舞踏会ごっこ
翌日、早い時間にニッキーの葬儀は終わったのだろうか。黒いドレスを用意して王宮に上がったのだが、私が参上した時の王宮はいつもと何も変わらない平穏な様子だった。
「ねえマチルダ、聖女様の葬儀にはあなたも出たの?」
「葬儀ですか? いいえ、出ておりません。今朝の打ち合わせで聖女様がお亡くなりになったことは聞きましたが、それだけです」
「え……」
(そうなの? 国のために頑張ってきた聖女が亡くなったのに、喪に服すことも、盛大な葬儀をすることもないんだ……)
ちょっと拍子抜けしてしまった。私がアデリンとして死んだ時も、こんなふうにあっさりと処理されていたんだろうか。
(伝説の大聖女とか言われてすっかり英雄気分になっていたけれど、もしかして王宮での扱いは下のほうだったのかもね……)
気を取り直してキャスリンの部屋のドアをノックする。すると今日は、
「はーい!」
と、元気な返事があった。
「キャスリン様、こんにちは」
「お姉様、こんにちは! お待ちしてました! 今日はね、双子たちのお姉さんが来てくれてるのよ」
あら、と窓辺を見ると確かに、スージィたちよりも大人びた妖精がままごとの椅子にすまして座っていた。
「綺麗な人でしょう? 名前はね、エレンっていうの!」
エレンは紫色の髪を夜会巻きにして赤い石のついたかんざしで止めていた。目が大きくてクリクリとよく動く可愛らしい双子たちと違って、切長の瞳がとても妖しく美しい妖精だ。
「今日はね、お人形たちも入れて舞踏会ごっこをするのよ。エレンとお姉様も遊びましょ!」
布で出来た人形は裸で作ってあり、ドレスを着せ替えて遊べるようになっている。そのドレスはちょうど妖精たちにピッタリのサイズだ。色とりどりのドレスが小さなクローゼットにたくさん並んでいる。
「メルルたちが着られる大きさになるようにマチルダに作ってもらったの。マチルダには二人が見えないから、大きさを説明するのが大変だったわ!」
マチルダは随分手先が器用と見え、本物のドレスと同じように精巧に作られていた。スージィもメルルもそれぞれ好きなドレスを選び、キャスリンは黒髪の人形に女王様のドレスを着せた。
「はい、お姉様はこのクイーンを動かしてね。エレンはこの肩が出た大人っぽいドレスを着てちょうだい。私は、このキャシー人形なの」
自分に似せて作ったであろう金髪の人形に可愛らしいドレスを着せて、舞踏会ごっこが始まった。
王女キャシーと隣国の双子の王女スージィとメルル、その姉のエレン。そして私はキャシーの母で偉大な女王アイリス。キャスリンの筋書きに沿って舞踏会ごっこは進んでいく。
遊んでいるうちに、私にはキャスリンの寂しい気持ちが見えるような気がした。人形の世界ではキャシーは母に愛され、友達と仲良く遊び、侍女たちにも慕われる人気者だ。素敵な婚約者もいることになっている。
(両陛下や第一王子に遠ざけられているのが寂しいのね、きっと……)
私たちは声を上げて笑いながら遊び、今日はメルルが疲れて眠ってしまった。
「あら、メルル、疲れちゃったの?」
キャスリンがソファで目を閉じているメルルにそっと問いかけるが、すぅすぅと可愛い寝息を立てていて目覚める様子はない。
「キャスリン様、メルルやスージィと一緒にお昼寝してはいかがですか?」
するとキャスリンは瞳を輝かせた。
「まあ! 素敵ね。お泊まり会みたいで楽しいわ。スージィ、ベッドに行きましょう?」
スージィも喜んでついて来た。キャスリンはメルルを大事そうに抱き上げ、ベッドに向かう。スージィたちを潰してはいけないからと、籠の中にクッションとハンカチを載せて即席のベッドを作り枕元に置いた。
「ねえアイリスお姉様、すぐに起こしてね? もっと遊びたいんだもの」
「ふふ、わかりました。ぐっすり休んで下さいね」
キャスリンが目を閉じて夢の国へ行くまで、私は側に座って手を繋いであげた。キャスリンは私の手をキュッと握りしめて微笑みながら眠りに落ちた。




