見習い制度
石造建築工事が始まって数日。
旧市場通りでは、最近妙な光景が増えていた。
「そこ角削りすぎ!」
「力入れすぎだ!」
怒鳴られているのは、大人ではない。
十代前半くらいの少年たちだ。
石工の周囲へ集まり、必死に作業を真似している。
「……本当に集まりましたね」
玲司が呟く。
「最近のガキ、石工やりたがってるぞ」
ボルドが苦笑した。
少し前まで、村の子供たちにとって“仕事”といえば畑か雑用だった。
だが今は違う。
橋工事。
建築。
市場運営。
“新しい仕事”が増え始めている。
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「玲司様!」
ミリアが紙束を持って走ってくる。
「見習い希望、また増えました!」
「何人です?」
「今十四人です!」
ボルドが吹き出した。
「増えすぎだろ!」
玲司は少し考える。
(……でも悪くない)
前世でも、都市発展には人材供給が不可欠だった。
職人。
管理者。
技術者。
街は、人が育たないと拡張できない。
「見習い制度作りますか」
「また始まった」
ボルドが頭を抱える。
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その日の昼。
石造建築現場の隣では、簡易的な作業場整備が始まっていた。
「ここを見習い区画にします」
玲司は木板へ簡単な図を書く。
『石材加工』
『工具置場』
『基礎訓練』
「……お前、本当に学校作りそうだな」
カルムが呆れたように言う。
「近いですね」
「否定しねぇのかよ」
玲司は少し笑った。
前世でもそうだった。
都市が成長すると、必ず“教育機能”が必要になる。
技術継承がないと、街は発展を維持できない。
「今後、橋も建物も増えます」
「まぁ最近ずっと工事してるな」
「だから職人不足は続く」
つまり、外から呼ぶだけでは限界がある。
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「でも、なんで皆やりたがるのかしら」
エルザが石工見習いたちを見る。
少年たちは必死に石材を削っていた。
玲司は少し周囲を見る。
市場。
橋。
新しい建物。
「街が変わってるの見えるからですよ」
「……?」
「自分の仕事で、景色変わるので」
前世でも、建築や都市開発に惹かれる人間はいた。
巨大構造物。
新しい街。
変化する景観。
“形が残る仕事”には独特の魅力がある。
「あと最近、石工かなり稼げますし」
エルザが少し笑った。
「結局そこなのね」
「重要ですよ」
玲司は真顔で答える。
都市は理想だけでは回らない。
仕事として成立するから、人が集まる。
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「玲司殿」
ラウスが工事現場へ現れる。
「今日は随分賑やかですね」
「職人育成始まりました」
ラウスは見習いたちを見る。
「……本当に教育機関みたいですね」
「技術残さないと都市維持できないので」
ラウスが少し苦笑した。
「最近、フェルム領で言われてますよ」
「またですか」
「“ハルグ村は、自分で都市文明を生やしている”と」
ボルドが笑う。
「文明ってなんだ文明って!」
だが玲司は少しだけ黙った。
前世では、教育制度なんて最初から存在していた。
だが今は違う。
技術も。
知識も。
全部、人から人へ渡さなければ消える。
「……まぁ、残さないと終わるので」
玲司は静かに答えた。
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夕方。
石工見習いたちは、作業後も石材を触っていた。
「これ難しいな……」
「でも面白ぇ」
少し前まで、この村には未来がなかった。
若者は出ていき、残るのは老人ばかり。
だが今は違う。
新しい仕事があり、
新しい技術があり、
街そのものが変わり始めている。
玲司は第二橋の上から、その光景を静かに見ていた。
前世では、都市は“完成されたもの”に見えていた。
だが今は分かる。
街とは、人を育てながら、少しずつ積み上がっていくものなのだと。
「……本当に止まらないわね」
隣のエルザが苦笑する。
玲司は少し考えた後、小さく笑った。
「まぁ、都市って増殖するので」
「嫌な言い方ね」
「事実です」
夕陽の中、石工見習いたちの笑い声だけが、旧市場通りへ響いていた。




