行政区画
最近のハルグ村では、“誰へ聞けばいいか分からない”問題が急増していた。
「宿泊許可どこだ?」
「橋前使用料って誰管理だ!?」
「住宅区画、勝手に建てていいのか!?」
朝から怒鳴り声が飛び交う。
玲司は橋前市場中央で、その様子を静かに見ていた。
(……限界来たな)
今までは、小さい村だった。
だから“なんとなく”で回った。
だが今は違う。
市場。
宿泊。
住宅。
衛生。
工事。
機能が増えすぎて、“誰が管理するか”が曖昧になり始めている。
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「玲司!」
ボルドが疲れ切った顔でやって来る。
「宿の連中と住宅区画で揉めてる!」
「内容は?」
「宿予定だった建物、勝手に長期貸し始めた」
玲司は少し目を閉じた。
(用途混在始まったか)
前世でも同じだった。
都市化すると、必ず“空間の奪い合い”が始まる。
商業。
住宅。
物流。
全部、利益構造が違う。
「……区画整理必要ですね」
「また新しいこと言い始めたぞ」
「今やらないと混乱します」
都市とは、“ルールが増える場所”でもある。
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その日の昼。
領主屋敷では、大規模な会議が開かれていた。
「行政区画?」
グランツが眉をひそめる。
部屋にはカルム、橋前管理組合、旧市場商人代表まで集まっていた。
「はい」
玲司は木板へ図を書く。
『商業区画』
『住宅区画』
『物流区画』
「役割ごとに空間を整理します」
「そんな必要あるのか?」
商人の一人が不満そうに言う。
「今までは適当で回ってたぞ」
「人口少なかったので」
玲司は静かに答える。
「でも今は違う」
橋前市場だけだった頃なら良かった。
だが今は、住宅が増え、宿泊者が増え、工房も増え始めている。
つまり、“街”になり始めている。
「都市って、機能分離しないと揉め始めるんです」
前世でもそうだった。
住宅地へ工場を作れば苦情が出る。
物流車両が増えれば事故が出る。
だから区画整理が必要になる。
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「……なるほどな」
カルムが低く呟く。
「最近、旧市場側で夜揉め事増えてる」
「住民と商人ですね」
「分かるのか?」
「予想通りなので」
玲司は旧市場方向を見る。
「今、人の密度上がり始めてる」
「だから“適当”が通用しなくなる」
カルムは少し苦笑した。
「最近、お前の“予想通り”が怖いんだよ」
「都市問題、大体繰り返すので」
前世でも、都市トラブルの構造はかなり似ていた。
人口増加。
混雑。
衛生。
騒音。
発展すると、大体同じ問題が出る。
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「……つまり、街役場を作るってこと?」
エルザが木板を見る。
玲司は少し考える。
「近いですね」
「ヤクバ?」
「行政機能です」
徴収。
管理。
許可。
記録。
今までは全部バラバラだった。
だが規模が大きくなると、それでは回らない。
「だから管理機能を一ヶ所へ集約したい」
「本当に国家運営みたいになってきたわね……」
玲司は少しだけ空を見る。
前世では、市役所なんて“あるのが当然”だった。
だが今は違う。
都市機能は、自然発生しない。
誰かが作らなければ存在しない。
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「玲司殿」
ラウスが静かに口を開く。
「正直、フェルム領でも困惑しています」
「何にです?」
「ハルグ村の変化速度です」
ラウスは木板を見る。
『住宅』
『商業』
『物流』
「普通、小村は市場ができてもここまで制度化しません」
「人口増えてるので」
「それでも異常です」
ラウスは少し苦笑した。
「最近、“ハルグ村は都市国家化してる”なんて噂まで出始めましたよ」
ボルドが吹き出した。
「大袈裟だろ!」
「でも間違ってはいません」
玲司は静かに答える。
実際、ハルグ村は既に“村”ではなくなり始めている。
税収。
市場。
住宅。
行政。
都市機能が揃い始めていた。
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夕方。
玲司は第二橋の中央へ立ちながら、村全体を見下ろしていた。
橋前市場の灯り。
旧市場通りの賑わい。
新しい住宅予定地。
ほんの数週間前まで、何もなかった場所だ。
だが今は違う。
人が集まり、住み、働き、管理され始めている。
「……本当に自治都市みたいだな」
思わず呟く。
前世では、都市制度なんて最初から存在していた。
だが今は違う。
一つずつルールを作り、役割を作り、街そのものを組み立てている。
「でもまだ終わらない顔してるわよ」
隣へ来たエルザが笑う。
玲司は少しだけ考えた後、小さく息を吐いた。
「……次、多分防災ですね」
エルザが頭を抱えた。
「お願いだから一回休んで」
玲司は少しだけ笑った。
だがその頭の中では、既に次の都市問題が動き始めていた。




