表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/91

拡張限界

 橋前市場は、明らかに限界へ近づいていた。


 朝から荷車が列を作り、人が溢れ、露店商たちが怒鳴り合っている。数日前まで閑散としていた空間とは思えない熱気だった。


「通れ! 荷車が詰まってる!」

「そっち寄れ!」

「子供を前に出すな!」


 玲司は橋の端に立ちながら、その流れを静かに観察していた。


 人は増えている。


 売上も伸びている。


 だが同時に、“歪み”も出始めていた。


(やっぱり来たな)


 都市は、人が集まり始めた瞬間から新しい問題を生む。


 前世でも何度も見た光景だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ミリアが慌てた様子で駆け寄ってくる。


「パン焼く場所足りない!」


「もう?」


「増やしたのに追いつかない!」


 玲司は周囲を見る。


 橋前の空き地は、既にかなり埋まっていた。即席屋台、荷物置き場、休憩スペース。雑多だが、それが逆に活気を生んでいる。


 ただし、このままでは長く持たない。


「ボルド」


「ん?」


「川沿いの倉庫、今使われてる?」


「半分くらい空いてるな」


「なら改装します」


 ボルドが目を丸くした。


「また簡単に言うな……」


「今必要なのは“裏側”です」


「裏側?」


「市場って、店だけじゃ回らないんですよ」


 玲司は橋前を見る。


「保管、仕込み、荷下ろし、休憩、そういう機能が必要になる」


 前世の商業施設でも同じだった。表側だけ作っても機能しない。物流動線、バックヤード、ストックヤード。それらが揃って初めて商業は安定する。


「今の橋前は、全部を表でやってる状態です」


「……確かにごちゃごちゃしてんな」


「だから裏へ逃がす」


 ボルドが腕を組みながら唸る。


「お前、本当に街そのもの見てんだな……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「面白い話をしているな」


 低い声。


 振り返ると、グランツだった。今日は護衛だけでなく、数人の職人らしき男たちも連れている。


「父上?」


「少し様子を見にな」


 グランツは橋前を見渡した。


 露店、荷車、行列、笑い声。


 そして小さく息を吐く。


「……信じられんな。本当に村へ人が戻ってきている」


 その言葉には、驚きと安堵が混ざっていた。


「グランツ様」


 玲司が軽く頭を下げる。


「お前の言っていた“市場移転”、正しかったようだ」


「まだ途中ですよ」


「途中?」


「これは入口です」


 グランツが眉を上げる。


 玲司は橋前全体を見渡した。


「今は人を止めただけです」


「……」


「でも本当に必要なのは、“滞在”です」


「前にも言っていたな」


「はい。人は長く居るほど金を使う」


 玲司は橋前の一角を指差す。


「だから宿が必要になる、倉庫が必要になる、情報交換の場所も必要になる」


「つまり?」


「この村、物流拠点になれます」


 その瞬間、周囲が静まった。


 ボルドが口を開ける。


「……物流拠点?」


「北方と南街道の中継地点です」


 玲司は川を見る。


「川も使えら橋もある、さらには山脈の入口でもある。立地だけならかなり強い」


 前世なら、再開発会社が群がるレベルだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だが問題もある」


 グランツが低く言う。


「金だ。橋前を拡張するにも、倉庫を直すにも、金がかかる」


「はい」


「今の村にそんな余裕はない」


 玲司は少し考える。


 そして静かに橋前を見る。


 人がいる。


 つまり価値がある。


 なら、方法は一つだった。


「場所代を取ります」


「……何?」


 カルムが反応した。


 いつの間にか後ろにいたらしい。


「出店料です」


 玲司は即答する。


「橋前はもう価値のある場所になってる、だから利用料を徴収する」


 カルムが呆れたように笑う。


「商人が払うわけないだろ」


「払いますよ」


 玲司は橋前を指差す。


「ここ、儲かるので」


 周囲が静まり返る。


 だが玲司には確信があった。


 前世でも同じだった。


 人が集まる場所には、必ず賃料が生まれる。


 それが地価だ。


「橋前はもう“土地の価値”が変わり始めてるんです」


 グランツがゆっくり目を細めた。


「……なるほどな」


 玲司は橋前を見渡した。


 たった一週間。


 それだけで、この場所は変わった。


 そして玲司は知っている。


 都市は、一度流れが生まれると加速度的に変わり始めることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ