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土木工事

 第二橋建設が正式決定した日、ハルグ村は朝から妙な熱気に包まれていた。


「本当に橋作るのか?」

「しかも新しい場所へ?」

「最近のハルグ村、変化早すぎねぇか……」


 村人たちがざわつく中、玲司は川下の岸辺へ立っていた。


 現在の石橋から少し離れた場所だ。川幅はやや狭く、流れも比較的穏やかだった。


「……ここならいけそうですね」


「本当にここへ橋作るのか?」


 ボルドが不安そうに川を見る。


「今の橋から近すぎねぇか?」


「近いから意味あるんです」


 玲司は川岸を見回した。


「今必要なのは、“都市拡張用の導線”なので」


「最近、お前の言葉どんどん難しくなるな……」


 玲司は少し笑った。


 前世でもそうだった。


 都市は、道と橋で形が決まる。


 どこへ繋ぐか。

 どこへ流すか。


 それだけで街の重心は変わる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まずは仮設木橋です」


 玲司は地面へ簡単な図を書く。


『歩行導線』

『屋台通り』

『旧市場接続』


「重要なのは物流じゃなく、人流を逃がすこと」


 ボルドが腕を組む。


「でもよ、橋なんて作ったことある奴いねぇぞ」


「俺もないです」


「おい」


 玲司は少しだけ空を見た。


 正直、土木専門ではない。


 前世では都市計画側だった。実施設計や施工管理は別部署だ。


 だが最低限の構造知識はある。


「なので簡易構造で始めます」


「簡易?」


「最初から完璧な橋を作らない」


 前世でも同じだった。


 仮設利用。

 社会実験。

 暫定整備。


 まず動かし、問題を見ながら改善する。


「都市って、大体そうやって作ります」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼頃には、川下へ大量の木材が集まり始めていた。


「丸太こっちだ!」

「縄もっと持って来い!」


 橋前市場の若者たちも総出で動いている。


 少し前まで、村人たちは“街を維持する”発想すら持っていなかった。


 だが今は違う。


 橋前市場ができ、

 仕事が増え、

 収入が増えたことで、“街を良くすると自分たちも得をする”感覚が生まれている。


「……なんか、本当に工事始まってるな」


 ボルドが呆然と呟く。


「始まってますね」


 玲司は川岸を見ながら答えた。


 前世では、巨大再開発の工事現場を見るたび少し高揚した。


 街が物理的に変わる瞬間だからだ。


 今は規模こそ小さい。だが感覚はかなり近かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 エルザが川岸へやって来る。


「父が驚いてたわ」


「何にです?」


「村人が自分から工事へ参加してること」


 玲司は少しだけ周囲を見る。


 若者たち。

 商人。

 旧市場側の店主。


 皆、それぞれ役割を持って動いていた。


「街って、“自分の利益と繋がる”と急に動き始めるんです」


「……それが都市なの?」


「多分」


 前世でもそうだった。


 再開発へ反対していた商店街が、利益構造を理解した瞬間協力側へ回ることは珍しくない。


 重要なのは、“参加する理由”だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「玲司殿」


 聞き慣れない声。


 振り返ると、ラウスだった。


 隣領フェルムの行政官だ。


「また視察ですか?」


「半分は」


 ラウスは川岸を見て、少し苦笑した。


「……本当に橋作り始めるとは思いませんでした」


「必要だったので」


「普通、村はこんな短期間で公共工事を決めません」


「でしょうね」


 玲司も否定しなかった。


 前世なら、調整だけで数年かかる話だ。


 だが今のハルグ村には、“成長圧力”がある。


 止まれば詰まる、だから進むしかない。


「正直、恐ろしいですよ」


 ラウスが静かに言う。


「ハルグ村、成長速度が異常です」


 玲司は少しだけ空を見上げた。


 前世でも、急成長エリアは周囲から恐れられていた。


 物流。

 人口。

 資本。


 全部を吸い始めるからだ。


「……まぁ、止まる気はないですけど」


 ラウスは苦笑した。


「でしょうね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 川下には、木橋の基礎が少しずつ組まれ始めていた。


 まだ粗い、不完全だ。


 だが確実に、“新しい導線”が形になり始めている。


 玲司は川岸へ立ちながら、その様子を静かに見ていた。


 橋一本で、街は変わる。


 人流が変わる。

 店が変わる。

 土地価値が変わる。


 都市とは、結局そういう積み重ねだった。


「……本当に戻れないな」


 思わず呟く。


 前世では、街を変えたいと思っていた。


 だが今は違う。


 実際に、自分の手で街が変わり始めている。


 その感覚だけは、少し嬉しかった。

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