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都市計画図

 最近のハルグ村では、“未来の土地”について話す人間が増えていた。


「第二橋南側、次は何できるんだ?」

「住宅区もっと広がるらしいぞ」

「新しい市場通り作るって噂だ」


 橋前市場は、もはや“今”だけで動いていない。


 皆、“これからどうなるか”を話し始めている。


 玲司は第二橋の上から、その光景を静かに見下ろしていた。


(……そろそろ必要か)


 都市は“完成予想図”で動く。


 まだ存在しない未来へ、人も金も集まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが木板を抱えて走ってくる。


「お前が頼んでたデカい板持ってきたぞ!」


「ありがとうございます」


 ボルドが嫌そうな顔をした。


「で、何始める気だ?」


 玲司は少しだけ笑う。


「都市計画図です」


 ボルドが固まった。


「……トシケイカク?」


「未来予想図ですね」


「嫌な予感しかしねぇ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 橋前管理所の一室には、大きな木板が広げられていた。


 そこへ玲司が、炭で線を書き始める。


『主街道』

『第二市場』

『住宅区』

『工房区』

『倉庫街』


 周囲が静まり返る。


「……なんだこれ」


 カルムが低く呟く。


「未来のハルグ村です」


 玲司は静かに答えた。


 都市計画とは“未来を先に描く作業”だ。


 道路。

 区画。

 人口。


 最初に構造を描く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「待て待て待て」


 ボルドが図を指差す。


「なんでこんな広いんだ!?」


「人口増えるので」


「どこまで増やす気だよ!」


 玲司は少しだけ空を見る。


 今の橋前市場は、まだ“初期成長”だ。


 物流量も。

 人口も。

 商圏も。


 まだ伸びる。


「今後、外縁部まで住宅化進むと思います」


 エルザが図面を見る。


「……これ、もう村じゃないわよね」


「ですね」


 玲司も否定しなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この空白は何だ?」


 カルムが図の中央を指差す。


 そこだけ、不自然に建物が描かれていない。


「中央広場です」


「広場?」


「避難」

「市場祭」

「行政」


 玲司は静かに答える。


 都市には“余白”が必要だった。


 防災。

 交流。

 景観。


 詰め込むだけでは、街は息苦しくなる。


「あと象徴空間ですね」


「ショウチョウ?」


「街の中心です」


 人は、“中心”を求める。


 前世でも、駅前広場や中央公園には、都市の象徴性が集約されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……本当に都市作る気なんだな」


 カルムが低く呟く。


 以前なら笑い飛ばしていただろう。


 だが今は違う。


 橋。

 市場。

 住宅。

 石造建築。


 全部、実際に形になっている。


「最近ようやく分かった」


 カルムは図面を見る。


「お前、“今の街”見てねぇんだな」


 玲司は少しだけ黙った。


 そして静かに答える。


「“十年後”見てます」


 部屋が静まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに図面を見る。


「……これは危険ですね」


「何がです?」


「未来が見えてしまう」


 玲司は少しだけ目を細めた。


 都市計画図は“投資を呼ぶ”。


 人は、未来が見える場所へ集まる。


「最近、周辺領地でも“橋前市場はどこまで拡張するのか”が話題です」


 ラウスは苦笑した。


「ですが、これを見ると納得します」


 木板の上には、もはや“小村”とは呼べない規模の構造が描かれていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 都市計画図は、橋前管理所へ掲示され始めていた。


「なんだこれ……」

「未来図?」

「本当にここまで広がるのか?」


 人々が図面を見上げている。


 少し前まで、ハルグ村には未来がなかった。


 だが今は違う。


 街の未来が、形として存在し始めている。


 玲司は第二橋の中央へ立ちながら、その光景を静かに見ていた。


 都市計画図なんて仕事資料だった。


 だが今は違う。


 未来を描くこと自体が、人を動かし始めている。


 その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。


「でもあなた、そのうち本当に城壁とか描き始めそうね」


 隣のエルザが遠い目をする。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……物流都市なら、外周防衛必要なんですよね」


 エルザが額を押さえた。


「もう誰か止めて……」


 夜の橋前管理所では、未来の街を描いた木板だけが静かに灯りへ照らされていた。

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