反対派
第二橋計画の話は、村全体へ一気に広がった。
「また工事するのか?」
「橋増やすって本気かよ」
「そんな金どこにあるんだ?」
橋前市場では、商人たちが好き勝手に噂をしている。
玲司は橋の上から、その様子を静かに見ていた。
予想通りだった。
都市は発展すると、“変化したい側”と“現状維持側”へ分かれる。
前世でも何度も見た。
再開発。
道路拡張。
駅前整備。
便利になると分かっていても、人は変化を嫌がる。
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「……まぁ揉めるよな」
ボルドが苦笑する。
「最近ようやく落ち着いてきたのによ」
「むしろ今だからです」
玲司は橋前を見る。
「人が増えて、利益が出始めた」
「だから“今のままでいい”って人も増える」
「……あぁ」
橋前市場で利益を出している露店商たちは、現状維持を望み始めていた。
第二橋ができれば、人流が分散する。
つまり橋前独占状態が崩れる可能性がある。
「都市って、大きくなるほど調整が増えるんですよ」
「嫌な話だな」
「かなり」
玲司も苦笑した。
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その日の昼、橋前管理組合では臨時会議が開かれていた。
「第二橋なんて必要か?」
「今でも儲かってるじゃねぇか」
「わざわざ金使う意味あるのか?」
露店商たちが不満を口にする。
以前なら、橋前が発展するだけで全員が喜んでいた。
だが今は違う。
利益が生まれたことで、“守りたい立場”ができ始めている。
「必要です」
玲司は静かに言った。
「今の橋前、既に処理能力限界へ近い」
「でも回ってるだろ?」
「今は」
玲司は木板へ簡単な図を書く。
『物流増加』
『人流集中』
『橋渋滞』
「このまま人が増えると、近いうちに完全停止します」
「大袈裟だ」
「大袈裟じゃないですよ」
玲司は橋方向を見る。
「橋って、今のハルグ村の心臓部なんです」
「ここ止まったら全部止まる」
部屋が少し静まる。
最近では、皆も橋前依存が強くなっていることを理解し始めていた。
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「……だが金は?」
低い声。
カルムだった。
「木橋でも安くはない」
「今の税収全部使う気か?」
玲司は少し考える。
その視線を、旧市場方向へ向けた。
「投資ですよ」
「投資?」
「今のハルグ村、成長速度がかなり速い」
玲司は静かに言う。
「だから今インフラ作れば、後から回収できる」
前世でも同じだった。
成長初期都市では、“先回り投資”が極めて重要になる。
逆に言えば、インフラ整備を渋ると成長そのものが止まる。
「でも失敗したら?」
露店商の一人が聞く。
「その時は痛いですね」
玲司はあっさり答えた。
「ただ、何もしなくても詰まって終わります」
部屋が静かになる。
現状維持にも、実はコストがある。
それが都市だった。
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「……面白い」
その時、グランツが口を開いた。
「お前、“今”じゃなく“未来”を基準に話してるな」
玲司は少しだけ黙る。
前世では、それが当たり前だった。
十年後。
二十年後。
人口予測。
交通量予測。
都市計画とは、未来予測の積み重ねだ。
「今だけ見ると、橋前市場は成功してます」
玲司は橋方向を見る。
「でも未来を見ると、もう狭い」
「……なるほどな」
グランツはゆっくり頷いた。
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会議後、エルザが玲司へ近づいてくる。
「最近、本当に領主みたいな顔するようになったわね」
「やめてください」
「でも似てるわよ」
「今だけじゃなく、先を見てる顔」
玲司は少し苦笑した。
前世では、未来ばかり見ていた。
だが実際には、計画途中で止まることも多かった。
今は違う。
少なくとも、この街は動いている。
「……でも、反対増えそうですね」
「当然でしょ」
エルザは橋前を見る。
「街が大きくなるって、“得する人”と“困る人”が増えることだもの」
玲司は静かに頷いた。
都市は、全員を幸せにする装置ではない。
利益も、
渋滞も、
格差も、
全部生む。
だからこそ難しい。
だが同時に、それでも人は街を作る。
その理由を、玲司は少しずつ理解し始めていた。




