火災
その日の夜、ハルグ村には珍しく強い風が吹いていた。
第二橋周辺の灯りが揺れ、橋前市場の布屋根が音を立てる。
「今日風強ぇな」
「火、気をつけろよ」
夜警たちも少し警戒した様子で巡回していた。
玲司は第二橋の上から、その光景を静かに見ていた。
(……嫌な風だな)
前世でも、都市災害の資料は何度も読んだ。
そして木造密集地で一番怖いのは、大体火だった。
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「玲司!」
突然、ボルドが叫ぶ。
次の瞬間。
「火事だぁぁぁ!!」
夜の旧市場側で、悲鳴が響いた。
玲司が振り向く。
赤い。
旧市場通りの一角から、炎が吹き上がっていた。
「っ……!」
周囲が一気に騒然となる。
「水持ってこい!」
「子供逃がせ!」
「風で広がるぞ!!」
玲司は反射的に走り出した。
嫌な予感が当たった。
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現場は最悪だった。
木造建築。
密集配置。
強風。
条件が揃いすぎている。
「隣へ燃え移る!」
しかも最近のハルグ村は人口増加で建物密度が上がっていた。
つまり延焼しやすい。
何度も見た構造だった。
「ボルド!」
「おう!」
「建物壊してください!」
「はぁ!?」
「延焼遮断します!」
ボルドが一瞬固まる。
だが玲司の表情を見て、すぐ顔を変えた。
「……分かった!」
周囲の若者たちへ怒鳴る。
「斧持ってこい!」
「隣の壁落とすぞ!」
周囲がざわつく。
「家壊すのか!?」
「でも燃え広がるぞ!」
玲司は火の流れを見る。
風向き。
建物間隔。
延焼速度。
(このままだと通り全部行く)
だから止めるしかない。
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「水列作れ!」
玲司が怒鳴る。
「井戸から橋前まで繋げ!」
村人たちが慌てて桶を回し始める。
だが火勢は強い。
炎は夜風で唸り、屋根を焼きながら広がっていく。
「玲司様!」
ミリアが青い顔で駆け寄る。
「宿側まで燃えそうです!」
「避難優先!」
「荷物捨てていいから人出してください!」
火災で一番危険なのは、“物を守ろうとすること”。
「人命優先です!」
その声に、周囲の空気が少し変わる。
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二時間後。
ようやく火は止まった。
旧市場通りの一角は、黒く焼け落ちている。
幸い、死者は出なかった。
だが空気は重い。
「……マジで街燃えるかと思った」
ボルドが座り込みながら呟く。
玲司も静かに焼け跡を見る。
今まで、ハルグ村は“発展”ばかり見ていた。
だが都市は、それだけではない。
密集すれば、災害リスクも増える。
それが都市だった。
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「玲司」
エルザが静かに近づいてくる。
「あなた、最初から火事警戒してたわね」
「木造密集地だったので」
「普通、そんな発想ならないわよ」
玲司は少しだけ黙った。
前世では、都市防災は当たり前だった。
避難導線。
防火帯。
延焼遮断。
だがこの世界では違う。
火事は、“起きたら終わり”に近い。
「……防災計画必要ですね」
ボルドが頭を抱えた。
「また始まったよ……」
「今回、運良かっただけなので」
玲司は真顔で答える。
「次は街半分燃える可能性あります」
空気が静まる。
皆、焼け跡を見ていた。
少し前まで、ただの寂れた村だった場所。
だが今は違う。
人が増え、建物が増え、守るものが増え始めている。
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深夜。
玲司は焼け跡へ一人立っていた。
焦げ臭い、熱気がまだ残っている。
災害後の街の写真を何度も見たことがある。
だが、これは資料ではない。
実際に、自分が作っている街だ。
「……都市って、本当に危ういな」
思わず呟く。
発展すれば、便利になる。
だが同時に、失うものも増える。
その重さを、玲司は少しずつ理解し始めていた。




