聖女の可能性
マチルダを呼んで、眠ってしまったキャスリンをベッドに運び、部屋を片付けているとアンドリューが入ってきた。
「やあアイリス。キャスリンはどうだったかい?」
「とても明るくて可愛い王女様ですわ。少しはしゃぎ過ぎて疲れてしまったようですの」
マチルダも興奮した表情で言う。
「アンドリュー殿下、アイリス様はすごい方です。キャスリン様のあんなに楽しそうな笑い声を初めてお聞きしました」
アンドリューはもの凄く甘く優しい顔でキャスリンの寝顔を見つめていた。こんな顔もできるのね、と私はちょっと驚いた。リカルドの頃、こんな柔らかな表情は見たことがなかったのだ。
「そうか……良かった。ではアイリス嬢、あちらで今日の話を聞かせてもらえるかな」
キャスリンの部屋の隣にちょっとした客間がある。私はそこに招かれた。マチルダがお茶の用意をし、小さ目のテーブルで私たちは向かい合った。マチルダが出て行くと、早速アンドリューの口調が変わる。
「キャスリンと随分打ち解けたんだな」
「ええ。妖精が見えることを誰にも信じてもらえなくて心を閉ざしていたみたい。だけど、私にも見えると知って安心したんじゃないかしら。もしかしたら自分だけがおかしいんじゃないかと不安に思っていたようだから」
「そうか……お前にも妖精が見えるのか。やはりキャスリンは嘘を言っているんじゃなかったんだな」
アンドリューはホッとした顔で言う。
「昔は無邪気な子だったんだがな。妖精が見えると言い始めてからは、父や母、兄からも距離を置かれてしまった。勉強は好きなので家庭教師の授業はよく聞いているし見た目もいい。どこに出しても恥ずかしくない王女になると思うのだが」
「まだお会いして一日目だけど、とっても良い子だと私も思ったわ。でも……もしかしたら聖女の可能性があるかもしれない」
アンドリューは驚いて目を見開いた。
「なんだって? 本当か?」
「私も小さい頃から妖精が見えるのよ。魔法を使う時に彼らの力を借りることもあるわ。他の聖女たちには見えていなかったようだから、確かだとは言えないけれど」
「まさかキャスリンが……」
厳しい顔で考え込むアンドリュー。まさか自分の妹が聖女かもしれないとは思ってもみなかったのだろう。
「いつ聖女の力が覚醒するかは私にもわからない。もしかしたら一生目覚めないのかもしれないわ。でも、可能性だけは頭に入れておいて」
「……そうだな。やはりお前に来てもらって良かった」
アンドリューはキャスリンのことを心配して私を王宮に呼んだのだろうか? 普通の子と違う妹を気に掛けていたのは間違いない。
「アイリス、今から神殿に行ってみないか。三十年振りだろう」
「そうね。王宮に通う以上、避けてはいられないわね」
私はアンドリューに連れられ、かつての私の居場所――神殿へ向かった。




