりあえず、先生とこ行ってくる」
「ゆうりん。いってらー」
叶乃は感情のこもってない『行ってらっしゃい』を言うと、グミを指差した。
「イズミンも食べなよ」
味違いのグミを何個かまとめて口に入れる叶乃
「叶乃って、ドリンクバーでも、色んな味混ぜるよね」
「稀に、美味しい味が出来る」
「稀かよ」
「稀に良くある」
「あーね」
めんどくさっ。
「泉さん、何味好き? 」
「グレープかな」
グミはグレープが好きなこと。良し、覚えた。
指。ケガしてるからか、取りづらそう
「イズミン。目が赤い」
「ちょっと、まつ毛入ったかも」
「目薬持ってる? 」
アタシが聞くと首を振る泉さん。
今のが残り少ないから、新しく買って、まだ使ってない目薬持ってたな。
「じゃあ、アタシの上げるから使って」
ポーチから取り出し、泉さんに手渡した。
「ほら、まだ使ってないのだから安心だよ。アタシ、カラコンしてるからか、ドライアイ気味でさ」
「お金払うよ」
「いや。このくらい良いって」
「ダメ。この前の紅茶だって」
これ以上、言っても引かなそうかな
「じゃあ。金曜まで、お昼にパックジュース奢って」
「え? それで良いの?? 」
「アタシ、その時の気分で飲みたいの変わるから、買う時は付き合ってもらうけど」
コクンと頷く泉さん。
やったね! これで少なくとも金曜までは、昼休み一緒にいられるじゃんね。
「イズミン。指のせいで、やり辛そう」
アタシとあろうことか、叶乃の言葉で気付いた。目薬の蓋を外すのさえ苦労してるじゃん。
「その指だと、さすの難しいよね。貸して」
泉さんの後ろに回り目薬を奪い取った。
「アタシやるから。頭、後ろに倒して」
「え? だ、大丈夫。自分で出来るから」
「見てて辛そうだから、良いって」
アタシが丁寧に除菌シートで手を拭いてる間に、泉さんは頭を後ろに倒した。
角度的に少しやりづらい。
「ごめんだけど。もっと、深く腰掛けて上を向いてもらえる」
うん。高さ的にも角度的にもバッチ……リ。
そう思って覗き込んだ瞬間だった。
ヤバっ 当たり前だけど、至近距離で泉さんと視線が絡む!!
じっとアタシを見上げる泉さんの長いまつ毛が、微かに震えている。
そりゃ、仲良くもない子に、こんな事されたら、なんか嫌だよね……




