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派閥

 区画代表選出が始まって以降、橋前市場の空気はさらに騒がしくなっていた。


「市場区画は物流優先だ!」

「いや宿泊整備先だろ!」

「工房区にもっと土地回せ!」


 以前なら、皆“橋前を発展させたい”という方向だけは同じだった。


 だが今は違う。


 “どう発展させるか”で割れ始めている。


 玲司は第二橋の中央から、その様子を静かに見下ろしていた。


(……完全に都市政治化したな)


 都市が成長すると、必ず利害が分裂する。


 商業。

 住宅。

 工業。

 観光。


 全員が同じ利益を求めることはない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 ボルドが疲れた顔で橋へ上がってくる。


「最近、“市場派”とか“工房派”とか言われ始めてる」


「でしょうね」


「いや反応薄いんだよ毎回!」


 玲司は少し苦笑した。


 予想通りだった。


 都市計画は利益配分そのものだ。


 つまり、誰を優先するかで必ず対立する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 橋前広場では、代表候補たちが人を集め始めていた。


「市場拡張すればもっと儲かる!」

「いや住宅増やさねぇと人住めねぇ!」


 完全に演説だ。


 エルザが呆れた顔をする。


「……なんかもう別世界なんだけど」


「選挙戦ですね」


「センキョセン?」


「支持集めです」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でもこれ、危なくない?」


 エルザが広場を見る。


「対立激しくなりそう」


「なりますね」


 玲司は即答した。


 都市政治は綺麗ではない。


 予算。

 土地。

 利権。


 全部、人を分裂させる。


「でも、今の橋前市場って“全員同じ生活”じゃなくなってるので」


 宿屋と工房では優先事項が違う。


 商人と住民でも違う。


 都市とは、人口増加と同時に多様化する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……お前、本当にここまで行くと思ってたのか?」


 カルムが低く呟く。


 玲司は少しだけ黙った。


 正直、ここまで早いとは思っていなかった。


 橋。

 市場。

 物流。


 全部が想定以上に回り始めている。


「前世でも、交通変わると都市構造一気に変わったので」


 カルムが少し笑った。


「最近もう“前世”って単語流す気なくなってきたな」


 玲司は少しだけ苦笑した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに広場を見る。


「……危険ですね」


「何がです?」


「人々が、“自分たちで街を変えられる”と理解し始めている」


 玲司は少しだけ目を細めた。


 前までは、民主制は制度だと思っていた。


 だが今は違う。


 あれは、“自分の意見が現実を変える”と人が理解した瞬間から始まる。


「最近、周辺領地でも橋前市場の話が広がっています」


 ラウスは苦笑する。


「“平民が政策論争している街”として」


 ボルドが吹き出した。


「字面だけでヤバいな!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「管理長!」


 若い夜警が駆け込んでくる。


「市場区画と工房区画で揉め事です!」


 ボルドが頭を抱える。


「早速かよ……」


 玲司は静かに立ち上がる。


(まぁ避けられない)


 都市とは“利害衝突管理”だ。


 人口が増えるほど、意見は割れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 橋前広場では、代表候補たちの議論が続いていた。


「物流強化しないと商人減る!」

「いや住宅不足の方が先だ!」


 皆、本気だ。


 少し前まで、未来のない辺境村だった。


 だが今は違う。


 この街には、守りたい未来がある。


 だから人は争う。


 玲司は少し離れた位置から、その光景を静かに見ていた。


 政治とは汚いものだと思っていた。


 だが今は違う。


 本当は、“違う未来像同士がぶつかる現象”なのかもしれない。


 その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でもあなた、ちょっと楽しそうよね」


 隣のエルザが苦笑する。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……都市が“生き物化”してきたので」


 エルザが呆れたように空を見た。


「もう本当に村じゃないわね……」


 夜の橋前市場では、“どんな街にするのか”という無数の声だけが、静かに交錯し続けていた。

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