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石の建物

 焼け跡再建が始まって数日。


 旧市場通りには、以前とは違う音が響き始めていた。


 コン、コン、コン――。


 木槌ではない。


 石を削る音だ。


「……本当に石で作ってる」


 ボルドが呆然と呟く。


 焼失した旧市場の一角。

 そこでは今、ハルグ村初となる石造建築工事が始まっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「基礎もっと深く!」

「角石ずれるな!」


 工事現場には、数人の石工が集められていた。


 隣領から呼び寄せた職人たちだ。


 だが人数は少ない。


 それも当然だった。


 石造建築は高価で、時間がかかり、高度な技術を必要とする。


 この辺境では、本来そこまで需要がない。


「……でも、思ったより集まりましたね」


 玲司が呟く。


「最近のハルグ村、金回りいいからな」


 ボルドが苦笑する。


 橋前市場。

 宿泊。

 物流。


 人が集まる場所には、自然と職人も集まり始めていた。


 建設需要がある街には、技術者が来る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 エルザが建設中の建物を見上げる。


「これ、宿になるの?」


「半分は」


「半分?」


「下を店舗」

「上を宿泊」


 エルザが少し驚く。


「……一緒にするの?」


「滞在時間伸ばしたいので」


 都市の中心部は“複合化”していく。


 商業。

 居住。

 宿泊。


 単機能だけでは、街は弱い。


「あと石造にすると、“街の中心感”が出るんです」


「中心感?」


「象徴ですね」


 玲司は工事現場を見る。


 都市には、“顔”が必要になる。


 前世でも、

 駅前広場。

 高層ビル。

 歴史建築。


 人は象徴を中心に街を認識する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……最近のお前、景観まで考え始めたな」


 カルムが呆れたように言う。


「かなり重要ですよ」


 玲司は即答する。


「街って、“見た目”で印象変わるので」


「でも石なんて金かかるだろ」


「だから中心部だけです」


 玲司は橋前方向を見る。


「全部石造化は無理」

「でも“ここが街の中心”って場所は作れる」


 都市には、核となる空間がある。


 そこへ人が集まり、価値が集中し、さらに発展する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが工事現場へ現れる。


 最近では、もはや定例視察のようになっていた。


「……今度は石造建築ですか」


「始めました」


 ラウスは建築途中の石壁を見上げる。


「普通、小村では絶対にやりませんよ」


「でしょうね」


 玲司も否定しなかった。


 石造建築は、村では過剰投資だ。


 だが今のハルグ村は、既に普通の村ではない。


「最近、周辺領地で言われてます」


 ラウスが苦笑する。


「“ハルグ村は、十年後の都市を先取りしている”と」


 ボルドが吹き出した。


「また大袈裟な!」


「でも間違ってないです」


 玲司は静かに答えた。


 実際、今やっていることは、本来もっと後に発生する都市問題への先回りだ。


 だから周囲から見ると異常に映る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「玲司様!」


 ミリアが慌てて走ってくる。


「若い子たちが、“石工見習いやりたい”って!」


 玲司が少し目を見開く。


「……もう出ましたか」


「どうする?」


 ボルドが聞く。


 玲司は工事現場を見る。


 石工は不足している。今後も建築需要は増える。


 つまり。


「育成します」


 ボルドが笑った。


「やっぱ言うと思った」


 玲司も少し苦笑した。


 都市は、人だけでは作れない。


 技術が必要だ。

 職人が必要だ。


 そして技術は、育てなければ増えない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 建設途中の石造建築は、夕陽を赤く反射していた。


 まだ未完成で、まだ粗い。


 だが木造建築ばかりだったハルグ村では、圧倒的な存在感を放っている。


 玲司は第二橋の上から、その建物を静かに見ていた。


 橋を作った時もそうだった。


 新しい構造物は、人の感覚を変える。


 “村”だった場所が、少しずつ“都市”へ変わっていく。


 その境界線を、今の玲司は確かに見始めていた。


「……本当に街になってきたな」


 思わず呟く。


 すると隣でエルザが小さく笑う。


「あなた、最近その台詞多いわよ」


 玲司は少しだけ苦笑した。


 だが実際、毎日景色が変わっている。


 それが今は、少し楽しかった。

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