ウメとサクラ
春。
4月の8日。
私は憂鬱だった。
昨日の自己紹介で大幅に滑った私は、もう大学に行きたくないと思っていた。
それでも実家のお母さんとお父さんの加齢臭を思い出して、とりあえずキャンパスまで来たのだ。
頑張れあたし!ファイオー!私!
馬鹿みたいな台詞で自分を鼓舞する。
とりあえず見つけた自動販売機で、ほうじ茶を買おうとした、その時だった。
自販機の物陰から、ぬうっと男が現れた。
和服姿の、顔立ちの整った男。
「これを飲むつもりはないか?」
男は突如、梅味のサイダーを私に見せつけてきた。
「え、いや、ないです」
「今、何を買おうとしている?」
男の質問攻めに、気圧される私。というか、何故にタメ口!?
「ほうじ茶を買おうとしてました」
私は自販機のメニュー、下段にあるオレンジ色のラベルのほうじ茶を指さした。よく見ると、男の差し出した梅サイダーもラインナップに存在した。
「梅サイダーを飲む気は無いのか?」
「は?」
「俺は、ナタデココドリンクを飲みたいのだ」
「飲んだらいいじゃん?」
「間違えたのだ」
「ま、間違えた?」
「間違えて、梅サイダーを押したということだ」
え?
ちょっと待って!?
もしかして、私にナタデココを買わせて、梅サイダーと交換させようとしてる?
「その通りだ」
「ちょ!心の中を読まないで!」
「すまない」
いや!読めるんかい!
「まぁ、いいよ。ちょっと梅が恋しかったし」
「恋しい?」
「私の住んでいた東北は、寒いから、この時期にやっと梅の花が咲き始めるの。ああ、幼い頃はサクラと勘違いしてね、違うよって、お母さんによく言われたものだわ。あるあるだよね。でも、東京はあったかくて、私が上京する頃にはちっちゃって…桜もいいけど、その、ちょっと梅が、恋しかったの」
「いいから早く買ってくれないか?」
まぁ、この男に免じて、春の面白い出会いだと思って、話に乗っかってやるか。
ーそれがワレモノの私と、我が道をゆく者、ワレモノの彼との出会いだった。
お金を押して自販機のボタンを押す。
梅サイダーが出てきた。
「あっ、ごめん、間違えた」




