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地価

 最近のハルグ村では、妙な会話が増えていた。


「その建物、今いくらだ?」

「第二橋近くの空き地、もう埋まったぞ」

「旧市場側、家賃上がってるらしい」


 玲司は橋前市場を歩きながら、小さく息を吐いた。


(……始まったな)


 前世でも、都市化すると必ず発生する。


 土地価格の上昇。


 つまり“地価”だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが困った顔でやって来る。


「最近、揉め事増えてる」


「土地ですか?」


「なんで分かる!?」


 玲司は少し苦笑した。


 予想通りだった。


「空き家買い占める奴出始めてるだろうなって」


「……いる」


 ボルドが頭を抱える。


「最近、“今のうち押さえろ”って商人増えてんだよ」


 橋前市場近辺。

 旧市場通り。

 第二橋周辺。


 人流が増えた場所ほど、土地価値が急上昇している。


 前世でも同じだった。


 再開発予定地には、必ず人が群がる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……でも、それって悪いことなの?」


 エルザが首を傾げる。


「街の価値上がってるんでしょ?」


「半分は」


 玲司は旧市場側を見る。


「でも急激すぎると歪みます」


「歪み?」


「元々住んでた人が住めなくなる」


 エルザが少し黙った。


 最近、実際に似た問題が出始めていた。


「家賃払えない」

「宿へ変わる」

「立ち退き」


 少し前まで、ただの空き家だった場所だ。


 だが今は、“金になる空間”へ変わり始めている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「都市って、成功すると格差出るんです」


 玲司は静かに言う。


「儲かる場所へ、人と金が集中するので」


 前世でもそうだった。


 人気エリア。

 再開発地区。

 駅前。


 価値が上がるほど、住める人間は限られていく。


「……嫌な話だな」


 ボルドが顔をしかめる。


「かなり」


 玲司も否定しなかった。


 都市化とは、便利になることでもある。


 だが同時に、競争が激しくなることでもある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 行政会議では、既に土地問題が議題になっていた。


「最近、外から土地買いに来る奴増えてる」


 カルムが木板を見ながら言う。


「第二橋近辺なんて、値段三倍近いぞ」


 部屋がざわつく。


「三倍!?」

「そんなにか!?」


 玲司は少し目を閉じた。


(思ったより早い)


 前世でも、交通改善は地価へ直結していた。


 橋。

 駅。

 道路。


 導線整備された瞬間、土地価値は変わる。


「……区画整理急いだ方がいいですね」


「また始まったぞ」


 ボルドが呆れた顔をする。


「今度は何だ」


「無秩序化すると危ない」


 投機。

 乱開発。

 価格高騰。


 放置すると、街そのものが不安定化する。


「最低限、用途整理必要です」


「ヨウト?」


「住宅」

「商業」

「工房」


「混ぜすぎると崩れます」


 前世でも、都市計画とは結局“土地利用調整”だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに口を開く。


「最近、周辺領地で噂されています」


「またですか」


「“ハルグ村の土地を今のうち買え”と」


 ボルドが吹き出した。


「完全に投資話じゃねぇか!」


「実際、かなり利益出ています」


 ラウスは苦笑した。


「数週間前まで無価値だった土地ですから」


 玲司は静かに旧市場方向を見る。


 前世でも、街は期待で価値が変わる。


 “今”ではなく、“未来”へ人が金を払う。


「……だから都市って怖いんですよ」


 玲司が小さく呟く。


「人が、人を呼ぶので」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 第二橋周辺では、新しい建築予定地へ杭が打たれていた。


「ここ宿になるらしいぞ!」

「こっちは工房だ!」


 ほんの少し前まで、誰も見向きもしなかった土地だ。


 だが今は違う。


 橋一本で、土地の価値そのものが変わり始めている。


 玲司は高台から、その光景を静かに見ていた。


 前世では、地価とは数字だった。


 坪単価。

 賃料。

 期待利回り。


 だが今は違う。


 人の熱量そのものが、街の価値へ変わっていく。


 その感覚を、玲司は少しずつ理解し始めていた。


「でもあなた、また難しい顔してるわよ」


 隣へ来たエルザが言う。


 玲司は少し考えた後、小さく息を吐いた。


「……次、多分都市法ですね」


 エルザが遠い目をした。


「本当に国家作る気?」


 玲司は少しだけ笑った。


 だがその頭の中では、既に“無秩序に膨張する都市”への対策が動き始めていた。

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