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都市税

 第二橋周辺の整備が進むにつれ、ハルグ村では新たな問題が浮上し始めていた。


「道路補修追いつきません!」

「井戸管理費足りないぞ!」

「夜警増員必要です!」


 朝から管理組合が慌ただしく動いている。


 玲司は橋前管理所の木板を見ながら、小さく息を吐いた。


(……完全に行政予算フェーズ入ったな)


 前世でもそうだった。


 都市は発展すると、維持費が爆発的に増える。


 道路。

 清掃。

 治安。

 水。


 “作る”より、“維持する”方が金がかかる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが帳簿を抱えてやって来る。


「最近、支出おかしいぞ!」


「どこです?」


「全部だよ!」


 ボルドが頭を抱える。


「夜警増員!」

「井戸掘削!」

「道路補修!」


「最近ずっと金飛んでる!」


 玲司は少しだけ苦笑した。


 予想通りだった。


 都市化すると、維持コストは必ず増える。


 しかも今のハルグ村は急成長中だ。


 つまり整備需要も増え続ける。


「……税制整理しますか」


 ボルドが嫌そうな顔をした。


「また怖ぇ単語出たな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 領主屋敷では、大規模会議が開かれていた。


「都市税?」


 グランツが眉をひそめる。


「はい」


 玲司は木板へ図を書く。


『橋前使用料』

『宿泊税』

『市場税』


「維持費へ回します」


 部屋がざわつく。


「また税増やすのか!?」

「商人逃げるぞ!」


 玲司は静かに首を横へ振った。


「逆です」


「……?」


「今のハルグ村、“便利だから人が来てる”」


 橋。

 市場。

 夜警。

 宿。


 全部、維持費がかかる。


「つまり街の質落ちたら、人減ります」


 前世でもそうだった。


 税そのものではなく、“払う価値があるか“が重要だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……つまり、“街へ再投資する税”か」


 カルムが低く呟く。


「近いですね」


 玲司は頷く。


「道路直す」

「衛生維持する」

「防災整備する」


「全部タダでは回りません」


 カルムは少し苦笑した。


「前の俺なら、“税は取るもの”って考えてたな」


「普通そうです」


「でもお前、“街を維持する金”として見てる」


 玲司は少しだけ空を見る。


 前世でも、都市財政とは結局そうだった。


 公共投資。

 維持更新。

 行政サービス。


 都市は、“再投資”しないと劣化する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でも反発出るわよ?」


 エルザが静かに言う。


「最近でも税嫌がる人多いし」


「出ますね」


 玲司も否定しなかった。


 前世でも、増税は嫌われる。


 だが。


「街良くなれば、人は残ります」


 玲司は橋前を見る。


「今のハルグ村、人が増えてる理由って“便利だから”なので」


 物流。

 安全。

 仕事。


 つまり都市機能そのものが価値になっている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに口を開く。


「最近、フェルム領でも分析されています」


「何をです?」


「ハルグ村の税収構造です」


 ボルドが吹き出した。


「分析ってなんだよ!」


「実際、異常です」


 ラウスは苦笑した。


「普通の村税ではなく、“都市維持型税制”になり始めている」


 玲司は少しだけ黙った。


 前世では、都市税制なんて当たり前だった。


 だが今は違う。


 街が成長したからこそ、初めて必要になっている。


「……まぁ、維持費増えてるので」


 玲司が小さく呟く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 橋前市場では、新しい掲示板設置が始まっていた。


『橋前整備費』

『夜警維持費』

『道路修繕費』


 以前なら、税とはただ“取られるもの”だった。


 だが今は違う。


 街が変わる速度を、皆が実際に見ている。


「……本当に都市経営だな」


 玲司は橋の上から、その光景を静かに見下ろした。


 前世では、税とは数字だった。


 予算。

 歳入。

 歳出。


 だが今は違う。


 道路へ変わり、灯りへ変わり、人の生活へ変わっている。


 その実感を、玲司は少しずつ理解し始めていた。


「でもあなた、そのうち貨幣制度まで作りそうね」


 隣のエルザが呆れたように言う。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……まぁ、物流増えると必要になるんですよね」


 エルザが頭を抱えた。


「お願いだから少し止まって」


 だが玲司の頭の中では、既に次の都市構造が動き始めていた。

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