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第二の橋

 ハルグ村の発展は、ついに橋前市場一帯だけでは処理できない段階へ入り始めていた。


「荷車待機列、また伸びてます!」

「宿泊区画満室です!」

「橋中央で詰まりました!」


 朝から怒鳴り声が飛び交う。


 以前より運営は整理されている。だが、それでも限界が近づいていた。


 玲司は橋の上から、人と荷車の流れを静かに見下ろしていた。


(やっぱりここがボトルネックか)


 問題は明確だった。


 橋前市場が成長した結果、“橋そのもの”が処理能力不足になり始めている。


 前世でも何度も見た。


 都市は、成長した瞬間からインフラ不足を起こす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……最近、お前ずっと橋見てんな」


 隣へ来たボルドが呟く。


「見てますよ」


「なんか嫌な予感しかしねぇ」


 玲司は少し黙った後、静かに口を開く。


「第二橋作りたいですね」


 ボルドが真顔で固まった。


「……は?」


「橋増やします」


「いや待て待て待て!」


 ボルドが頭を抱える。


「最近のお前、規模感壊れてんだよ!」


 玲司は橋前を見る。


「今の問題、全部橋へ集中してるんです」


「まぁそうだが……」


「人、物流、滞在、徴収」


「全部ここ通るので」


 つまり、この橋が止まると街全体が止まる。


 それは都市構造としてかなり危険だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でも橋なんて簡単に作れるもんじゃねぇぞ?」


「本格石橋は無理ですね」


 玲司は即答する。


「でも木橋ならいけると思います」


「木橋?」


「荷車用じゃなくて歩行専用」


 玲司は川下方向を見る。


「今、人と荷車が混ざってるから詰まる」


「……あぁ」


「だから歩行導線を分離したい」


 前世でも同じだった。


 歩車分離だけで、人流処理能力はかなり変わる。


「今の橋は物流優先へ戻す」

「新橋は歩行者と滞在導線」


 ボルドが嫌そうな顔をした。


「お前、そのうち本当に街一個作りそうだな……」


「もう作ってますよ」


 玲司は真顔で返した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の午後、領主屋敷では珍しく大人数の会議が開かれていた。


「第二の橋、だと?」


 グランツが眉をひそめる。


 部屋にはカルムや橋前管理組合の代表たちも集まっていた。


「現在、橋前の物流量は急増しています」


 玲司は簡単な図を木板へ描く。


『物流』

『歩行』

『滞在』


 全部が一本の橋へ集中していた。


「このままだと、近いうちに完全麻痺します」


「……確かに最近かなり詰まってるな」


 カルムが珍しく素直に頷く。


「だから導線を分離します」


 玲司は川下を指差した。


「歩行専用橋を追加して、人流を逃がす」


「だが金は?」


 グランツが低く聞く。


「簡易木橋なら現実的です」


 玲司は即答する。


「あと、今の橋前使用料だけでも以前とは比較にならない収入があります」


 部屋が少し静まる。


 少し前まで、ハルグ村に“公共投資”なんて言葉は存在しなかった。


 だが今は違う。


 税収がある。

 利用料がある。

 そして投資対象がある。


 つまり都市経営が始まりつつある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……本当に変わったな」


 グランツが小さく呟く。


「以前のハルグ村では、“維持する”話しかなかった」


 修繕や節約、縮小など


 そんな話ばかりだった。


 だが今は違う。


 拡張、整備、投資


 未来へ向いた話が増えている。


「玲司」


 グランツが真っ直ぐこちらを見る。


「お前、本当に何者なんだ?」


 部屋が静まり返る。


 カルムも、エルザも、皆こちらを見ていた。


 玲司は少しだけ考える。


 前世の話をしても、多分理解されない。


 だが。


「……街を見る仕事をしてました」


 それだけは本当だった。


 グランツは数秒玲司を見つめ、やがて低く笑った。


「街を見る、か」


「はい」


「なら今のお前は、街を作っているな」


 玲司は少しだけ黙った。


 前世では、“作りたい”側だった。


 だが実際には、会議と数字ばかりで終わった。


 今は違う。


 目の前で本当に街が変わっている。


 その実感だけは、確かにあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜。


 玲司は橋の上に立ちながら、川下方向を見ていた。


 もし第二橋ができれば、人流は分散する。


 旧市場側もさらに活性化する。


 街はもっと広がる。


「……止まらないな」


 思わず呟く。


 都市は、一度成長を始めると次々問題が出る。

 だが同時に、次々可能性も増える。


 前世で夢見ていた“街が変わる感覚”が、今ここには確かに存在していた。

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