自警団
夜警増員が始まってから数日。
橋前市場では、明らかに空気が変わり始めていた。
「最近、夜も歩きやすくなったな」
「見回り増えたからか?」
「でも人増えすぎて、まだ怖ぇぞ」
市場の灯りは以前より増えている。
だが同時に、人の顔も増えた。
つまり、“誰が誰か分からない”状況が増えている。
玲司は第二橋の欄干へ寄りかかりながら、その光景を静かに見ていた。
(……そろそろ限界か)
夜警だけでは足りない。
今のハルグ村は、既に“小村の治安感覚”を超え始めていた。
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「玲司!」
ボルドが疲れ切った顔でやって来る。
「また街道で襲撃だ!」
「被害は?」
「護衛付きだったから軽い!」
玲司は少しだけ目を細めた。
(つまり、“狙われる前提”になり始めた)
前世でも、物流都市には警備産業が生まれる。
理由は単純。
守る価値があるからだ。
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「……つまり、兵士みたいなの作るの?」
エルザが低く聞く。
「半分は」
玲司は頷く。
「自警団ですね」
「ジケイダン?」
「街を守る専門組織です」
ボルドが嫌そうな顔をした。
「最近、お前の話どんどん国家っぽくなってるぞ……」
「都市化すると大体こうなります」
玲司は静かに答える。
前世でも、人口集中エリアほど、警備機能が強化される。
治安とは、“自然に維持されるもの”ではない。
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その日の昼。
橋前広場では、新しい募集掲示が張り出されていた。
『橋前自警団募集』
『夜間巡回』
『街道護衛』
周囲がざわつく。
「自警団?」
「報酬出るのか?」
「武器持てるのか?」
玲司は広場中央へ立った。
「今後、橋前市場はさらに人が増えます」
空気が少し静まる。
「だから治安維持専門化します」
都市は人口増加と同時に“公共安全”が必要になる。
警察。
警備会社。
監視。
全部、“都市を維持する機能”だった。
「あと、街道護衛も始めます」
商人たちがざわついた。
「護衛!?」
「そこまでやるのか!?」
「物流止まると街止まるので」
玲司は真顔で答えた。
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「……本当に物流中心で考えてるのね」
エルザが苦笑する。
「都市って、大体物流で死ぬので」
「嫌な言い方」
「事実です」
前世でも、物流停止は都市機能停止へ直結していた。
食料。
資材。
商業。
全部止まる。
「だから“運べる状態”維持するの重要なんです」
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「玲司殿」
ラウスが静かに現れる。
「今日は随分物騒ですね」
「自警団作ってます」
ラウスが一瞬黙った。
「……やはりそこまで行きましたか」
「必要だったので」
ラウスは苦笑する。
「最近、周辺領地では完全に警戒対象ですよ」
「今回は何です?」
「“ハルグ村が独自武装組織を持ち始めた”と」
ボルドが吹き出した。
「言い方が危ねぇ!」
「でも間違ってません」
ラウスは真顔だった。
「物流」
「税」
「行政」
「金融」
「治安」
「普通、小村が短期間でここまで揃いません」
玲司は少しだけ空を見る。
前世では、警察も軍も最初から存在していた。
だが今は違う。
街が大きくなったからこそ、必要になり始めている。
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夕方。
橋前広場では、若者たちが木剣訓練を始めていた。
「構え低い!」
「前出すぎ!」
少し前まで、この村に“街を守る専門人員”なんて存在しなかった。
だが今は違う。
守るべき市場があり、物流があり、生活がある。
玲司は第二橋の中央から、その光景を静かに見ていた。
前世では、治安とは“あるのが当然”だった。
だが今は違う。
安全とは、維持する仕組みがなければ簡単に崩れる。
その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。
「でもあなた、そのうち本当に軍隊持つわよね」
隣のエルザが遠い目をする。
玲司は少し考えた後、小さく笑った。
「……都市規模次第ですね」
エルザが額を押さえた。
「もう否定すらしなくなったわね……」
夜の橋前市場では、新しく配備された巡回灯だけが静かに揺れていた。




