代表
街区会議開始から数日。
橋前市場では、以前より人々の会話が増えていた。
「宿区画、誰が代表やる?」
「市場側は商人多すぎてまとまんねぇ」
「工房区、結局カルドじゃね?」
市場のあちこちで、“街の運営”について話が飛び交っている。
少し前まで、ただの辺境村だった場所とは思えなかった。
玲司は第二橋の中央から、その様子を静かに見下ろしていた。
(……完全に自治段階入ったな)
都市化が進むと、必ず“代表者”が必要になる。
全員の意見を直接まとめるのは不可能だからだ。
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「玲司」
ボルドが橋へ上がってくる。
「最近、“誰が代表になるか”で揉め始めてる」
「でしょうね」
「いや、お前毎回反応薄いんだよ!」
玲司は少し苦笑した。
予想通りだった。
自治組織は大体ここで揉める。
利害。
人気。
発言力。
“誰が決める側になるか”は必ず衝突する。
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「……でも必要です」
玲司が静かに言う。
「今の橋前市場、人口増えすぎて直接管理限界なので」
「まぁ最近、人多すぎるしな……」
ボルドも否定しなかった。
市場。
宿。
工房。
住宅。
全部の問題を、中央だけで処理するのは既に無理になり始めている。
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その日の昼。
橋前広場では、人だかりができていた。
「俺は市場区画推薦するぞ!」
「宿区はミーナだろ!」
周囲がざわつく。
エルザが少し呆れた顔をした。
「……本当に始まったわね」
「代表選出ですね」
「つまり?」
「選挙に近いです」
エルザが固まる。
「センキョ?」
玲司は少しだけ空を見る。
“住民が代表を選ぶ”という行為自体が、この世界ではかなり特殊だ。
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「でも、揉めない?」
エルザが広場を見る。
「かなり」
玲司は即答した。
代表制は綺麗事ではない。
人気争い。
派閥。
対立。
全部発生する。
「でも、今の橋前市場って“誰か一人”では回せないので」
都市とは、人口が増えるほど複雑化する。
だから管理も分散される。
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「……お前、本当に“国家運営”に入ってるな」
カルムが低く呟く。
「近いですね」
玲司は頷いた。
都市行政とは結局、誰が意思決定し、誰が責任を持つか。
その構造だった。
「最近、橋前市場、“村の空気”じゃない」
カルムが広場を見る。
以前なら、村長の一言で終わっていた。
だが今は違う。
人が増え、利害が増え、意見が分裂し始めている。
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「玲司殿」
ラウスが静かに近づいてくる。
「……驚きました」
「今回は何です?」
「本当に“住民選出制”を始めるとは」
ラウスは広場を見る。
「最近、周辺領地でかなり話題です」
「またですか」
「“橋前市場では平民が街運営へ参加している”と」
ボルドが吹き出した。
「言われてみると結構ヤバいな!?」
「かなり異常です」
ラウスは真顔だった。
「普通、平民は統治される側です」
玲司は少しだけ黙った。
住民参加なんて当たり前だった。
この世界では、“意見を持つ平民”そのものが珍しい。
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夕方。
橋前広場では、区画代表候補たちが話し合いを続けていた。
「市場側は物流優先だ!」
「いや宿不足先だろ!」
騒がしい。
だが以前とは違う。
これは単なる喧嘩ではない。
“街の方向”について議論している。
玲司は少し離れた位置から、その様子を静かに見ていた。
民主制なんて社会の仕組みだと思っていた。
だが今は違う。
あれは多分、“赤の他人同士が同じ街で生きるための技術”
なのだと、少しずつ理解し始めていた。
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「でもあなた、そのうち本当に議場とか作りそうよね」
隣のエルザが遠い目をする。
玲司は少し考えた後、小さく笑った。
「……人口増えたら必要になるかもしれませんね」
エルザが額を押さえた。
「もう誰も止められないわこの人……」
夜の橋前市場では、“誰が街を動かすのか”という議論だけが、静かに熱を帯び始めていた。




