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石工

 火災から数日後。


 旧市場通りでは、焼け跡整理がほぼ終わっていた。


「瓦礫そっち寄せろ!」

「使える木材分けろ!」


 以前なら、火災後の復旧はもっと長引いていただろう。


 だが今のハルグ村には、既に“復旧する組織”が存在している。


 橋前管理組合。

 夜警。

 行政区画。


 都市機能ができ始めたことで、“立て直す速度”が明らかに上がっていた。


 玲司は焼け跡を見ながら、小さく息を吐く。


(……でも根本解決じゃない)


 木造密集地のままだと、また燃える。


 それは確実だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 ボルドが焼け跡へやって来る。


「最近また嫌な顔してんな」


「考え事です」


「どうせ碌でもねぇ内容だろ」


 玲司は少しだけ苦笑した。


「石造化したいですね」


 ボルドが固まる。


「……イシ?」


「石建築です」


「いや待て」

「最近のお前、発想飛びすぎなんだよ!」


 玲司は焼けた建物跡を見る。


「木だけだと限界あります」


「でもこの辺、木の方が楽だろ」


「短期はそうです」


 木造は安い。

 早い。

 加工しやすい。


 だが密集都市になると、火災リスクが極端に上がる。


「だから中心部だけでも耐火化したい」


「タイカ?」


「燃えにくくする」


 ボルドが頭を抱える。


「最近、お前と話すと知らねぇ言葉ばっか増える……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 玲司は川沿いの石場を見ていた。


 ハルグ村周辺は、意外と石材資源が多い。


 問題は加工技術だった。


「つまり、石工が必要なのね」


 エルザが腕を組む。


「はい」


「いるの?」


「少ないです」


 建築技術者不足はよく問題になる。


 特に都市成長期は、

 需要が一気に増える。


「今のハルグ村、“建築需要”急増してます」


「まぁ最近ずっと工事してるものね」


「だから職人不足起き始めてる」


 橋。

 住宅。

 宿。

 市場。


 都市化すると、建築需要は爆発する。


 再開発期には職人不足が深刻だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……つまり、育てるのか?」


 カルムが低く聞く。


「石工を?」


「多分それしかないですね」


 玲司は石材を見ながら答える。


「外から呼ぶだけだと足りない」


 今のハルグ村は急成長中だ。


 つまり建築需要も継続する。


「だから地元職人育成したい」


 カルムが少し笑う。


「最近のお前、“街を作る”じゃなく“文明作る”みたいになってきたな」


「都市って大体そうなので」


 玲司は真顔で答えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが川沿いへ現れる。


「今日は石材視察ですか?」


「半分は」


 ラウスは積まれた石を見る。


「……本当に石造化考えてたんですね」


「火災見たので」


「ですが、普通そこまで考えません」


 ラウスは少し苦笑した。


「木造が燃えたら、“次は気をつけよう”で終わるのが普通です」


「それだとまた燃えるので」


 玲司は静かに答える。


 都市防災は“構造改善”の積み重ねだった。


 道路拡張。

 耐火建築。

 避難路。


 都市は、災害から学習して変化する。


「最近、周辺領地で噂ありますよ」


 ラウスが小さく笑う。


「“ハルグ村は、村の皮を被った都市研究所だ”と」


 ボルドが吹き出した。


「なんだそれ!」


「まぁ気持ちは分かります」


 玲司も少し苦笑した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 焼け跡の一角では、既に新しい建築準備が始まっていた。


「基礎ここだ!」

「石材運べ!」


 まだ本格石造建築ではない。


 だが確実に、“燃えにくい街”への試行錯誤が始まっている。


 玲司はその光景を静かに見ていた。


 都市は完成品のように見えていた。


 だが今は違う。


 街とは、災害し、失敗し、学習しながら変化していくものなのだと、

 少しずつ理解し始めていた。


「でもあなた、また楽しくなってるわね」


 隣へ来たエルザが呆れたように言う。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……まぁ、都市ってこういう積み重ねなので」


 夕陽の中、石材だけが赤く照らされていた。

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