三度(みたび)アンドリューの訪問
テオドア達から離れた私はアンドリューを探した。騎士たちの手当は終わっているし、どこへ行ったんだろうか。
長い夜が明け、空が薄明るくなり始めた時分に、ようやく私はアンドリューを見つけた。
駐屯地の片隅で、盛り上がった三つの土。墓標代わりに剣が刺してある。それをじっと見つめて佇んでいるアンドリューは、兜を脱いで小脇に抱えていた。
「埋葬してあげたのね」
振り向いたアンドリューは沈痛な面持ちであった。
「我が国のために戦ってくれたのだからな。落ち着いたら、ちゃんとした墓碑を建てようと思う」
「そうね。そのためにも早くドラーゴとディザストロを倒して、ロラン王国を守りましょう。絶対に」
☆☆☆☆☆
東部での戦いから一週間が経った。あれから新たなドラーゴが出たという報告はない。
騎士団と聖女ステラは翌日王都に戻って来た。テオドアは国王陛下にこう報告したという。
「伝説の聖女アデリン様と仮面の騎士が姿を現し、巨大な魔獣ドラーゴを撃退して下さいました。それだけではなく、私を始め重傷を負った者たちの怪我を一晩で治して下さったのです」
すると国王はひどく不機嫌な顔になった。
「では、お前たちだけでは何もできなかったということか」
「申し訳ございません。しかし、ドラーゴは巨大で獰猛です。とても普通の人間では……」
「黙れ。何の為にお前たち騎士団に給金を払っていると思うのだ。魔獣を討伐するためであろう。しかも、とうの昔に死んだ聖女が現れたなどという嘘を並べおって。お前はもうクビだ。騎士団長はもっと若い者に任せる」
「陛下、お待ち下さい……!」
しかし国王の気持ちは変わらなかった。アデリンを崇拝する様子のテオドアが気に食わなかったのだろう、とアンドリューは私に報告した。
「私も国王陛下に進言したが、第二王子の分際でと一蹴されたよ。あの人には何でも言いなりの王太子がいればいいようだ」
「それで……テオドアはどうなったの?」
「そのまま騎士団長を辞して、今は自宅で蟄居中だ。魔獣との戦いに長けた彼がいないのは大いに損失だ」
アンドリューはメラニーの入れたお茶を飲みながら言う。
今夜も彼は私の家に来ているのだ。キャスリンのことを話すという名目だけど、そろそろ屋敷の者やメラニーから疑いの目を向けられている。いやこれ、浮気じゃないですから!
「いつものテオドアならあんな怪我を負うことはなかったんだが。実は、ドラーゴに襲われそうになった聖女ステラを庇ったために、背中を抉られたみたいだ」
「まあ……! そうだったの」
「ステラは攻撃力は無いが、加護と結界には定評があった。だが彼女の結界はドラーゴには効かなかった」
「それはそうよ。私だって、動きを一瞬止めるのが精一杯何だもの」
「ところで、キャスリンの聖女の力のほうはどうだ?」
「結界は自分の周り二、三人分くらい。治療も加護も、まだ使いこなすのは難しいわ。でもエレンには何か考えがあるようなの。それが何かは教えてくれないんだけどね」
「そうか。だが本音を言うと戦場に連れ出したくはないな。あの凄惨な場所には……」
「そうね……幼いキャスリンには厳しいわ」
私だって、前世の記憶があるからなんとか耐えられるのだ。たった十歳の少女が、血と瘴気と呻き声だらけの場所で戦うなんてこと、到底無理な話に決まってる。
「剣士も足りない。腕があって勇気のある剣士が」
それは私も感じていた。テオドアも謹慎中だし、アンドリューだけではドラーゴが複数襲ってきた場合、太刀打ちできない。
(……あっ!)
大事な人を忘れていた。誰よりも剣の腕が優れている人を。
「待ってアンドリュー! それなら、エドガーがいるわ」
アンドリューは露骨に顔をしかめた。
「お前の婚約者か。私情を挟むな」
「違うわよ。エドガーはホントに剣の腕は凄いのよ。テオドアだって言ってたじゃない。あなたこそ私情を挟まないで」
「……まぁ、北の辺境にいるならば勿体ないな。いいだろう、こちらへ戻そう」
私は立ち上がって身を乗り出した。
「ホント? ありがとう! ずっと会えていないのよ。嬉しいわ!」
「……やっぱり、私情じゃないか」
アンドリューがボソッと呟いた。
「何? 何て言ったの?」
「何も。じゃあ、俺は帰る」
「あ、はい! また明日キャスリンのところへ行くわね」
どことなく機嫌の悪そうな顔でアンドリューは帰って行った。




