講義室と単位
春。4月8日。
そう、つまり前話の続き。
私は空の梅サイダーのボトルを講義室前のゴミ箱にインする。
俯きながら講義室の後方入り口から侵入。
みんなの目が怖い。
昨日、自己紹介でスベったから、誰も近付いてくれないだろう。
講義室の後ろに幽霊みたいに滑り込んで着席する。
今日が初めての講義だ。
必修の講義は絶対に落とせない。
わくわくの大学の授業のはずなのに。
どうしてこんなしょうもない事で悩まなきゃならないの。私の馬鹿。
「友達がいなくて悩んでいるようだな」
「ファっ!?」
「しかし、もっと大事なことがあるぞ」
いつの間にか、前話の彼が隣に座ってノートを広げている。和服姿の彼だ。
「え?貴方も、同じ学部?」
「そうだが?」
何これ、運命の赤い糸…いや、ないない。
ただのストーカー男!?
「ストーカーではない」
「心を読まないで!」
「すまない」
いや、読めるんかい!
「俺が友達なってあげよう、という事だ」
「友達…」
ふと、隣の彼を見てみる。
彼は和服を着ている。灰色の和服。
そしてそれが似合うようなキリッとして不潔感の無い太眉と二重。
黒髪は適度に伸びているが、きっと坊主でも問題は無さそうな、まぁまぁな顔立ち。座っていてもわかるが、平均よりは身長が高い。
…ま、タイプじゃないけど。
…って、今の私の思考も読まれてる!?
「聞いてない」
「聞いてるゥー!」
「ショウタロウだ」
「ごめん、別に名前は聞いてない」
「今のは独り言だが?」
何だこいつ。ムカつく。
「ムカつくと思いながらも、次に名前を言うのだろう?」
「ナナです」って言っちゃった!
「俺は、一度決めた事は曲げない。ナナ。お前と友達になる」
「はぁ?」
講義は始まっているのに、私たちの会話を皆が無視しているのか、ラジオのように聴いているのか、誰も何も反応をしない。
「いいか?このままでは、薔薇色のキャンパスライフ、ふたりともノーフレンドでフィニッシュする事になるぞ?」
「勝手に決めないでよ!」
というか、ふたりとも!コイツの友達がいないのね。
でもまあ、話し相手がいるだけでもマシ?
「インズタとかやってるのか?」
「やってない」
本当はやってるけど。
「ならば、電話番号を交換しないか?」
「い、良いけど」
こうして、私たちは連絡先を交換した。
「あれ、そういえば、ショウタロウくん、さっき〝もっと大事なことがある〟って言ってなかった?」
「そうだ。言い忘れていた」
「何?」
「我々は違う講義を受けている。俺たちが受けるべきは、隣の講義棟の授業だ」
「ちょ!早く言ってよ!」
薔薇色のキャンパスライフ。
ノー単位でフィニッシュになりそう。




