都市法
第二橋周辺の空き地は、ここ数日で急激に埋まり始めていた。
「ここ宿建てるぞ!」
「うちは工房だ!」
「先に杭打ったのこっちだろ!」
朝から怒鳴り声が飛び交う。
玲司は高台から、その様子を静かに見下ろしていた。
(……予想以上に早い)
前世でも同じだった。
急成長エリアでは、“とりあえず建てる”人間が必ず出る。
そして大体、後で問題になる。
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「玲司!」
ボルドが走ってくる。
「第二橋南側で揉めてる!」
「建築位置ですか?」
「なんで分かる!?」
玲司は少し苦笑した。
最近の問題は、大体予測できる。
「宿同士が正面塞ぎ合ってますね?」
「その通りだ!」
玲司は小さく息を吐いた。
(用途競合始まったな)
人が増え、金が動き、土地価値が上がる。
すると次に起きるのは、“空間の奪い合い”だった。
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現場では、既に商人たちが怒鳴り合っていた。
「こっちは先に契約した!」
「道塞ぐ位置に建てるな!」
第二橋近辺は、今ハルグ村で最も価値が高い場所だ。
つまり全員、“一番良い位置”を欲しがる。
「……止めます」
玲司が前へ出る。
「この区域、建築制限かけます」
一瞬、空気が止まった。
「は?」
「ケンチクセイゲン?」
玲司は木板を広げる。
『道路幅』
『建物間隔』
『用途制限』
「無秩序建築禁止です」
周囲がざわつく。
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「なんでそんなもん必要なんだ!」
商人の一人が不満を叫ぶ。
「土地買ったなら自由だろ!」
「短期ならそうです」
玲司は静かに答える。
「でもそれやると、街死にます」
「大袈裟だ!」
「大袈裟じゃないですよ」
玲司は第二橋方向を見る。
「今のハルグ村、人流急増してる」
「だから道路狭くすると詰まる」
前世でも同じだった。
無秩序開発は、最初は儲かる。
だが後から、
渋滞。
騒音。
火災。
衛生悪化。
全部噴き出す。
「都市って、“自由だけ”だと崩壊するので」
ボルドが頭を抱える。
「最近のお前、とうとう法律作り始めたな……」
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その日の昼。
領主屋敷では、緊急会議が開かれていた。
「……つまり、建築許可制にするのか?」
グランツが低く聞く。
「最低限は」
玲司は木板へ図を書く。
『主道路』
『商業区』
『住宅区』
『工房区』
「用途整理します」
「自由に建てさせた方が早いだろう」
商人代表が不満そうに言う。
「短期はそうです」
玲司は頷く。
「でも十年後崩壊します」
部屋が静まる。
玲司の言葉には、妙な説得力があった。
最近では皆も理解し始めている。
この男は、“今”ではなく、“未来”を見ている。
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「……本当に街そのものを管理する気なんだな」
カルムが低く呟く。
「管理しないと死ぬので」
玲司は静かに答える。
前世でも、都市法規制は嫌われることが多かった。
建築制限。
用途制限。
高さ制限。
だがそれでも必要だった。
都市は、放置すると壊れる。
「最近、お前の話聞いてると、“街”って生き物みたいだな」
「近いですよ」
玲司は少しだけ笑った。
「成長しすぎても死ぬので」
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「玲司殿」
ラウスが静かに口を開く。
「最近、フェルム領でかなり話題です」
「またですか」
「“ハルグ村が独自法体系を作り始めた”と」
ボルドが吹き出した。
「法体系!?」
「いや、でも間違ってないですよ」
ラウスは苦笑する。
「普通、小村はここまで都市管理しません」
玲司は少しだけ空を見る。
前世では、都市法なんて最初から存在していた。
だが今は違う。
誰かが、ルールを作らないと、街は簡単に壊れる。
「……まぁ、今作らないと後で詰むので」
玲司が小さく呟く。
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夕方。
第二橋周辺では、新しい杭打ち位置が整理され始めていた。
「ここ道路空けろ!」
「建物間隔取れ!」
不満は出ている。
だが同時に、人の流れは少し整理され始めていた。
玲司は高台から、その様子を静かに見ていた。
前世では、都市法なんて窮屈なものに見えていた。
だが今は違う。
ルールとは、都市を縛るためではない。
都市を壊さないために存在する。
その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。
「でもあなた、絶対そのうち都市国家作るわよね」
隣のエルザが呆れたように言う。
玲司は少し考えた後、小さく笑った。
「……まぁ、否定はできないですね」
夕陽の中、整理され始めた街路だけが、静かに伸びていた。




