エドガーからの手紙
その夜、王宮から自分の屋敷に戻った私は、お行儀が悪いけれどドサリとベッドに倒れ込んだ。
(エレンの話が突然過ぎてピンとこないけど……これから本当に起こることなんだ。覚悟しておかなきゃいかないんだ)
災厄――何百年かに一度、目覚める魔獣。
エレンが言っていた。前に目覚めたのは三百年前。地上を焼き尽くし、人間も妖精も半分以上命を失ったそうだ。
妖精たちは、暴れ回った後眠りについたディザストロが再び目覚める前に対抗手段をと、人間界に時折現れる奇跡の力を持つ女性――『聖女』に白羽の矢を立てた。彼女たちに妖精の力を授ければきっと大きな力になる、と。
しかし、妖精の姿を見ることができるほどの聖女はなかなか現れなかった。そうして待つこと二百年、ようやく前世の私、アデリンが出て来たのである。
『ディザストロの気配が少しずつ強くなっているの』
エレンは言った。
『どこで眠っているのかはわからないけれど、少しずつ目を覚ましかけているのよ。奴が現れたらすぐに、選り抜きの騎士と共に討伐に向かわなくてはならないわ。あなたの力があればきっと大丈夫。この世界を救って欲しいの』
うつ伏せでベッドの上に転がっていた私は、今度は仰向けになって両腕を上げ、華奢な手指を見つめる。
(前世では、大結界を張れるようになるまでは前線に出て戦っていた。頑丈な身体を生かして弓も引いたし剣も取っていたわ。だけど今世では何も訓練していない。貴族令嬢らしいこの細い腕で戦えるのかしら……)
明日から体力作りを始めよう。筋力アップもしなければ。この身体でどこまで鍛えられるかわからないけれど。
「アイリス様、エドガー様からお手紙が届きましたよ!」
ノックの後、メラニーがはしゃいだ声で入ってきた。私は急いで飛び起き、メラニーに飛び付いた。
「早く! 早く見せてちょうだい!」
私の必死な顔を見たメラニーは、からかうこともせずすぐに渡してくれた。エドガーが出立してすぐに手紙を送っていたので、その返事が返ってきたのだ。ドキドキしながらペーパーナイフで手紙を開封し、便箋を開いた。
『親愛なるアイリス、手紙をありがとう。今日でここに来てから四日が経ったよ。
同じロラン王国なのに、北部は随分と寒く、土地も痩せているようだ。住民達に聞くと、今年が特別おかしな気候だということらしいがね。例年は夏は涼しくて過ごしやすく、冬は適度に雪が降り雪景色を楽しめるので、観光にもいい場所だそうだよ。
ぼく達が結婚する頃は初夏だから、きっといい気候だろう。僕はこれから休日の度に、君との新居を構える場所を探して歩くとするよ。君と暮らすのにふさわしい場所をね。
三ヶ月後には連休が取れるようだから、その時に一度帰るつもりだ。会える日を楽しみにしているよ。
それではアイリス、君も身体には気をつけて。キャスリン王女様の家庭教師として忙しいだろうけれど、無理し過ぎないようにね。
愛をこめて、エドガーより』
(エドガー……)
私は手紙を抱き締めて思わず涙ぐんだ。
「アイリス様? どうしたんですか。そんなに手紙が待ち遠しかったんですか?」
「うん……」
(違うの。エドガーがこんなに私との結婚を楽しみにしてくれているのに、私は聖女としてディザストロと戦うため、聖女の力を失くすわけにはいかなくなった……それが辛いの)
私はすぐにエドガーと結ばれたかったのに。ディザストロを倒すまでは無理になるだろう。
(こうなったら秒で奴を倒す! そして私の誕生日にはエドガーと絶対に結婚するんだから!)




