盗賊
預かり所が稼働を始めて三日。
橋前市場の空気は、以前より少し変わっていた。
「金預けられるの助かるな」
「宿へ置くより安心だ」
「最近、商売しやすくなった」
商人たちは、明らかに安心した顔をしている。
玲司は第二橋の上から、その光景を静かに見ていた。
(……でも、そろそろ来るな)
前世でも同じだった。
金が集まる場所には、必ず犯罪も集まる。
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「玲司!」
ボルドが慌てた様子で走ってくる。
「問題だ!」
「盗難ですか?」
「なんで分かる!?」
玲司は小さく息を吐いた。
予想通りだった。
「預かり所狙い?」
「いや、商人襲われた!」
ボルドが顔をしかめる。
「街道帰りの荷車だ」
「荷物半分持ってかれた」
玲司は静かに橋前市場を見る。
最近のハルグ村は、物流量が急増している。
つまり。
(“狙う価値がある街”になった)
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「……盗賊ってこと?」
エルザが低く聞く。
「多分」
玲司は頷く。
前世でも、物流拠点ほど犯罪対象になりやすい。
金。
商品。
人。
全部集まるからだ。
「しかも最近、外部商人増えてます」
「つまり?」
「土地勘ない人が増えてる」
つまり狙いやすい。
橋前市場は今、急成長によって“無防備な富”を抱え始めている。
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その日の昼。
橋前管理所では、緊急会議が開かれていた。
「最近、夜の街道怪しい」
カルムが地図を見ながら言う。
「橋前から少し離れた場所で目撃増えてる」
玲司は静かに頷く。
「物流増えると出ます」
「そんなもんなのか?」
「かなり」
前世でも、物流量増加と犯罪率増加は繋がりやすい。
特に急成長都市は、治安整備が追いつかない。
「だから護衛制度必要ですね」
ボルドが嫌そうな顔をした。
「また新しい制度かよ……」
「都市って治安崩れると一気に終わるので」
玲司は真顔で答えた。
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「……つまり、夜警を増やすの?」
エルザが聞く。
「それだけじゃ足りません」
玲司は木板へ図を書く。
『街道巡回』
『護衛依頼』
『市場警備』
「物流そのもの守る必要ある」
前世でも、都市の本質は“安全性”だった。
安全だから人が来る。安全だから商売できる。
「今のハルグ村、“儲かる”までは来てる」
玲司は橋前を見る。
「でも“安全”を維持できるかは別問題です」
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「玲司殿」
ラウスが静かに口を開く。
「最近、周辺領地でも噂になっています」
「盗賊ですか?」
「いえ、“ハルグ村周辺を狙う盗賊集団”です」
ボルドが顔をしかめた。
「そんな増えてんのか」
「急成長都市の宿命ですね」
ラウスは苦笑する。
「金が集まる場所には、人も集まる」
「善人も悪人も」
玲司は少しだけ空を見る。
前世でも、都市問題とは大体“人が増える副作用”だった。
格差。
犯罪。
混雑。
だから都市運営は終わらない。
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その時だった。
「管理長!」
若い夜警が駆け込んでくる。
「橋前南通りで喧嘩です!」
部屋の空気が変わる。
「原因は?」
「宿代未払いです!」
ボルドが頭を抱えた。
「最近トラブル多すぎるだろ……」
玲司は静かに立ち上がる。
(人口密度上がってるから当然か)
前世でも、人が増えると摩擦が増える。
それが都市だった。
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夕方。
橋前市場では、夜警増員の掲示が貼られていた。
『夜間巡回強化』
『街道警戒』
『護衛募集』
少し前まで、この村に“警備制度”なんて存在しなかった。
だが今は違う。
人が増え、金が増え、守るべきものも増えている。
玲司は第二橋の中央から、その光景を静かに見ていた。
前世では、都市の安全は“当たり前”だった。
だが今は違う。
治安とは、誰かが維持しなければ簡単に崩れる。
その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。
「でもあなた、そのうち軍隊まで作りそうよね」
隣のエルザが呆れたように言う。
玲司は少し考えた後、小さく笑った。
「……物流守るなら、多分必要になりますね」
エルザが額を押さえた。
「本当に国家一直線じゃない……」
夜の橋前市場では、新設された警備灯だけが静かに揺れていた。




