東へ
「お姉様、次はお姉様もお泊まりしてね。エレンやスージィやメルル、アンドリューお兄様もみんなで一緒に。だから、無事に帰ってきてね」
私はキャスリンをギュッと抱きしめた。
「もちろんですよ、キャスリン様。約束しますわ」
小さな手と指切りを交わすと涙をこらえながらも笑顔を見せてくれた。
それから私は持ってきたローブを着て仮面を付けた。
「どう? 私だとわからない?」
「お姉様、全然わからないわ! 謎の魔法使いみたい! 声もおばあさんみたいに変わってる!」
「ローブに魔法をかけておいたの。これを着ている間はこの声になるように」
「私の声も変えてくれ」
言われて振り向いた私はアンドリューを見てびっくりした。
「あら! アンドリュー、そんなのどこで見つけてきたの?」
アンドリューは金属製の兜をすっぽりと被っていた。目と鼻を覆う面甲は尖っていて、呼吸がしやすいように口だけが見えている。頭上には角やトゲの飾りが付いていた。
「……廊下に飾ってある古代の甲冑から取ってきた」
もう少しシンプルな兜は無かったのかと思ったけれど、本人は満足そうなので黙っておく。
「重くない?」
「大丈夫だ」
アンドリューは騎士の服装に着替え、マントを付けていた。見た目では王子とわからないが、バレないように声も変えたほうがいいだろう。彼の声は高めだから、低い声になる魔法をかけておいた。
「じゃあヒューイ、よろしくお願いします」
無口なヒューイはコクリと頷くと、開いた窓から風を呼び込んだ。私は姿を隠すための呪文を唱える。
「隠れよ」
アンドリューと私の姿が消えた。
「わあ、二人が見えなくなった……!」
エレンがそっとキャスリンの肩を抱いて寄り添う。双子もキャスリンの側から離れない。
ヒューイは私の肩に止まり、風を操ることができる強力な魔法をかけてくれた。私とアンドリューの足が床から浮き上がる。
「おいアイリス。どういう体勢で飛んで行くんだ?」
低く渋めの声でアンドリューが話し掛けてくる。耳元で響くその声に、私の記憶が呼び覚まされる。
(しまった、リカルドの声と同じになっちゃってる……! そういえばあいつも低い声だったわ。顔も隠れてるし、まるでリカルドがそこにいるみたい)
動揺を隠して老婆の声で答える私。
「ん? このまま、立ったままよ」
アンドリューは大きくため息をつくと、私を抱き上げた。
「ちょ?! ちょっとアンドリュー、何するの!」
突然のお姫様抱っこに慌てる私。
「ドレスの中が下から見られたら困るだろう」
「魔法かけてるから見えないのよ。大丈夫だって」
「いいから。行くぞ」
ここで喧嘩している暇はない。仕方なく、首に腕を巻き付けて、抱かれたまま出発することにした。
「じゃあ、キャスリン様。行ってきます」
キャスリンは懸命に手を振っている。
「見えないけど、行ってらっしゃい! 無事に帰ってきてね!」
私は呪文を唱えた。
「飛べ」
私たちは風に乗って窓から外へ出た。そして東へ向かってひたすら飛び続けた。




